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天然女子高生のためのそーかつ  作者: 輪島ライ
第6部 天然女子高生のための重そーかつ
177/181

第159話 オリエンタリズム

 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は(後略)



「皆さんおはようございます。今日は前回に引き続き西洋現代思想について教えますが、皆さんはオリエンタリズムという言葉はご存知ですか? そもそもオリエントっていう言葉自体知らない人がいると思うので解説すると、オリエンタリズムとはオリエントすなわち東洋の国々のことを西洋の人々が幻想的に捉えてしまう姿勢を指します。いわゆる異国趣味自体は悪いものではありませんが、人類の歴史では西洋の人々が東洋を一括りにして自分たちとは全く異なる存在と見なしてしまい差別や迫害につながった経緯もありました。批評家のエドワード・サイードは著書の中でオリエンタリズムの批判的検証を行いましたが……」


 週1回の倫理の授業では新米教師で公民科担当の路堂(ろどう)久美子(くみこ)先生が今日も張り切って教科書の内容を教えていたが、現代思想というのは高校倫理で西洋近代思想の次にややこしい割にあまり試験に出ない分野なので教室内にいる生徒の半分近くは爆睡していた。


 私は高校社会では倫理が一番好きなのであくびを噛み殺しつつ授業を聞いていると、教室前方の扉からスーツ姿の若い男性が駆け込んできた。


「すんません電車遅延で遅れました! 俺、共産大学の教育実習生の梅中(うめなか)十三(じゅうぞう)言います。今日から2週間路堂センセと授業しますさかいよろしゅう(たの)んます」

「あらー、ちゃんと遅れる連絡貰ってたのに生徒さんに説明してなくてごめんなさい。皆さん、今日からこちらの後輩と一緒に授業をするから私からもよろしくね。梅中先生、さっそくだけどオリエンタリズムについて教えられるかしら?」

「高校社会なら何でも行けますわ! 俺の武勇伝も交えてめっちゃ面白(おもろ)い授業したるからせいぜい覚悟しときや!!」


 後輩ができて喜んでいる路堂先生からバトンタッチされやる気全開で授業を始めた梅中先生は話が面白い上に教え方も分かりやすく、何度もどっと笑いが巻き起こる教室で私はこの教育実習生はきっといい先生になるに違いないと思った。



 そして梅中先生の授業は好評を博しつつ各クラスで連日行われ……


「梅中先生、受けてみてください! バーン!!」

「は?」

「あれっ? 大阪出身者は手でこうすれば倒れたふりをしてくれると聞いていたのですが……」


「梅中先生、大阪にあるスーパーって全部スーパー○出なんですよね!? 私一回行ってみたいです! 100円以下でお弁当買いたいであります~」

「いや、俺の中高時代の行きつけは阪○オアシスやねんけど……」

「えー、そんなんじゃ全然面白くないでありますよ~」


「そういやこの前東京来て初めてモ○バーガー行ってんけど思ったより美味しかったわ。地元では何か恥ずかしゅうてマ○ドばっか行っててんけどな」

「確かにモ○でしたら店の前にマスコットの人形を置いていないから安心ですね。先生も推しの球団がリーグ優勝したからって人形を東京湾に投げ込まないよう気をつけてくださいね☆」

「ええ……」



「皆さん、先週まで梅中先生の教育実習にお付き合い頂いてありがとうございました。梅中先生はあんまりこの学校には赴任したくなさそうで意外だったけど……」

「は、ははは……」


 生徒たちに全く悪気なく散々いじられていた梅中先生の姿を思い返しながら、私は地球規模でなくてもオリエンタリズムは成立するんだなあと思った。



 (続く)

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