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天然女子高生のためのそーかつ  作者: 輪島ライ
第5部 天然女子高生のための真そーかつ
168/181

真最終話 恐怖! 妖怪そーかつ大決戦!!

『すみません、起きて頂けませんか?』

「んんー、何……? むにゃむにゃ……まだ5時じゃん……」


 元日の午前5時、年明けからゆっくり寝ていた私、野掘(のぼり)真奈(まな)は誰かに肩をつつかれて起こされた。


『実は真奈様の通われている学校から強力かつ邪悪な妖気を感じておりまして、今すぐその根源を絶たなければこの町内全体がネガティブな妖気に覆われてしまいかねないのです。同じく妖気を感じた方々が家の前まで既にお越しですので、どうか私たちと一緒に来てください』

「まああなたたちがそう言うなら実際そうなんでしょう。分かりました、眠いですけど着替えますね……」


 私を目覚めさせたのは私の部屋に居候している幽霊の姉弟である真霊(まれい)たそと幽魔(ゆうま)たそで、霊能力も使える幽霊である彼女らの言葉を信じて私は簡単に着替えるとコートを羽織って玄関から外に出た。


「おや、野掘殿から来て頂けるとは。ご事情はそちらの幽霊殿からお聞きと思いますが、うちの高校の生徒たちに邪悪な妖怪が取り憑き、高校の校舎に集まって良からぬことを企てているのです。(わたくし)めは先ほど国靖殿と合流してここまで来ました」

「幽霊も妖怪も唯物論に基づいているこの世界に存在するはずはないのであって、そのような非科学的な存在が私たちのマルクス高校にいていいはずがありません! 今すぐ止めに行きましょう!!」

「うーん、やっぱり予想通りの面子」


 家の前で待っていたのは同じクラスの男友達で住職見習いの円城寺(えんじょうじ)網人(あみと)君と同じクラスの女友達で柔道部員の国靖(くにやす)まひるさんで、元々霊的なものに詳しい円城寺君と無神論者である国靖さんには妖怪も取り憑かなかったようだった。


『それでは姉上、今のうちにこの方々と融合するとしましょうか』

『ええ、そう致しましょう。霊装憑依!!』

「ファッ!?」


 私の両肩に座っていた真霊たそと幽魔たそは揃って掛け声を上げると霧状になってそれぞれ国靖さんと円城寺君の身体に吸い込まれ、その瞬間に二人の身体は霊的な装甲に覆われていた。


「ほほう、これがあの霊装というものですか。これで悪しき妖怪たちにも立ち向かえるというものです」

「これも何らかの科学現象に違いありませんが、いつか私たちの7分の1スケールフィギュアが発売される時に役に立ちそうですね。その日が楽しみです」

「いや誰も発売しないって! というかいきなり設定盛るのやめない!?」


 それはそれとして私と霊装円城寺君、霊装国靖さんは妖怪に占拠されたマルクス高校にたどり着き、校門をくぐって校舎に入ると1階には硬式テニス部所属の2年生である平塚(ひらつか)鳴海(なるみ)先輩と1年生で新聞部員の朝日(あさひ)千春(ちはる)さんの姿があった。


「これは良かった、お二人ともご無事だったのですね。か弱い女性の被害を未然に防げて安心致しました」

「あーっ、女性にか弱いって形容詞付けるんは隠れセクハラやで! そんなこと仏教徒が言ってええん!?」

「そうだよ、これはまずネットニュースに上げて炎上させてから全国紙で報道しなきゃ! 音声データはばっちり録ったからね!!」

「霊装奥義・超巨大ゲバ棒フルスイング!!」

「「ギャーーーー!!」」

「助かりました、まさか女尊妖怪ふぇみにずむと偏向妖怪ますごーみんがあのお二人に憑依していたとは」

「さっきの妖怪だったの!?」


 霊装円城寺君の言葉の揚げ足を取ったなるみ先輩とその様子をビデオカメラで録画した朝日さんは霊装国靖さんが召喚した巨大ゲバ棒で叩き飛ばされ、あれは元々なような気もしたがともかく私たちは先を急ぐことにした。


 校舎の2階に上がると廊下を3人の2年生が彷徨(さまよ)っていて、よほど強い妖怪に憑依されたのか3人の目は正気を失っていた。


「バンセー……イッケーイ……ワイィ……センショクタイィ……」

「通貨を自前で刷っている国は絶対に財政破綻しないのよ!! 全ては財務省の陰謀よ陰謀陰謀陰謀!!」

「ワクワクチンチンファイブジーファイブジーワクワクチンチンターボガンターボガン」

「霊装奥義・熱狂集団殲滅砲!!」

「「「ギョエーーーー!!」」」

「うん、あれは確かに妖怪っぽい」


 古典妖怪ニッポンカイギに憑依された裏羽田(りばた)由自(ゆうじ)先輩、バラマキ妖怪エムエムティーに憑依された金原(かねはら)真希(まき)先輩、狂乱妖怪ハンバクシーンに憑依された治定度(じじょうど)(りょく)先輩は3人まとめて霊装円城寺君が召喚した巨大キャノン砲に吹き飛ばされ、私たちは最も強い妖気を放っている校舎の屋上へと急いだ。


