12 準備
さすがセイ兄様というべきか、次の日にはパパママへの説得及び入学申込みが完了していた。
二人は兄様に何を言われたのか知らないが、渋々納得したらしい。
ママにはやはりというか、話を聞いてから、すぐに部屋に駆けつけて泣かれはしたけれど。
しかし心は痛むがしょうがない!
人生がかかっているのだ。
そうと決まれば、来月開校の学校には、もう生徒たちは、続々と入寮し始めているらしく、私も急いで準備を始めることになった。
寮の部屋には外国からの留学生なとが来ることも想定して、少しだけ特別室という広い部屋が用意されているらしい。
そこだけ続き部屋で使用人部屋があるらしく、シーナも一緒に行くことになった。
寮では朝晩、食堂でご飯が用意されているし、お昼は学校の食堂でランチが食べれる。
洗濯もまとめて寮母さんがしてくれるらしい。
ただ部屋の掃除や、着替えなどは当然と言うべきか、自分ですることになる。
普段全く自分で何もしない、いやもちろんできるんだけど、そこは腐っても王女。
箱入り、いや城入り?娘の私。周囲に自分でするな、使用人の仕事を取ってはいけないと言われ育ってきた。
そんなわけで
セイ兄様にシーナは絶対一緒にと条件をつけられたのだ。
「アリス様、持って行くお洋服はどうしましょうか?」
荷造りを進めてくれているシーナが、クローゼットの前から声をかける。
「そうね。普段は制服があるらしいから、お休みの日に着る洋服、数着でいいかな?変装して、お金持ちのお嬢様ってことにするらしいから、それっぽい服を選んでくれない?」
「かしこまりました。でも変装ってどういった変装をされるんですか?アリス様は多少ごまかしても、溢れる美少女っぷりですぐバレるような気がするのですが……」
美少女部分は置いておいて。
いくら王都から離れても、王族の顔は大抵の人は知っている。
主に兄様やパパのせいなのだが……。
一昔前までは、人々の顔を伝える方法は、絵という表現手段しかなかったのだが、おじいちゃんの代にカメラが発明され、写真という手段ができた。
その時点では、まだ画質も荒く、色もモノクロだった。
しかし、パパや兄様が仕事中も私と離れるのが寂しい。
いつだって私の存在を身近に感じたいと、いつもの親バカアンドシスコン病を発症。
私の写真を持ち歩いていても、なんだか写真が荒く、臨場感がなく余計寂しいと、2人で何やら研究し、カラーの画質がいい写真が撮れてしまう、カメラを開発したのだ!
兄様はそれだけでは飽き足らず、既存の音声のみの通信機器を改造し、半径1メートルを鮮明に映せる通信機を開発した。さらについこの前、人物を立体化することまで成功させていたのだ!
この立体化の状態も、特殊な魔石の上に常時浮かび上がらせておくことが可能で、セイ兄様の発明に喜んだ親バカなパパが、各都市の役所に王族立体家族写真を配置したのだ。
家族五人、なぜか私が真ん中で微笑んでいる立体画像を見せて、自分の娘はこんなに可愛い、仲良し家族だと国中の地方の国民に自慢しまくっているらしい。
本当に色んな人に迷惑だからやめてほしい。
そして何より恥ずかしい。
これにより王族の顔はリエラ中、津々浦々知れ渡り、美形な王子たちのファンクラブまで発足されているらしい。
ちなみに私のファンクラブもあったそうなのだが、活動内容が危ないからと、兄様に根絶やしにされていた。
なぜ危ないのかは教えてくれなかったから、未だにどんな活動をしていたのかは謎のままだ。
閑話休題。
「外見は髪を黒く染めて、目も瞳の色を変化させる魔術で
黒くして、この伊達メガネをかけるの。」
そう言って、私は少しフレームが大きな丸い黒縁メガネを取り出して掛けて見せる。
「きゃー、メガネ美少女!めちゃくちゃ新鮮で可愛いです!……ん、やっぱり意味ないのでは?」
シーナさん、顔が興奮で赤くなってます……。
え、意味ない?
メガネ掛けたら普通変わらない?
