第44話 再生可能エネルギー
東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生には(後略)
「野掘殿、最近流行りのえすでぃーじーずについてお知恵を頂きたいのですが……」
「持続可能な開発目標ってやつだよね。円城寺君も興味あるの?」
6限目の授業が終わって硬式テニス部の練習に行こうとした私は、同じクラスの男友達である円城寺網人君に話しかけられた。
彼の実家は恩良院という臨済宗のお寺で、なぜ宗教の否定を学是の一つとするマルクス高校に通っているのかは分からないが彼はいつも跡継ぎとして実家の経営に気を回していた。
「うちの実家はこの度環境保護に配慮した寺院というあぴーるを始めることになりまして、その一環として敷地と屋根に太陽光ぱねるを取り付けたいと考えたのです。ただ、設置費用と維持管理費用が高くつくそうなので太陽光以外の方法を探そうかと……」
「それは悩ましい問題だよね。私もすぐにはアイディアが出てこないけど」
太陽光発電のコストは年々下がってきているが、パネルの面積や周辺の環境によって費用対効果は異なるので円城寺君の実家では太陽光発電の利益がかかるコストを上回れないらしかった。
「それにしても、環境保護のために再生可能エネルギーを導入するにはお金を儲けなきゃいけないってのも何か複雑だよね。もっと安価で簡単に導入できればいいのに」
「全くその通りです。……そうだ、再生可能えねるぎーで得た利益で再生可能えねるぎーを導入すれば万事解決なのではないでしょうか!? もう少し検討を重ねて参ります!!」
円城寺君はそう叫ぶと教室を飛び出していき、一体どういう意味なのだろうと私は不思議に思った。
その翌週……
「すらいむえっさいむ、すらいむえっさいむ……なんたいなんたい呪言を唱えます……」
「円城寺君、その呪文みたいなのは?」
朝礼の10分ほど前に教室に入ると、円城寺君は分厚い冊子を読みながら呪文のようなものを唱えていた。
彼は頭に紫色のハチマキを巻いている上に蝋燭を模した飾りまで付けていて、その異様な雰囲気に周囲の生徒はドン引きしていた。
「実は通信教育で呪術を学び始めまして、これこそが再生可能えねるぎーの導入なのです。早く実用化できればよいのですが」
「呪術……?」
意味が全く分からず言葉を繰り返すと、円城寺君は得意げな顔で説明を始めた。
「うちの実家でお葬式をした仏様を墓場から蘇らせ、再びお葬式を行って利益を得ます。そのお金を貯めていき、ゆくゆくは太陽光発電を導入するという訳です! 素晴らしい名案でしょう!!」
「は、ははは……」
常人では思いつかないアイディアを語った円城寺君に、私は不謹慎ってこういう時のための言葉だなあと思った。
(続く)