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天然女子高生のためのそーかつ  作者: 輪島ライ
第1部 天然女子高生のためのそーかつ
32/181

最終話 天然女子高生のための総括

 あれから1年以上が経って、私、野掘のぼり真奈まなは2年生として3年生の先輩方の卒業を見送ることになった。

 今は大講堂で卒業式が行われていて、私は講堂の前で2年生の友達や1年生の後輩たちと一緒に硬式テニス部の3年生が出てくるのを待っていた。



 入学してからずっとお世話になったり振り回されたりした赤城あかぎ旗子はたこ先輩、堀江ほりえ有紀ゆき先輩、平塚ひらつか鳴海なるみ先輩は揃って卒業していくから、4月からは私が部長として硬式テニス部の後輩たちを指導していかないといけない。これまで一人も出てこなかったけど。



「今日ばかりは私たちも休戦ですね。彼女たちをずっと見守ってきたので感慨もひとしおです」

『ああ、そうだな。外宇宙からわざわざ地球を訪れるのもこれはこれで楽しかったが、それも連中が面白い地球人だったからだろう』

「いやあなた方言うほど出番なかったですよね」


 卒業式には例によって弟の正輝まさきに憑依しているローキ星人と例によってノミに憑依しているブラッキ星人も付いてきていて、彼らも先輩方の卒業を温かく見守っていた。



 大講堂からはマイクで拡声された音声が聞こえてきて、PTA会長の平塚ひらつかひとみさんによる祝辞に続いて3年生の学年主任だった金坂かなさかえいと先生と今年度晴れて校長に昇進した琴名ことな枯之助かれのすけ先生による式辞が行われているようだった。


 2年生生徒会長による送辞の後に3年生生徒会長による答辞が行われると、卒業証書の授与が始まった。



 卒業式の会場設営には新聞部の朝日あさひ千春ちはるさんと高校生プロゲーマーの梅畑うめはた伝治でんじ君が協力して取り組み、あの2人は今では何だかんだで付き合うようになっていた。


 柔道部の国靖くにやすまひるさんも治定度じじょうどりょく先輩のアプローチに根負けして交際を始め、卒業式の前には治定度先輩から制服の第二ボタンを貰った上で来年度は先輩と同じ共産大学の文学部を目指すと宣言していた。



「ジーザス、ワタシはやっぱりスチューデントたちの卒業が悲しいデス……」

「すのはーと先生、そういう時こそ坐禅ざぜんですよ。さあ、もっと姿勢を整えて」


 教え子たちの卒業に感動しすぎて泣き出してしまったガラー・スノハート先生は大講堂の外で円城寺えんじょうじ網人あみと君に坐禅を指導されており、それでも精神統一は中々できないようだった。



 そうこうしているうちに卒業式は終了し、大講堂からはまず最初にゆき先輩が出てきた。

 ゆき先輩はマルクス高校の系列校である私立共産大学には内部進学せず、AO入試で名門女子大の経営学部に進学することになった。将来は倒産した実家の製薬会社を立て直したいらしい。


 私が挨拶する間もなく、近くで待機していたらしい後輩男子たちが集団でゆき先輩のもとに駆け寄ってきた。



「堀江先輩! 未使用のデート券ってどうなるんですか!?」

「そうですわね、わたくしとの思い出にして頂ければと思います」

「そ、そんなあ。俺1万円分も残ってるのに」

「ほっちゃーん、ちょっと待ってーー!!」

「あら、拓雄さん?」


 ゆき先輩は後輩に買わせたデート券を踏み倒して逃げるつもりだったらしく、後輩男子を笑顔でスルーした先輩の前に誰かが猪突ちょとつ猛進もうしんしてきた。

 ゼーハーと荒い息を立てていたのは昨年卒業された秋葉あきば拓雄たくお先輩で、彼は今も昔もゆき先輩の一番のファンだった。



「君たち、そのデート券は僕がまとめて買うよ! ほっちゃんの思い出は僕だけのものだ!!」

「ありがとうございまーす!!」


 ゆき先輩が責められることを避けるためか、秋葉先輩は財布から1万円札を何枚も取り出すとその場にいた後輩男子たちからデート券を全て買い取り、そのまま校舎から去っていった。

 秋葉先輩は卒業してからもたまにゆき先輩にデートをして貰っているらしく、ゆき先輩がどう思っているかは分からないが何だかんだでお似合いの2人だと思った。



「やあ、先輩方を見送りに来たのかな? 野掘さんには僕らもお世話になったね」

「あっ、金原先輩と裏羽田先輩」

「部活は違ったけど、野掘さんは私にとって一番大事な後輩の一人だったから。卒業してからもまた会いたいわ」


 続いて大講堂から出てきたのは金原かねはら真希まき先輩と裏羽田りばた由自ゆうじ先輩の従兄妹いとこコンビで、私の姿を見つけると自分から話しかけてくれた。


 この2人は従兄妹同士で都内で一番難しい私立総合大学に進学することになり、金原先輩は社会保障政策を学ぶために経済学部に、裏羽田先輩は表現の自由を守るために法学部に進学する。

