第8話 自助努力
東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生には(後略)
「俺様が新生徒会長の治定度力だ。俺は例のバラマキ会長みたいなヘマはしないから、お前たちクラブ部長も覚悟しておくんだな」
金原会長の引責辞任に伴い生徒会長に選出されたのは2年B組の治定度先輩で、彼は天然パーマの金髪が特徴的な軽音部員だが成績は学年でも最上位らしい。
自然気胸が治って退院したと思ったら今度はインフルエンザにかかって出席停止中の硬式テニス部長の代理として、私は今日もクラブ部長会議に出席していた。
「俺の生徒会長としてのモットーは自助努力。予算なんてもんは部活が自力で勝ち取ってくるべきだから、これからクラブ予算はすべての部活で一律年間5万円とする。後は部員から勝手に徴収するんだな」
年間5万円ではマイナーな部活を除くほとんどのクラブが予算を削減されることになるので、その場にいた各クラブの部長からはブーイングが巻き起こったが、治定度会長は非難を無視して部長会議を打ち切った。
「ということなんですけど、どうします? 硬式テニス部も年間5万円じゃ困りますよ」
部長会議の終了後、私は硬式テニス部の2年生の先輩たちに先ほど聞いたことを相談していた。
「それは困ったね。お金持ちのゆきに足りない分出して貰う?」
「あらあら、絶対に身銭は切りませんわよ」
元社長令嬢の堀江有紀先輩にお金を出して貰おうとした赤城旗子先輩だったが、現在は苦学生であるゆき先輩はその提案をあっさりと却下した。
「あんたら、そないな命令でヒイコラ言っとったらあかんで。うちにええ考えがある!!」
元気よく発言したのはやはり2年生の平塚鳴海先輩で、彼女にはこの局面を乗り切る名案があるようだった。
「どんな部活でも一律年間5万円貰えるねんから、硬式テニス部を分割すればええねん。今日からうちは右派テニス部、はたこは左派テニス部、ゆきは中道テニス部の部長な。まなちゃんも独立派テニス部の部長やってくれてええで」
「ええ……」
なるみ先輩のアイディアは一見ひどいが治定度会長の方針を上手く利用していて、私はその日から独立派テニス部の部長になり、生徒会から新設部活としてクラブ予算5万円を受け取った。
それからマルクス高校には「囲碁部保守派」「囲碁部五目並べ推進派」「元祖剣道部」「本家剣道部」「軟式野球部」「ソフト野球部」「やわらか野球部」といった新設部活が雨後のタケノコのように出現し、それらのクラブにも生徒会から一律5万円が支給された。
それから1か月後……
「治定度生徒会長の失踪に伴い、これより再選挙を行います」
体育館に集められた全校生徒は、生徒会会計からのアナウンスによりまたしても選挙に参加させられていた。
「困りましたね、私は柔道部無神論学派の部長に任命されたばかりなのですが」
「は、ははは……」
困り顔で話しかけてくる同級生の国靖まひるさんに愛想笑いを返しながら、私は自助努力ってそもそも何なんだろうと思った。
(続く)