2-3 恋愛活動開始
ちやほやされて育ってきたはずのアリスさんは、何故か自己肯定感低め。
リナ達と一旦別れ、部屋に戻ったところで、私はハヤテに言い聞かせる。
「ハヤテ、私がこの学校に来た意味分かってる?」
「え、俺と2人になるため?」
スパーンとシーナがハヤテの頭をはたき、シレッと机にお茶を出してくれる。
「違う!初恋相手を探しに来たのよ!だから、絶対に邪魔しないでね!」
「でも変なやつは近づかせないようにするのが、俺の仕事だから。あの、ノエルってやつ、絶対やばいよ!姫様に惚れたね。変な目で見てた。」
「いやいや、出会ってそんなすぐ好きになるわけないでしょ?あんな少ししか話してないのに。」
「はー。全く姫様はこれだから。」
ハヤテは大袈裟にため息をつき、やれやれと勝手にソファーに腰を下ろす。
「姫様は、自分の可愛さを分かってない!いくら変装しようとも、その溢れ出る可愛さを全く誤魔化せてないんだから!姫様と恋に落ちるなんて3秒あれば充分だ。」
いやいや、3秒て、さすがに。
ありえないよねとシーナを見ると、何とびっくりシーナも同意していた。
「それはハヤテの言う通りだと思います。姫様は初対面の方相手では、とにかく警戒しすぎでちょうど良いかと。」
「ちょっとシーナまで。でもそれじゃあ恋するの難しくない?」
「うーん、思うにこの計画はじめから無理があるんですよねー。大体諸々含めて姫様にぴったりなお相手は、結局セイ様しかいないと思います。」
「……待って、じゃあ私なんでここに来た訳?」
「だからお相手が見つからなければ、結局帰ってセイ様と結婚なさるんでしょう?ここには結婚前に羽を伸ばしに来たということで。三ヶ月留学気分を楽しんだら、あとは帰って王妃教育を開始されたら如何ですか?」
「絶対に嫌!」
鼻息荒く叫ぶと、勢いよくお茶を流し込む。
本当言うと私も分かってるのよ。
三ヶ月で恋を探すなんてかなりの無理があることを。
しかも変態の護衛付き。
でも諦めきれない。このまま結婚なんて、敷かれたレールに乗る人生は嫌。
セイ兄様が嫌なんじゃない。自分で選びたい。
私の人生なんだから!
この三ヶ月、何が何でも足掻いてみせる。
「決めたわ!」
お茶を飲み干して立ちあがる。
「こうなったら、話しかけてきた男の子、全員に食い付いていく!だから絶対に邪魔しないでね、ハヤテ。」
ハヤテは、露骨に嫌そうな顔をする。
「邪魔はしないけど、護衛だからぴったり横についてていい?」
「それは時と場合によるから、要相談。」
「横がダメなら、声が聞こえる範囲に隠れて見張るからね。」
「それ隠れてる?まあしょうがないわね、姿を見せないようにするなら妥協する。まずは、ノエルよ!好意を持たれてるかも含めて、恋に発展しそうか検証するわ。」
シーナは、お茶のお代わりを注ぎながら、
「うーん、恋って検証するものなんでしょうか?」
と首を傾げる。
「え。何かおかしい?」
「恋に落ちる瞬間って、そもそも検証する暇なく、冷静ではいられず、ストンと落ちてしまうような気がするんですよね。」
「でもじわじわ育む愛情もあるってパパが言ってたから、きっと大丈夫よ!」
そう、とにかくつべこべ言ってる暇はない。
実行あるのみよ。
「そろそろ時間ね、ハヤテ行くわよ!」
そうして私は気合充分に、寮の部屋を出たのだった。
寮を出ると、リナ達が待ってくれていた。
4人で他愛無い会話をしながら、学校へ向かい、まずは教科書を受け取る。
その後は予定通り、校内見学と称してみんなで校舎内を歩き、図書館へ行くことになった。
ノエルはそっと私の横に立つと、教科書が入った紙袋を取って、
「重いでしょ?持つよ。」
と、ニコッと笑う。
わあ、さりげない気遣いが出来る優しい人なのね!
これはポイント高いんじゃない?
「ありがとう。」お礼を言って、ノエルの横を歩く。
しかし、こうして見ると、ノエルもかなり美形なのでは?
背も高いし、女の子受けしそう。
こんな人が、本当に私に好意持った?!
ハヤテの勘違いじゃない?
