第20話 パブリシティ
東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生には(後略)
「野掘殿、あなたのご実家は仏教徒でしょうか?」
「いや、特にどこの宗教も信じてないよ。円城寺君は臨済宗だったっけ?」
「ええ、その通りです。最近実家が檀家不足で困っておりまして」
同じクラスの男子である円城寺網人君の実家は恩良院という臨済宗のお寺で、なぜ宗教の否定を学是の一つとするマルクス高校に通っているのかは分からないが彼は現在既に住職見習いとして修業を重ねていた。
「今時は檀家という制度自体を知らない人も多くて、このままでは寺院の経営が成り立たないのです。野掘殿に何かお知恵を頂けませんでしょうか」
「そうだね、せっかくうちの高校には新聞部があるんだし、校内新聞に広告を載せて貰うよう頼んでみたら? 地元で知名度が上がるだけでも効果があるんじゃない?」
「もっともなご意見なのですが、お礼もなしに広告を掲載して頂くのは気が引けますし、学校内なのでお金を払う訳にもいかないかと……」
「あー、確かに」
お礼もなしに広告掲載を頼めないという円城寺君の意見は正論で、私は何かお金がかからない宣伝方法がないか考えた。
「それじゃあ、円城寺君は普段あんまり使わなさそうだけど、インターネットで宣伝してみるのはどう? 今時のSNSはどれも無料で使えるし、お寺がウェブで宣伝っていうギャップも面白いんじゃない?」
「それはいい考えですね。いんたーねっと上で有名になれば新聞部にも取り上げて貰えるかも知れませんし、ぜひやってみたいと思います」
「パブリシティってやつを狙うんだね。スマホとかSNSの使い方が分からなかったら教えるから、頑張ってみてね」
それから円城寺君はすぐに恩良院の公式ツィターアカウントを開設し、アカウントのIDも教えてくれたので私は早速自分のアカウントでフォローしてみた。
恩良院公式あかうんと @tsurutsuru_atama
公園の池の橋に「このはしはわたらないでください」と書かれていたので真ん中を渡ってみたら橋が折れて溺れかけました。目撃者はいなかったようで不幸中の幸いです\(^o^)/
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恩良院公式あかうんと @tsurutsuru_atama
冷蔵庫にあった父上のぼたもちを勝手に食べたのがばれそうになったので、皿に残っていたあんこを阿弥陀如来像の口元に塗って阿弥陀様が食べたことにしました。阿弥陀様、ごめん!(^^;)
[…]28 →194 ☆325
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本屋さんで漫画の新刊を立ち読みしていたら店員さんに立ち読みするなと怒られたので、それならばと床に座って読むとつまみだされました。何故なのでしょう(´・ω・`)
[…]37 →223 ☆432
「野掘殿、投稿が沢山の人に拡散されて大成功です! 何と校内新聞にも取り上げて頂けました!!」
「うん、良かったね……」
通知が鳴りやまないスマホを片手に報告してきた円城寺君に、私は炎上って本人が気にしなければ何の問題もないんだなあと思った。
(続く)