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天然女子高生のためのそーかつ  作者: 輪島ライ
第3部 天然女子高生のための超そーかつ
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第70話 ゾーニング

 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生にはリベラルアーツ精神と左派系の思想が叩き込まれている。



「いらっしゃい野掘さん。旗子は元気にしてるかい?」

「ええ、いつも通り元気はつらつとされてますよ。点太郎さんもすっかり一人前の書店員さんですね」


 ある日の放課後、古文の参考書を買いに高校近くの書店を訪れた私は2年生の赤城(あかぎ)旗子(はたこ)先輩のお兄さんである赤城(あかぎ)点太郎(てんたろう)さんに出会った。


 点太郎さんは色々あって大学を退学になってからしばらく無職で過ごしていたが、先日全国的なチェーン店であるこの書店に就職が決まり、今では新進気鋭の書店員さんとして頑張っていた。


「ところで、何か前回来た時と店の雰囲気が変わってません? 書棚の列ごとに床の色が違いますし……」

「いい所に気づいたね。実験的な取り組みとして、この店舗ではあらゆるジャンルの本を傾向ごとに分けて陳列(ちんれつ)しているんだ。例えば保守系の評論を好む人は革新系の書籍はあまり見たくないだろうし、逆もまた然り。漫画の場合は前から傾向ごとに分けてたけど、その上さらに少女漫画の列と青年漫画の列は場所を大きく離したりしてみたんだ」

「なるほど。お客さんのことを考えたいい取り組みだと思います」


 書店に来る人は自分の好みの本を探したくて来ている訳で、全く好みに合わない本はなるべく目に入らないようにするという取り組みはお客さんの精神衛生上よいと思った。


 店内で点太郎さんと話していると見たことのある顔の二人組が入店してきたので、私は慌てて彼女らから見えない場所に隠れた。



「へえー、宝来さんも歴史人物を題材にした二次創作に興味があるのね。私は読んでばっかりだけど、同好の士がいて嬉しいわ」

「出羽さんこそBLにすごくお詳しいそうじゃありませんか。私はその界隈には未熟者でして……」


 オタクトークを繰り広げながら入店してきたのはこの前転校してきた同じクラスの宝来(ほうらい)(じゅん)さんとケインズ女子高校硬式テニス部所属の3年生である出羽(でわ)ののかさんで、彼女らはそのまま歴史書のコーナーに入っていった。


「宝来さんはマルクス高校だから、スターリンとかレーニンはご存知でしょ? 私なんて妄想が激しすぎて、光秀×信長とか孔子×宰予(さいよ)どころかあの2人でも脳内創作しちゃうのよね」

「いいご趣味ですね。スターリン×レーニンはリバーシブルも成り立つと私は考えますよ」


 あの2人はどうも腐女子と呼ばれる人たちだったらしく、会話の意味はよく分からないがともかく楽しそうだと思った。



「全くその通りね。流石に蒋介石と毛沢東なら毛×蒋が鉄板だと思うけど」

「それは少し無理がありませんでしょうか? 思想と立場が異なる相手で、最終的には政争に敗れて台湾に落ち延びてしまった蒋介石のことを想い続ける毛沢東は受けとしか言いようがないのでは……」

「いいえ、一度は相手に中国の盟主の座を譲って、その上で国共内戦で国民党軍を打倒した毛沢東の戦略は誘い受けでしょう? 精神的には攻めなんだから、やっぱり本質的には毛×蒋よ」

「誘い受けを事実上の攻めと言い切るのは無理があります! そうであれば毛×蒋も蒋×毛も成り立つリバーシブルになるではありませんか」

「むしろ誘い受けこそ純粋な攻めじゃない! その段階で価値観を共有できないなら同好の士とは言えないわ!!」


 2人はそのまま歴史書コーナーの書棚の前でBL論争を続け、私は面倒に巻き込まれる前に古文単語の参考書を買って帰宅した。



 その翌週……


 【腐女子向け書籍コーナー このコーナー以外でBLトークをするのはご遠慮ください】


「野掘さん、これが人々を守るためのゾーニングなんだよ」

「今回ばかりは同意する他ないです……」


 自作の店内看板を紹介しながら言った点太郎さんに、私はゾーニングの重要性を改めて理解した。



 (続く)

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