表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/21

10 告白

兎にも角にも、まずは城を抜け出すよりも、

ダメ元でセイ兄様と話し合ってこいとカイに正論を言われ、

私はため息をつきながらカイの部屋を出て魔導塔に向かう。 

魔導塔は、城の奥の王族居住区からは、中庭を通りぬけて少し離れた場所に立っている。


満月に近い月が出ているせいで、夜も更けているのに、明るい中庭をとぼとぼ歩く。

護衛がポツポツ立っているけど、夜はとても静かだ。

今は春先ということもあり、少し夜は冷える。

私は肩にかけたショールを引っ張りながら考えを巡らせる。


はー。兄様と話し合いって言っても、なんて言えばいいんだろう。

そもそも、兄様があの約束を本当に守ろうとしていたなんて。確かに兄様は私との約束は絶対に破らない。

だけど。

いくらシスコンっていえども、これはちょっと……。

兄様も私でいいのかな?

今まで恋人とか好きな人の話聞いたことないし。

パパママからいくら私と結婚しろって言われても、納得できる?

私はできない。

もちろん王女の立場はわかってる。

どうしても必要なら政略結婚も受けざるを得ないと思ってた。

ただ、初恋くらいは済ませたい!

かなわくても、一時の思い出にすぎないものであっても。

でも……


私は兄様のことは、とりあえず兄以上に思えません。

初恋を済ませたいので、相手を探しにいきます。


…………これ、兄様に言えるかな?

いや、無理だな。

うん、無理。

想像しただけで怖い。

やっぱりここは城を抜け出す方法を考えよう、そう思って、部屋に戻ろうと踵を返したところで


「アリス?」

今、まさに会おうとしていた人の声が聞こえた。

恐る恐る振り返ると、やはりそこにはセイ兄様。

「こんなところで何をしているの?」

スタスタと足を早めて、あっという間に私の手を捕まえたと言わんばかりに握る。

「え、え〜と、魔導塔に、セイ兄様に会いに行こうかなーって思いまして。」

しかし怖くてやめたことは黙っておく。


「僕に?」

兄様はパァーっと花が咲きそうなオーラの笑顔を浮かべ、私のほっぺたにキスをする。

「アリスがわざわざ僕に会いに来てくれただなんて嬉しいな」

「あ、あはは。セイ兄様は何をしていたんですか?」

「ああ、僕は一度部屋に戻ってお風呂に入って、そこからもう一度魔導塔に戻って、キリがいいところまで研究しようかなって。」

「そこまでしなくても!セイ兄様が倒れちゃいます。」

そもそも私は、家の移動を望んでいない。

よってその魔法を必要としていないのだ。

「大丈夫だよ、慣れてるから。心配してくれてありがとう。アリスは優しいね。」

セイ兄様は、うんと甘い顔で私の頭を撫でる。


ああー、ダメだ。

私はこのセイ兄様の色気ダダ漏れ甘やかしに弱い。

セイ兄様は、声までも甘いのだ。

低くて甘い声が私の耳をくすぐって、力を抜けさせる。

もう!かっこいいな!

