第62話 コンプガチャ
東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生には(後略)
「ごきげんよう、マナ。ちょっとこれを貰ってくださらない?」
「先輩、お疲れ様です。豪華な昆布じゃないですか」
ある日の昼休み、硬式テニス部所属の2年生である堀江有紀先輩は中くらいの段ボール箱を抱えて1年生の教室を訪ねてきた。
ゆき先輩は右手で中身を取り出すとポリ袋に入った昆布を私に差し出し、高級そうなパッケージには乾物の有名店らしきロゴが印刷されていた。
「お父様の昔の知り合いが送ってくださったのですけど、父子2人ではこんなに食べきれませんの。旗子や鳴海にもいくつかあげましたけど、まだまだ沢山残っていて悩みますわ」
「それは大変ですね。賞味期限は長いですけど早めに調理した方が美味しそうですし」
結局ゆき先輩から3袋の昆布を受け取ることにしたが、先輩のご自宅にはあと50袋ほどあるらしく、お父さんの知人も発注数を間違えて大量に入荷してしまった昆布を昔の知り合いに配ったという事情らしい。
「いっそのことファンクラブの人たちに買って貰えばどうでしょう。そうすればタダで配るよりお得なんじゃないですか?」
「それはいい案ですわね。黒猫倶楽部には既に20名ほど会員がおりますから、1人1袋でも買って頂ければ助かります。……そうですわ、ここはコンプガチャのやり方で在庫をさばくのです!!」
ゆき先輩はそう言うと段ボール箱を抱えて教室を飛び出していき、私は昆布ガチャって何なんだろうと思った。
その翌日……
「さあさあ、黒猫倶楽部会員限定、校内福引会の始まりですわ! 1回500円でわたくしのブロマイドを手に入れるチャンスですわよ!!」
「やるやる、何回でも引くっ! ほっちゃーん! ほ、ほーっ、ホアアーッ!! ホアーッ!!」
ゆき先輩は中庭に長机を持ってきてどこからか仕入れたらしい抽選機を置いており、周囲には3年生の秋葉拓雄先輩をはじめとしてファンクラブの皆さんが集まっていた。
秋葉先輩はゆき先輩にまず1000円を支払い、抽選機をガラガラと2回回した。
「おめでとうございます、4等賞の高級昆布と3等賞の堀江有紀フェイスタオルの当たりですわ。初回から運がよろしいですわね」
「ありがとう! ほっちゃんのブロマイドは1等賞なんだよね!?」
「いえ、違いましてよ。こちらの表を見て頂きたいのですけど……」
ゆき先輩はそう言うと、秋葉先輩にラミネート加工されたA4用紙を示した。
>黒猫倶楽部校内福引会 景品一覧
>5等賞 堀江有紀ポケットティッシュ
>4等賞 高級昆布
>3等賞 堀江有紀フェイスタオル
>2等賞 堀江有紀直筆サイン色紙
>1等賞 堀江有紀オリジナルCD
>プレミアムレア 堀江有紀ブロマイド ※1等賞~5等賞までの景品を揃えた方にプレゼント
「という訳ですので、全ての景品を揃えられるよう頑張って頂きたくてよ! 最初にブロマイドを手にするのはどなたかしら!?」
「ヒャッホー! やるやる、次は1万円分引くっ! ほ、ほーっ、ホアアーッ!! ホアーッ!!」
(悪質……というレベルなのかな?)
大喜びで福引に興じるファンクラブの皆さんを見て、私はこういう商売が法的に禁止された理由が分かった気がした。
(続く)