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第20話 気付かされた私

「あーん!もう…トビーさんのせいで授業に遅刻しそうだわっ!」


急がないと2時限目の講義に間に合わない。次の講義は文学史でこの先生は特に厳しいことで有名だった。1分でも遅れれば教室を締め出されてしまう。


「急がなくちゃ!」


廊下を必死で走り抜け…。


ガラッ!


扉を開けて、何とか間にあった。


「ハァ…ハァ…ハァ…ま、間に合ったわ…」


空いている一番後ろの席に座った時、視線を感じて顔を上げ…思わず心臓が止まりそうになった。何と、アルトがじっと私を見つめていたのだ。


ど、どうしよう…あんなに勢いよく扉を開けたものだから目立ってアルトに見つかってしまったのだ…。


なるべく視線を合わせないように授業の準備を始めていると講義開始のチャイムが鳴り響き、文学史の教授が教室に入って来たことで、アルトの視線が私からそれてくれた。


良かった…。とりあえず今日は何とか1日アルトの事を避け続け…家に帰れば…。


しかし、そこまで考えてがっくりした。

そうだった。放課後はトビーと一緒に服を買いに行く約束をさせられてしまっていたのだ。


あぁ…気が重い…。


こうしてトビーのせいでろくに講義に集中出来ないまま、時間は過ぎていった―。



****


 長かった90分授業が終了し、教授が教室を去った途端にアルトがこちらを振り向いた。


大変だっ!


やっぱり出来ればアルトに捕まりたくは無かった。いきなり婚約破棄を告げられて、3ヶ月間待って欲しいと説得出来る自信なんか私には無い。急いでカバンの中に教科書やノートをかき集めるように入れると、カバンを抱えて私はすぐに教室を飛び出した。

背後で何やら私を呼ぶような声が聞こえたけれども、そんな事は構っていられない。


兎に角今日は1日、アルトから逃げ続けるのだから―。




****


「とりあえずここまで逃げれば大丈夫よね…」


私は学生食堂に来ていた。ここには大勢の学生たちが食事をしに来ているので、私の様な背の小さい学生は人混みに紛れて目立たないからきっとアルトには気付かれないだろう。


「…」


大勢の学生が友人たちと楽しげに会話しながら食事を進めている姿をぼんやりと眺め…その時になって私は初めて気が付いた。

そう言えば私は入学以来、いつでもアルトにくっついていた為にアルトと、アルトの友人達以外、友達と呼べる存在がいなかった。


私は…孤独な人間だったのだ。


まさか、こんな状態になるまで自分が置かれていた状況に気付いていなかったなんて…。


「馬鹿ね…私ったら今頃そんな事に気付くなんて…」


でもこれからはアルトと離れなければいけなくなるかもしれないのだ。今回の事はある意味自分の事を見直す良いきっかけになったのかもしれない。


「とりあえず、何かお昼を買って来なくちゃ…」


私は重い足取りで、大勢の学生達で混雑している注文カウンターへと向かった―。




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