 裏羽田先輩はともかく金原先輩は将来駄目な大人になりそうな予感しかしないが、ずっと仲良くして貰ってきたので私は先輩方とじっくりお別れの挨拶をした。



 大講堂から最後に出てきたのはなるみ先輩で、はたこ先輩も一緒かと思いきやなるみ先輩は一人だった。

 なるみ先輩は治定度先輩と同様に共産大学に内部進学することになり、フェミニズムについてより深く学ぶために学部は社会学部を選んだという。



「あれ、どうしたんですかなるみ先輩。はたこ先輩はどちらに?」

「それがな、実ははたこだけまだ進学先が決まってへんから、私立大学の後期日程を受けまくってんねん。せやけど一つも受かってへんらしくて……」


 なるみ先輩が沈痛な表情で言うと、後方から誰かが走ってきた。



「君たち、硬式テニス部のお友達だよね!?」

「あっ、はたこ先輩のお兄さん! ええ、そうですけど」


 スーツ姿で現れたのははたこ先輩のお兄さんである赤城あかぎ点太郎てんたろうさんで、彼は私たちに何かを伝えに来たようだった。


「旗子のことなんだけど、結局はどこの大学にも受かりそうになくて、今年は浪人することになったんだ。それでも卒業式には出るように言ったんだけど、旗子はどうしても出たくないって言って聞かなくて。せっかく友達や後輩が来てくれているのに、本当に申し訳ない」

「いえいえ。でも、はたこ先輩は心配ですね……」


 点太郎さんは妹が卒業式に参加しないことをお詫びしにきたらしいが、私としてははたこ先輩の気持ちが最も心配だった。



「……私なら、ここにいるよ」


 遠くから聞こえてきた声に振り向くと、そこには制服を着たはたこ先輩が立っていた。



「旗子! 来てくれたのか」

「先輩、大変でしたね。浪人でも卒業には変わりありませんから、一緒にお祝いしましょうよ」


 はたこ先輩の姿を見てゆき先輩もその場に駆け寄ってきて、私たちは彼女を温かく迎え入れようとした。


 しかし、はたこ先輩は暗い表情でずっとうつむいており、その様子は明らかに尋常ではなかった。



「……皆進路が決まったのに、私だけ浪人なんておかしいよ! そうだ、今からこの世界をリセットするよ!!」


 はたこ先輩はそう叫ぶと全身からオーラを放ち、両腕を上空に振り上げた。



「先輩、一体何を!?」

「ビッグバンそーかつウェーブ!!」


 はたこ先輩は謎のオーラを収束させて放とうとしているらしく、このままでは卒業式どころかこの世界が危ないと私は直感した。



「そうはさせませんわ。わたくしの最終奥義、ビューティー波動砲をお見せしましょう!」

「ここはフェミニウム光線の出番やな!」

「今こそ必殺の播種性はしゅせい斥力弾せきりょくだんをばらまく時ね!」

「何かバトル漫画みたいになってる!? あと金原先輩はメインキャラじゃないでしょ!!」


 メタ発言をしている間もなくゆき先輩、なるみ先輩、そして何故か金原先輩もそれぞれ必殺技をはたこ先輩に向けて放った。





 ビッグバンそーかつウェーブ、ビューティー波動砲、フェミニウム光線、播種性斥力弾は一点で激突し、それにより生じた時空振動によりこの世界はリセットされた。



 虚無だけが広がる世界には喜びも苦しみもなく、消滅していく意識の中で、私はこれこそが世界の「総括そうかつ」なのだと理解した。



 天然女子高生たる私たちの物語は、今ここで終わり……





「むにゃむにゃ……んんー? あー、何だ夢か」

「あらあら、旗子、あなたは疲れて眠っていたのよ。来週のケインズ女子高校との練習試合に向けて張り切りすぎたのね」


 気が付くと私は硬式テニス部室にいて、そこではベンチでうたた寝していたはたこ先輩にゆき先輩が優しく声をかけていた。



「はたこ先輩の夢だったの!? というより最終回で夢オチは流石にひどいですよ!!」

「えー、まなちゃんも面白い夢見とったん?」


 けらけらと笑いながら言ったなるみ先輩に、私はこのドタバタな日常生活はまだまだ続きそうだと思った。



 (完)

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