「で、でも一目では分からなくない?毎日髪型も地味にしたりして、もっと工夫するし!」
「うーん、そうですねえ。だったらウィッグはどうですか?アリス様は、金髪のふわふわロングウェーブの髪
というイメージですから、黒髪の肩くらいまでのボブのウィッグを被るとか!」
「それ良いわね!ウィッグ早速用意してもらえる?」
「かしこまりました!ほかにも学校でご入用の文房具なども一緒に手配しますね。」
そう言って、シーナが部屋を出て行く。
入れ替わりで、ノックの音が響き、セイ兄様とカイが部屋に入ってきた。
別の侍女がすかさずワゴンに兄様用のコーヒーと、私とカイのお茶、お菓子を机に用意してくれる。
「今日も相変わらずの可愛さだね、アリス。学校の準備は進んでいる?」
セイ兄様は、わたしを抱っこして、ソファに腰掛けた。
「はい。今色々荷物を詰めているところですよ。」
主にシーナがだけど。
「そう。じゃあ来週にはもう行けるかな?」
「大丈夫と思いますよ。入学式まであんまり時間がないんですよね?」
「そうなんだ。みんなが入寮し始めているから、あまりギリギリになっても、目立ってしまうからね。」
私の頭を撫でながら、兄様はにっこり微笑む。
兄様も今日も絶好調に美形だ。
「それなんだけどさー、学校に俺も一緒に行っちゃダメなの?」
カイが向かいの1人掛けの椅子に座り、紅茶を飲みながら不貞腐れた様子で聞く。
「ダメ!すぐバレるし、大体カイが側にいたら、恋ができないじゃない!」
「えー、だってさ、アリスと三ヶ月も離れるなんて、俺耐えれる気がしない。しかも変な野郎に捕まってたらとか思ったら、気が気じゃない。」
おおっと、カイもシスコンが重度なことを忘れていたわ。
「まあまあ、カイ。今回は我慢して。」
セイ兄様も私を抱っこしながら、器用にコーヒーを取ると優雅に一口飲み、騒ぐカイを宥める。
「兄様は気にならないんですか?」
「カイ、僕が気にならない訳ないだろう。あれから考えたんだけど、ハヤテも一緒に通ったらどうかな?」
「え?」
ぎくーん。
未だにセイ兄様からハヤテの名前を聞くと焦ってしまう、私とカイ。
「な、なんでハヤテを?」
カイは声が上擦って、紅茶のカップを落としそうになる。
誤魔化すの下手すぎか!
「今まで黙ってたけど、ハヤテはカイじゃなく、アリスの影でしょう?」
ビクッと私とカイは同時に肩を揺らす。
「な、な、なんで?なんでそんな……」
兄様と接している背中が凍りつく感覚がする。
「ハヤテの姿をたまに見かけるんだけど、アリスしか見てないからね。しかも明らかに異常ともいえる熱の籠った目で。」
ハーヤーテ!
だからだから気をつけてって!
なるべく!出来るだけ!
影らしく忍んでって言ったのに!
「もう誤魔化さなくていいよ。核心はあるし。アリス、彼を呼んで。」
兄様の反論は許さないという目を見た私とカイは、顔を見合わせて観念した。
「ごめんなさい。兄様を騙すつもりはなかったの…。ハヤテ、出てきて!」
シュタッとハヤテはすぐに天井から姿を現した。
「姫様ー。呼んでくれたー!」
すぐさまいつものように私に抱きつこうとすると
「痛っ!」
あと数センチのところで、バチっと静電気のような音が発生し、ハヤテが思いっきり手を弾かれる。
あ、セイ兄様の魔法が発動してる!
軽く雷の攻撃魔法を一瞬で繰り出したような……。
「アリスに意味なく触らないでくれるかな?」
兄様は私をぎゅっと抱え直し、強烈に恐ろしく低い声を出す。
兄様から絶対零度の最強魔力が放出される。
降りたい、この膝から。今すぐに!
「あー、第一王子か、どうもー。バレたようで、改めまして、姫様の影でっす!」
そんな恐ろしげな兄様に、ハヤテは軽ーくに挨拶して、また私に懲りずに抱きつこうとし、魔法で弾かれる。
いや、図太いな。
兄様のこのオーラを無視できるなんて、ハヤテって本当にある意味凄いかも。
は!これがセイラン家の力か?
なんて私が頭の中でハヤテに感心してる間に
「ハヤテ、ばか、ちょっと下がれって。アリスから離れろよ」
カイが焦って、ハヤテを遠ざけようとする。
「やーだー。俺は姫様の影だから常に側にいるんだもん。」
当然というか何というか、カイの命令ではハヤテは動かない。
はあ、仕方ない。
「ハヤテ、ややこしくなるから離れて。」
「はい!」
私の一言で、ハヤテはカイの横に膝をつく。
よし、今日も私の命令だけはちゃんと聞くようね。
「とりあえず色々と問題はあるようだけど、ハヤテはセイラン家だから、護衛としての力は申し分がない。だから、学校にハヤテを連れていきなさい。」
そんな様子を見たセイ兄様はキッパリとそう告げた。