第19話 買い物の約束
「とにかく…期間を設けて下さい」
トビーへのアドバイス終了後、私は彼に言った。
「期間…か？何の？」
首を傾げるトビーに脱力感に襲われる。
「あの…私の話聞いていましたか？」
「聞いているに決まっているだろ？」
「だったら何の期間の事を話しているか分りますよね？悲しいことにアルトはビクトリアさんとの恋愛を成就させたい為に邪魔な私と…ウウゥ…婚約破棄したくてたまらないはずなんですぅ…だ、だから3か月間だけ婚約破棄を待って貰って…そ、その期間中に…トビーさんがビクトリアさんと恋人関係になって下さいって話したじゃありませんか…。3カ月なら…アルトも婚約破棄を待ってくれるかもしれないから…」
駄目だ、その事を考えるだけで涙が滲んできてしまいそうになる。
「あーもうっ！だから一々涙ぐむなって言うんだよ」
トビーはポケットからハンカチを取り出すと、私の涙をぐいぐいと擦った。早速私のアドバイス通りの行動を取るのは良いけれども…。
「ちょ、ちょとトビーさん。こういう時はもう少し優しく涙を拭いてあげるんです。乱暴に拭かないで下さいよ！」
唇を尖らせて言うと…。
「プッ！」
突然トビーが吹きだし、肩を震わせている。
「な、何ですか？その態度は？」
「だ、だって…お、お前って…ほんと子供みたいにちっこくて、唇を尖らせた姿なんて…くくく…ま、まるで本当のお子様みたいで…ククク…」
トビーは必死で笑いを堪えている。
「ちょっと！笑う事ないじゃないですかっ！失礼ですよ。こう見えても私は19歳なんですから！」
全く、何てデリカシーの無い人なのだろう。仮にもレディーに向かってお子様みたいだなんて…。
するとトビーは大真面目で言った。
「うん。そこが問題なんだ。お前はどうやら女子学生からは絶大な人気を誇るのに、何故か男子学生の受けは悪い」
「あの、何気に人を傷つけるような発言していませんか？」
口を挟むも、トビーは気にする事も無く続きを話す。
「つまり、あれだ。お前が婚約者のアルトにフラれるのはその極端に子供過ぎる外見にあると俺は思うんだ。お前みたいな幼女相手に恋愛感情を持てと言う方がまず難しいだろう。仮にお前に今、好意を寄せている男がいるとなれば、そいつは変態かもしれん」
「ちょ、ちょっと！何が変態ですかっ！」
「まぁ、落ち着け。だから今度はお前に俺からアドバイスしてやるんだよ。まず、その子供っぽいフリフリドレスなんかやめるんだ。ましてお前のような幼女がピンク色なんか着たらますます幼く見える」
トビーはまたしても人の事を幼女と呼んだ。けれど反論するのも馬鹿々々しいので黙って続きを聞くことにした。
「成程、それではどうすればいいのですか？」
「だから、もっと大人っぽいドレスを買うんだよ。持っていないのか？」
「そうですね～…」
私は自分のクローゼットの中を思い出し…首を振った。
「生憎無いですね…何しろ父と母がこのような服ばかり好むので」
「は？何だって？お前は自分の好みの服を買ったことは無いのか？」
トビーが呆れ顔で尋ねて来た。
「ええ…そうですね。お金を出すのは両親なので…両親が選んだ服を買ったり、作ってもらったりしています…が？」
「お前なぁ…それじゃまるきり親の着せ替え人形じゃないかよ。いいか？まず自分の魅力を上げるには服や髪型から変えないと駄目だ。よし、こうしよう。今日の放課後、一緒に服を買いに行くぞ！俺がお前に似合いそうな服を買ってやるっ！」
「えっ？！そ、そんな…っ！」
こうして私は放課後、急遽トビーと服を買いに行く事になってしまった―。
