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14 出発

そうして荷物の用意をしたり、ハヤテに軽い魔法を教えたりしているうちに、あっという間に出発の日がやってきた。


すっきりと晴れた青空。春先の心地よい風。

正に出発日和。

記念すべき旅立ちの日だ!


王宮の城門前で、私とハヤテは顔を見合わせた。

「三ヶ月よろしくね、ハヤテ。」

「姫様の為なら何でもするから、任せて!じゃあ、あっちでね!」

そうしてハヤテはあっという間に姿を消す。


サイラまでは、兄様の転移魔法で送ってもらう。

膨大な魔力を持っている兄様といえども、やはり一人しか一緒に転移することはできない。

それでも普通魔導師達は自分一人しか転移できないことを考えたら破格の魔力だ。

しかもサイラまでかなりの距離があるため、普通は何回か休憩をし、魔力を回復しつつ移動するらしいのだが、兄様は一回でサイラの寮の部屋まで行けるらしい。 

流石に魔力がかなり減ってしまうらしく、その日は魔法を使うことはできないらしいけど。


ハヤテは、影独自の移動術がある為、今日中には追ってこれるということで、一人で先に行ったのだ。

ちなみにシーナは荷物と一緒に馬車でおととい旅立っている。先に寮で荷物の整理をしてくれているはずだ。


しかしいよいよ出発するのかと、ワクワクする気持ちが抑えきれない私を、絡みついて止めている二人がいる。

「アリスー!今から考え直せって、それか一週間、いや3日くらいで帰ってこい!」

「アリス、お願いだ。パパを置いていかないでくれ。仕事が手につかない!国が傾いて、国民が路頭に迷ってしまうじゃないか!」

いやいや、何て言う重い脅しを掛けてくるんだ。

そしてカイはともかくとして、一国の王が、娘の腰に縋りついて泣くのはやめて。

そして娘がいないくらいで、国民が困るくらい仕事をサボるのはやめて。


「陛下、家臣や兵達も見ていますのでもうそのくらいに……。」

宰相がかなり困った顔で止める。

一応、リエラの王女である私の出発に、沢山の使用人や家臣や兵達も何かの行事かのごとく集まり、見送りに来ているのである。


「パパ。恥ずかしいから背筋伸ばして!永遠の別れじゃあるまいし。マメに通信機で連絡するから。」

「絶対毎日連絡するんだぞ、分かったね?」

「う、うん。毎日出来たらするよ……」

パパはようやく涙を止めて立ち上がった。

あからさまに宰相がホッとする。

こんな王ですみません。


「もう二人ともアリスがいつまでも出発できないでしょう。いい加減諦めなさい。」

一番泣くと思っていたママが、余裕の笑みを浮かべる。

なんだか嫌な予感がする。

引き止めない上に、二人を宥めるなんて。

それにママの後ろに、気のせいじゃなければ、旅支度のような荷物が纏められているんだけど……。

あと明らかに何処かに出かけるドレス姿に帽子まで被っているんだけど。

ママの侍女達も明らかに外出しようとしているよね?!

まさか‥

「ママ、その荷物と格好なんだけど、ママも何処かに行くの?」

「うふふ、もちろんママもサイラに行くのよ。」

やっぱり!ついてこようとしてた!


「あのね、ママ。絶対ダメ!」

「どうして?パパ達はいざという時、国を守らないといけないけれど、ママにはそんな責務も力もないし、アリスと一緒に行ったって構わないでしょう?」

きょとんとした顔で言うママ。

いやいや、王妃の仕事があるでしょう!

それに移動や警備や宿泊場所とかどうするのよ!

そして何より……

「私は身分を隠して行くの!ママがついてきたら即座にバレるから絶対ダメ!」

私がキッパリ告げると、ママは途端に目を潤ませる。

「そんな、ママを置いていくって言うの?」

「ごめんなさい、これだけは絶対にダメ!」

「そうだぞ、シュリー。抜け駆けは良くない。諦めなさい。」

パパがさっきとは反対にママを止めにかかる。 

カイも、「母様だけズルイ」とか言って、荷物を取りあげる。するとママはとうとう号泣すると、私に抱きつく。

「酷いわあ!アリスちゃんがいない三ヶ月なんて、どうやって過ごしたらいいの?きっと衰弱して死んじゃうわ!」

ああ、命を懸けて脅してきた……。


私は静かにこの地獄の見送りを見守っていたセイ兄様に、助けを求めるように視線を送る。

セイ兄様は分かったとばかりに私に頷き、母様をベリっと私から剥がすと

「母様。三ヶ月なんてすぐだよ。それに今アリスを行かせてあげないと、家出されるかもしれないよ?その方が困るでしょう?」

とハンカチで母様の涙を拭きながら宥める。

なるほど、そう言ってパパとママを説得したのね。

……しかし家出の件、もしかしてバレてないか?

まさかカイがチクったんじゃないでしょうね?!


「何よ、一番ズルイのはセイじゃない!アリスに堂々と付いていくんだから!」

ママが大人気なくセイ兄様を非難する。


これは本当だ。

ただ、兄様は魔法学校開校式に来賓として招かれており、挨拶を頼まれているから、仕事としてなのだが。

ちなみにこの仕事は、本来はパパの仕事で、もちろんパパは自分がいくと主張していたが、急遽他の国の大使が挨拶にくることになり、セイ兄様に変わったのだ。

私達家族は、全力でセイ兄様が何らかの手を回した説を信じている。


「ママ、そしてパパ。カイ。とにかく三ヶ月だけだから、ワガママを許して?」

私が最後の必殺技、あざとスマイルを繰り出し、こてっと首を傾げると、途端に三人の力が抜ける。

「ま、まあ可愛い子には旅をさせよと言うしな。」

パパはそう言うと頭を撫で

「離れた方が愛が深まるって言うものね。」

ママは手をぎゅっと握る。

「しょーがないなぁ。俺がアリスのワガママに付き合うのはいつものことだしな!」

カイはぎゅっと抱きしめて、ぽんぽん背中を優しく叩く。

こうして私の必殺技が決まり、今度こそ見送りは終了した。


「じゃあアリス行くよ?」

セイ兄様が私の手を握る。私も強く握り返して頷いた。

「みんな、行ってきます!」

その瞬間、ぐるぐるーと凄い魔力が絡みつく気配がして、一瞬の暗転の後、私達は魔法学校の寮の部屋に降り立っていたのだった。


これで第一部を終わります。

次回はセイ兄様視点。


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