「アンナどうかした?僕の顔に何かついてる?」
気付かない間にじっとノエルを見つめてしまったようで、ノエルが首を傾げてこっちを見る。
「あ、ごめんなさい。じっと見たりして。ただノエルって、カッコいいし、優しいし、女の子にモテそうだなって思って見てたの。」
「え?!」
ぶわっとノエルの顔が急に赤くなる。
しまった!思ってること、全部口に出してしまった。
私が慌てると、ハヤテと一歩前を歩いてたリナが後ろを振り返る。
「アンナってば、ノエルが気に入った?」
リナがすっごくニヤニヤしてる。
「気に入ったっていうか、本当にそのままの意味で、ちょっと疑問に思っただけなの。」
「そうねえ。確かにノエルは昔からモテるわよ。」
何故かとても鼻高く答えてくれるリナ。
「中等部でも女の子にぎゃーぎゃー纏わりつかれて鬱陶しかったわよねえ。」
「なんでリナが鬱陶しがるんだよ。」
ノエルが呆れたようにリナの頭にポンっと手を置く。
「だって、ノエルは優しいから、その気がなくてもハッキリ断らないし、期待した女の子が増える一方だったじゃない。」
なるほど。かなりモテていたと。納得。
「僕は一応断っていたつもりだったんだけどな。でもいつもリナが、しつこい子達を追い払ってくれてたから、助かったよ。」
ほう。リナさん、ひょっとしてあなたもブラコンでしょうか?
今度はこっちがにんまりと思わず笑みを浮かべる。
なんか同じ匂いを感じるわよ。
「だ、だって、あんな子達、ノエルの邪魔しかしてなかったじゃない!でも、アンナならいいわよ、許可するわ!」
「へ、私?」
急に矛先が向いてびっくりする。
「うん。アンナはなんていうかガツガツしてないし、私も仲良くできそうだし、何より美少女!ノエルの横にいてもノエルが劣るくらい。」
「流石にノエルに失礼だよ。」
ね?とノエルを見ると
「僕もこんなに可愛い女の子、初めて見たよ。だから、アンナみたいな美少女にカッコいいって言われて嬉しい。」
とまた顔を赤くして言われる。
「え。あ、あのこちらこそありがとう。」
釣られて私も顔が赤くなってしまった。
パタパタと手を振って熱を冷ましていると、ジトーっとハヤテがノエルを睨んでいる。
「そっちが許可しても、こっちが許可しないからな!」
こらー!邪魔するなって言ったでしょうが!
「はは、アンナの前にケイを攻略する必要がありそうだね。」
と苦笑いするノエル。
「ご、ごめんね。ケイのことは気にしないで。」
「ううん。アンナに想いを伝える時は、事前にケイに許可を取るよ。」
「え、それって?」
……まさかこれはもしかしなくても。
「うわ、何言ってるんだろ、僕。ごめん、忘れて。出会ってすぐなのに、こんなの困るよね。」
さっきよりもっと赤い顔で慌てるノエル。
間違いなく、好意を持たれてるよね、これ。
きたきたきたー!
恋の予感!
シーナの小説によると、フラグが立ってるんじゃない?!
いくら経験のない私でも、ノエルが私に好意を持ってることを感じとってしまう。
え、どうしよう。
こういう時、どうしたらいい感じに進めるわけ?
思わずオタオタしていると……。
「ごめん、本当に気にしないで!まずは友達になってくれれば嬉しいから。」
と、ノエルが赤い顔で手を差し出す。
ああ、そうよね。
まずはお友達からって言うやつよね、ここは。
「こちらこそ、どうぞよろしくね。」
私は差し出された手を握り、握手する。
するといきなり
「はい、終わりー!」
握って5秒経たない内に、ハヤテが素早く手を引き剥がす。
「姉さんと気軽に接触しないでくださーい。」
「ちょっと!いい加減にしてよ。」
思いっきりハヤテを睨みつけるも、全く意に返さない。
「うーん、相当なシスコンね。ノエル頑張って。」
リナがさらにニヤニヤしながら、ノエルに声をかける。
とにかく、これは一歩前進じゃない?
何だかんだで意識し始めて、恋が始まるって言うし。
(シーナの恋愛小説より)
このまま仲良くなれば、お付き合いすることになっちゃったりして!
きゃー、いい感じ!
そんな心の中で一人大興奮の私と、飼い犬の如く、牙剥き出しで威嚇しまくるハヤテ。
ニヤニヤ楽しんでいるリナと、まだ少し顔が赤く困った表情のノエルで、噛み合っているのかいないのかよく分からない会話をし、深まっているのかいないのかの友情を育みながら、1日を終えたのだった。