中毒のようにもっともっと甘やかしてもらいたくなってしまう。

ああ、裏切りたくないな。大好きな兄様を。

心の底から湧き出る思いから、思わずセイ兄様にぎゅーっと抱きつく。


「アリス?どうしたの?何かあった?」

当然拒むことはせず、むしろ抱きしめ返したセイ兄様の声が優しく降ってくる。

「……お願いがあるんですけど。」

「もちろん。アリスのお願いなら、何だって叶えてあげるよ。」

「話を聞いてくれますか?」

体を離して、セイ兄様を見上げる。

「そんな可愛い顔で上目遣いに言われたら、聞かない訳にいかないよ。そこのベンチに座ろう。それとも部屋に戻って、お茶を飲みながら話す?」

「いいえ、ここで。」

部屋に戻る間に決意が鈍りそうだ。

せっかく切り出したんだから、今言うしかない。


私が中庭のベンチに座ろうとすると、兄様が「待って」

と、ハンカチを引いてくれた。

あーそういう王子様な行動が本当に似合う。

兄様って王子に成るべくして生まれたんだなって、心の底から思うよ。 


「あのね、兄様。婚約のことなんですけど……」

「うん。楽しみだね、婚約式。結婚式まで時間があるから、模擬結婚式みたいにして、リハーサルのつもりで本格的にするのもいいよね。」

兄様が私の手を取って、指をからませる。

「……そのことなんだけど、兄様って本当に私と結婚したいんですか?約束を果たすっていう義務的なことじゃなくて?」

「当たり前だよ。僕はアリスが好きなんだから。」

何を言い出すの?ときょとんとする兄様。

「その好きって、妹としてってことですよね?恋愛的な意味とかじゃなくて。」

「もちろん恋愛感情だけど?」

知らなかった?と平然といわれ、私は唖然とした。


「え、え、うそ、知らない。いつからですか?!だ、だって告白とかされてないですし!」

「毎日好きって言ってるじゃない。」

「それは言われていますけど、カイも言うし、当然妹に対してだと思ってました!」


あの、毎日当たり前のように繰り出された『愛しいアリス』や『大好きだよ』『僕の宝物』等々、甘すぎるセリフは全部シスコンゆえと思っていたのに。

まさかまさか恋愛の意味での愛の言葉だったとは!

途端に顔がぶわあーっと赤く染まる。

兄様に毎日のように愛を囁かれていた!

その事実にくすぐったいような、背中がゾワゾワするような恥ずかしさが込み上げる。


「アリス、僕はアリスのことを妹だと思ったことは一度もない。」

真っ赤な顔の私を見つめ、兄様が衝撃的な言葉を告げる。

それはある意味、私にとって、目の前が真っ暗になるようはショックな事実だった。

両親を亡くして、もちろん悲しかったし、寂しかった。

でもそれを乗り越えられたのは、新しい家族のおかげだったからだ。

セイ兄様とカイは、私にとってかけがえない兄。

自慢で大好きで大切な兄たち。

それが一方的な思いだったのかと、思わず涙がこぼれ落ちる。

「ごめん、びっくりさせたね。愛しい僕のアリス、泣かないで。」

兄様は慌てて、私の目尻にキスを落とし、私を抱き抱え、膝の上に乗せる。

月明かりに兄様の綺麗な金色の目が煌めく。

「聞いて。僕はね、初めて母様に連れられて城に来たアリスに一目惚れしたんだよ。あの時から幼いながらに運命を感じていたんだ。妹じゃなく、一人の女の子として、僕は一生アリスのことを守って、愛していく。そのために生まれてきたんだってね。それは、アリスが本当の家族になってからも変わらなかった。」


兄様の優しい声から語られる思いに、胸が大きくドクンと音を立てる。

そしてドッドッとかつて無いほど、鼓動が早くなった。

目の前にはこの世界一じゃ無いかと思われる美形の王子様が

自分を見つめている。目をキラキラさせて。


ええ?

まさか。出会った瞬間。一目惚れ?


兄様の告白を思いっきり頭の中で噛み砕いて咀嚼…

うん、怖くない?冷静に考えて。

びっくりして涙が引っ込んだんだけど。

いや、あると思うよ、一目惚れは。

ただ、ただね、私達が初めて会った時って、

兄様が4さいぃー、私なんと2さいぃ!

私なんか赤ちゃんに毛が生えたようなもんじゃない?

控え目に言って幼女!

いくら子供の時の私がお人形のような天使のような、人間ばなれした愛らしさを持っていたとしても!

それ、運命感じちゃう?

そしてその小さい時に感じた不確かな思いを、温めてきちゃう?!

相当こじらせてるな、これは。

やはりヤンデレなんじゃないだろうか?シスコンではなかったわけだし!

なんだか寒気がしてぶるぶる震える私に

「アリス、寒い?やっぱり部屋に入って話をする?」

そう言って上着をかけてくれる兄様。

はい、寒いです。

背中が。いや心が。得体の知れない何かが!!


「だ、大丈夫です。ここがいいです。ここで。」

「そう?あ、アリスのお願いって、なに?」


ひ、ひいぃー!

ここで本題に戻るんですか?

言ったら無事でいれる、これ?

でも、今話をしなければ、本当に逃げるしかなくなる!

兄様の上着をギュッと掴んで

私は意を決して、口を開いた。




ブクマ、評価して下さった方、こんな拙い小説を読んで頂いている方、ありがとうございます。

嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