2-4 入学式
そしてあっという間に入学式の日がやってきた。
今日は、セイ兄様に久しぶりに会える!
確か昨日の夜に転移してくると言っていたから、もう学校にいるのかしら?
なんてちょっとウキウキした気持ちで、制服に着替える。
「姫様、今日はご機嫌ですね。」
ウィッグをセットしてくれているシーナが鏡を覗き込みながら言う。
「分かる?数日ぶりにセイ兄様に会えると思ったら嬉しくて!直接話したりできないのが少し残念だけど。」
「あのー、セイ様と離れてたった四日ですよね?しかも、毎日お城の皆様と通信機で、顔を見ながらお話しされていますよね?多い日は3回くらい‥。一番会話が多いのもセイ様ではないでしょうか?」
シーナがジトっとした目で見ている‥。
いや、そうなんだけど。
「ほら?通信機と直接ってやっぱり違うし。本物には叶わないっていうか。」
「はあー。なぜそこまでセイ様のことがお好きなのに、逃げてここにいるのか全く分からないんですけど。」
「いや、だから、私の感情はブラコンであって、あくまでも兄に対しての感情だから!」
そう。恋愛じゃない。好きだけど、会いたいけど、違うのよ!
そう言い切る私を、シーナはいつまでも訝しむような顔で見ていたのだった。
ハヤテと入学式が行われる、学校のホールに向かうと、大勢の新入生がもう集まっていた。
「おはよう。アンナ、ケイ。」
名前を呼ばれて振り返ると、ノエルとリナが立っていた。
「おはよう。」
「あそこの席が空いてるから、一緒に座りましょう。」
と、リナがちょうど横並びに四つ空いた席を指差す。
「うん。もちろん。」
ちょうど真ん中の席で、壇上がよく見える。
これならセイ兄様がよく見えるはず。
まもなくして壇上に学校長が上がり、入学式の挨拶が始まる。
軽い叱咤激励の後、学校長から来賓の紹介があり、セイ兄様が光と共に壇上に現れた。
会場が一気にざわつき、生徒たちの歓声が上がる。
転移しての登場とは、
魔法学校ならではのデモンストレーション。
あの光からセイ兄様の高い魔力を感じる。
虹色の光をわざわざ転移と同時に出すなんて、手が込んでるなあ。
「今日は、この学園の創立に関わり、この国一の魔力の持ち主とも言われるセイ王子に来て頂きました。王子、挨拶をお願い致します。」
今日のセイ兄様は、黒のビロードに金の刺繍が入った、膝まで隠れる長い王室魔道師団のローブを纏っている。
肩までの髪を後ろで一つに束ね、少し余った髪がなんとも色っぽい。
「うわあ、あれがセイ王子!初めて見たけど、さすがにこの国一の美男子って呼ばれてるだけあるわね。もうキラキラして、目が潰れそう!」
リナが興奮気味に私に囁く。
そうでしょう、そうでしょう。
この国一カッコいいでしょう!
うんうんと頷きを返す私。
セイ兄様は、真ん中のマイクの前に立つと、ふっと私を見て、ニコっと笑う。
わあ、久しぶりのセイ兄様の生笑顔。
こうして一歩離れて見ると、いつもと違って、アイドル的なかっこよさがあるわね。
なんて思ったその瞬間、
「きゃー!」
と、さっきの登場の時の数倍の悲鳴が上がり、会場が熱気に包まれた。
「私を見て微笑んでくれたわ。」「私よ!」「こっちを見たわ」
と、女子生徒が言い合い、喧騒に包まれる。
さ、さすが兄様。微笑み一つがこの騒ぎ!やはりリエラのトップアイドル!
兄様は、シーっとくちびるに人差し指を当て、緩く微笑む。その仕草で、女生徒達は色気に当てられ、ウットリと静かになる。
かくいう私も今のはちょっと心臓にきました。
うっと思わず胸を押さえて、兄様の挨拶を聞く。
「本日は、入学おめでとう!この学校の設立の目的は、王室魔道士団に優秀な若い人材を確保することです。その為のカリキュラムは、私も教師の方々と一緒に考えた難しいものばかりです。どうか気を緩めずしっかり学んで下さい。そして、もちろん成果が出た皆さんを王室魔道士団は歓迎致します。」
セイ兄様の力強い言葉に、男子生徒からも期待の声が漏れる。
はー。相変わらず王子の仕事してる兄様はカッコいい。
普段の私に甘々な顔も良いけれど、キリッとしてる兄様も良い。
おっといけない顔がデレっとしてしまった。
私もセイ兄様のように顔を引き締めないと!
「そして、今日は皆さんにサプライズがあります。」
横で控えていた校長が再びセイ兄様の隣に立つ。
セイ兄様は、徐にローブの紐を解き、ローブを脱ぐ。
ん?
再び女子生徒から「きゃー」と言う悲鳴が上がる。
そして、ローブを脱いだセイ兄様が着ていたのは、私達と同じ学校の制服だった。
え?
「今日から三ヶ月という短い間ですが、私も皆様と交流を深める為、生徒として在籍することにしました!
同じ学校の生徒として気兼ねなく接してください。よろしくお願いします。」
「きゃー‼︎」
今日一番の女子生徒の黄色い悲鳴がホール中に響き渡る。
なんですとー!
え、なんで?
生徒⁈
嘘でしょ?
私との約束は?この学校に来た意味は?!
「アンナ聞いた?!王子と一緒に学べるんだって!王子も寮で暮らすのかしら?」
興奮気味にリナが、私の腕をバシバシ叩きながら話す。
いや、もう理解が追いつかない!
聞いてない、どういうことなの、セイ兄様あっ!
焦りながら壇上のセイ兄様を見つめるけど、目が合わない。
「セイ王子は生徒ではありますが、もちろん相当の魔法の使い手でありますので、講師として皆さんに教えて頂いたり、魔法の見本を見せて頂いたりしますので、生徒の皆様は、この三ヶ月を有意義なものにしてください。」
校長が再び説明をするが、もう内容が全く頭に入ってこないんですけど……。
「姉さん、大丈夫?」
ハヤテがこそっと様子を伺ってくれる。
私は静かに頭を振り
「全く大丈夫じゃないんだけど。」
と、眩暈がしそうなのをこらえながら答えた。