13 発明品
「さっき言ってたハヤテも一緒に通うって、影としてじゃなく、普通に一緒に通うんですか?」
「アリスは黒髪黒目に変装するんだよね?ハヤテは、弟として通えばいい。あそこは年齢関係なく一緒のクラスだし、堂々と側にいれるから。」
セイ兄様の淡々とした説明に、ハヤテは目を輝かせて
「やったー!姫様の側に一日中居れる!」
と影とは思えない幸せなハッピーオーラを放出する。
「ただし、絶対にアリスに手を出すな!万が一、間違いがあれば、陰を島ごと消す。」
そんなハヤテの幸せオーラを一気に叩き潰す恐ろしい発言が、セイ兄様から特大の冷気と共に放たれる。
ひぃぃー!だめ、島ごととか絶対ダメ!
関係ない影の一族、全部滅ぼすの絶対ダメ‼︎
兄様が言うと、本当にやりかねないし、出来ないことはきっと言わないから、本気で怖い。
私は震えながら
「ハヤテ、変なことしないでね。」
とハヤテに命令する。
「もちろん姫様の命令は絶対!それと、心配しなくても俺は別に姫様と恋仲になりたいとかないからー。」
さすがのハヤテも兄様の特大冷気にビビったのか、セイ兄様からは距離を取りながら言う。
「そうだったんだ。お前の行動、ストーカーちっくだから、てっきり恋愛感情があるかと思ってた。」
カイが意外そうな顔で言う。
「違う、違う。俺がなりたいのは、姫様の下僕だから。下僕というかー奴隷というかー。ただ側に居て、永遠にその可愛い口から放たれる命令聞いてたいんだよねー。」
うっとりとするハヤテ。
どうしよう、ストーカーよりやばい気がする。
そして変態度がさらに上がってきてる。
あ。さすがの兄様もちょっと引いてる。
凄いよ、ハヤテ。
「ただ、あそこ魔法学校なんだよね?俺、魔力ないから魔法使えないけど、どうするの?」
確かに。影の一族は基本魔力はないんだよね。
その分、身体能力が並外れてはいるし、影にしか使えない特殊な術式を使える。
兄様は一旦私を膝から下ろすと、ジャケットのポケットから、小さな魔石がついているチョーカーを取り出した。
「これを見につけてみて。」
ハヤテはチョーカーを手に取ると、魔石をじっと見つめる。
「この石、凄い魔力が込められてるね。これってもしかしなくても、第一王子の魔力?」
「そう。僕の魔力を込めてある。以前から開発していた試作品なんだ。魔力がない人でも魔法を使えるようにするアクセサリー。」
それはまた恐ろしく凄いものを開発してしまったのではないだろうか。
サラッとこんなところで、発表して良いのか。
兄様の天才ぶりに末恐ろしくなる。
「まだ試作品だから完璧とはいえないけれど、周りに漂う魔力を勝手にチャージして放出出来るようにしてある。試してみる?」
ハヤテは、いそいそとチョーカーを首に結ぶと
「いいの?うわー魔法使ってみたかったんだよなあ。てか、魔法って呪文か何か唱えるの?」
と、私に聞く。
「あ、そうか。使ったことないから分かんないよね。こどもが一番初めに教わる魔法をやってみせるから、真似してみて。」
そう言って私は、手を上に向けて
「小さな光よ」
と、唱える。
すぐに手の中にポワッとランプのような光が現れる。
「頭の中にこの光と同じものをイメージして、今の呪文を言ってみて。」
ハヤテは恐る恐る手を上に向けて
「小さな光よ!……できた、すげー!」
ハヤテの手にも同じくらいの光が現れた。
大興奮のハヤテは、手の光に顔を近づけてみたり、もう片方の手をかざしてみたりして、はしゃいでいる。
『いや、兄様がすごすぎない?』
カイと思わず顔を見合わせて、ハモる。
伝説級の大発明だと思うんだけど、これ。
確かにリエラの暮らしは、魔道具により、魔法が使えない人でも魔法の恩恵を受けられる。
ただ、実際魔力が全くない人が、自分が使えるようになるのは話が別だ。
「兄様、これって父様たちは知っているんですか?」
カイが恐る恐る聞く。
「いや、僕独自で研究してたものだから、まだ言ってない。実用化テストをしてからと思ってたんだけど、今回良いテストになりそうで良かったよ。」
「兄様、悪いこと言わないから、とりあえず父様にだけ言っておいた方がいいですよ。多分国の重鎮達が揃って腰抜かすと思います。」
私もカイの横でうんうん頷く。
「これ特許取ったら、もう税金集めなくていいくらい潤っちゃうんじゃないでしょうか。」
「そうか、だったら、またアリスの欲しいものをたくさん買ってあげれるね。」
兄様はそう言って笑い、私をまた膝に乗せる。
そんな莫大なお金で欲しいものなんて無いんだけど……。
なにせテーマパーク作っちゃう人だから、ちょっとでも何かが欲しいと言うと恐ろしいことになりそうで、なるべく兄様には、欲しい物を言わないようにしてるくらいなのだ。
「とりあえずこれで学校には通えると思うから、ハヤテ頼んだよ?」
「分かった!まあ言われなくても当然姫様について行くつもりだったし、丁度よかった。」
「あ、ひとつだけ注意。余りにも強い魔力を必要とする魔法を使おうとすると、魔石が耐えれなくなって壊れてしまうから注意してね。」
「ちぇっ、せっかくだから山とかに穴空けて見たかったんだけどなー。」
と恐ろしいことを言い出すハヤテに
「ハヤテ、それ魔石が壊れなくても駄目だからね!」
と、慌てて止める。
「姫様の命令なら聞くー」
語尾にハートマークが付いてそうな感じでいい返事をするハヤテ。
セイ兄様は苦笑いしながら
「じゃあ二人分の制服を手配させるから、荷造りが終わったら教えて。」
と私の口にレモンの蜂蜜漬けがのったプチタルトを詰め込む。
むぐむぐ。あ、これパティシエの新作だ。美味しい。
「ふふ、アリスは本当に可愛いね。このままどこかに閉じ込めちゃおうかな。」
セイ兄様の瞳が仄暗い光を蓄える。
ひ、ひぇっ。これは小説の王子様の言ってたヤンデレ発言。
軽く放たれた一言から本気さを感じる。
私は膝から降りようと体をよじるけれど、お腹に回された腕は緩まない。
「怖い冗談言わないでください。万が一そんなことしたら兄様とは、一生口聞かないですからね!」
「それは悲しいなあ。アリスの可愛い声が聞けなくなってしまう。大丈夫、そんなことしないよ。」
アリスが他の男に目を向けない限りね……
ボソっと兄様は最後になにかを呟いたけれど、よく聞こえなかった。
ん?と言う顔で兄様を見ると、「なんでもないよ」
と、兄様はいつもの笑顔で、もう一つお菓子を私の口に突っ込んだのだった。
次で一区切りの予定です。