第48話 ディープステート
東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は(後略)
「ぐぬぬぬ……これは許せないよ……」
「先輩、また漫画雑誌ですか? そろそろ練習始まりますけど」
ある日の放課後、硬式テニス部の練習前に女子ロッカーで着替えていた私は2年生の赤城旗子先輩が週刊少年誌を手に唸っているのを目にした。
「私が一番好きだった新人の作品が10週間で打ち切りになっちゃったんだよ! こんなに個性があって絵も上手な新人を切るなんて編集部は見る目がないよ!」
「ああー、そういうのありますよね……」
どういった作品に魅力を感じるかは人それぞれだが、自分がとても面白いと思った新作が世間に評価されなかった時の気持ちは私にも理解できた。
「最近何だかおかしいんだよ、ようやくタピオカの美味しさに気づいたのにタピオカ屋さんが潰れちゃうし、充電ケーブルの予備を安く沢山買えたのにスマホの新機種はケーブルの規格が違うし、ヨンテンドージョイッチをようやく買えたと思ったら廉価版が出ちゃったんだよ!!」
「そ、それは全部偶然では……」
先輩がちょっとした不幸に見舞われ続けていると知り、私はこれも悔しい気持ちは分かると思った。
「こんなに辛いことが続くのは、誰かの陰謀に違いないよ。そうだ、日本政府を裏から牛耳っている闇の政府が、私を陥れようとしているんだよ! そうはさせないよ、私は仲間たちと一緒にディープステートに対抗するんだよー!!」
はたこ先輩はそう言うと女子ロッカーから走り出していき、これはもう仕方がないので先輩は今日の練習は欠席と部長に伝えておくことにした。
その1週間後……
「まなちゃんまなちゃん、この漫画雑誌要らない? 一杯あるからタダであげるよ」
「いいんですか? 弟も読むと思うので欲しいですけど、なぜ余分な雑誌を……」
1年生の教室を訪れたはたこ先輩はなぜか6冊もの週刊少年誌を抱えていて、私は不思議に思ってその理由を尋ねた。
「ディープステートによる作品の打ち切りに対抗するために、雑誌を一杯買ってアンケートハガキを沢山送るんだよ! インターネットで仲間を集めて、1人10冊は買うことにしたんだよ。これで本当に面白い作品を応援できるよ!!」
「は、ははは……」
話を聞いて集まってきた1年生男子たちにハガキだけ切り取った雑誌を配るはたこ先輩を見て、私はディープステートが実在するかはともかくお金が許すならまあいいのではと思った。
(続く)