 霊装国靖さんの巨大ゲバ棒で鍵を破壊して屋上にたどり着くと、そこには両目をらんらんと光らせた2年生の赤城(あかぎ)旗子(はたこ)先輩が立っていた。


「よく来てくれたよ、君たちならここまで来られると思ってたよ」

「鍵かかってましたけどはたこ先輩はどうやってここまで来られたんですか?」

「まあそれはともかく、このまな板女に憑依している私は怨念妖怪ルサンチマンっていって、今のこの国で最強の妖怪なんだよ。さっきまで君たちが見てきた妖怪は全て私の配下の者たちなんだよ」

「なるほど、道理で先ほどから身近な題材の妖怪ばかりだった訳ですね」

「身近かなあ?」


 最強の妖怪の割にははたこ先輩に語尾を引きずられている怨念妖怪ルサンチマンの言葉に、霊装国靖さんは納得して頷いていた。


「それはともかく、あなたの目的は一体何なのですか? この学校は宗教の否定を学是(がくぜ)としておりますし、何か目的があるのなら別の学校を選んでもよさそうですが」

「そうそう、それを見越して私はこの学校で儀式を執り行うんだよ。今の日本では非科学的なものは何でも冷笑されて、宗教には特に風当たりが強いよ。でも、この世に生きる人々のほとんどは大なり小なり弱者だから、誰でも本当は宗教を求めてるんだよ。ミサンドリーも万世一系も陰謀論も、私に言わせれば全部名前を変えた宗教だよ」

「あなたのご意見は分かりましたが、それで儀式とは一体何なのですか?」

「簡単だよ、表向き宗教を否定して結局は色んなカルト思想が世の中に蔓延(はびこ)るなら、全部同じカルト宗教にまとめちゃえばいいんだよ。その方がお互い対立せずに済むし、カルト宗教は簡単に国家間の壁を超えるからいつかは世界中を平和にできるんだよ。ね、だから邪魔しないでよ」

「「ぐうっ!!」」

「うわっ二人とも大丈夫!? これじゃもう洒落にならないですよ!!」


 はたこ先輩に憑依した怨念妖怪ルサンチマンは自らの目的を語ると莫大な霊力で霊装円城寺君と霊装国靖さんを吹き飛ばし、屋上の塀に背中をぶつけた2人はそのショックで気絶して霊装憑依も解けてしまった。


「さあ、今日この日から世界は変わるんだよ。皆が同じカルト宗教を信じて、それ以外の訳の分からない宗教はこの世から消えるよ。君もその瞬間を目に焼き付けてくれるといいよ」

「ええ……」

「ちょっとお待ちなさい、その考えは早計に過ぎましてよ!!」

「ゆき先輩!? って何か空から降りてきてる!?」


 怨念妖怪ルサンチマンが儀式を始めようとした瞬間、日の出が始まりつつある空から黄金の聖衣を身にまとった堀江(ほりえ)有紀(ゆき)先輩が降下してきた。


「お前はどう見てもただの人間だよ! なのにどうして私をここまで怖気(おじけ)づかせるんだよ!?」

「その通り、わたくしはただの女子高生アイドル見習いに過ぎませんわ。ですけど、わたくしには既に何十人ものファンという名の信者がいて、彼らはわたくしを応援している限り怪しげな宗教には騙されないのです」

「つまりどういうことなんだよ?」

「宗教を必要とするのはよりどころのない弱者かも知れませんけど、それは裏を返せばよりどころさえあれば人は弱者ではなくなるということですわ。アイドルでもスポーツ選手でもそれこそ王様でも、個人として応援したいと思える存在は人々のよりどころになってくれます。全世界を一つのカルト宗教にまとめるよりも、人々がそれぞれ合法的なよりどころを持った方が明らかに健全でしてよ。……そうすれば、あなたもこの世から消えることができます」

「それはその通りだよ。だったら、君は私にその証拠を見せてくれる?」

「ええ、わたくしはいつかアイドル声優となり歌手としても活躍し、全世界に数十万人規模のファンクラブ会員を生み出してみせますわ!!」


 ゆき先輩がそう宣言した瞬間、はたこ先輩に憑依していた怨念妖怪ルサンチマンはどこかに消え去った。


 自らの存在を消滅させるために儀式を執り行おうとした彼の計画は果たされなかったが、ゆき先輩のような人々が弱者のよりどころになろうとしていけば、いつかは彼も役目を終えることができるだろう。


「うっうーん、私一体こんな所で何をしてたのかな?」

「旗子、あなたには何かよりどころはありまして? それとも、強いあなたにはよりどころは必要ないのかしら?」

「よりどころ? よく分からないけど、私はあの日の出を見て元気が出たよ! 今年も一年全力で頑張るよ!!」


 目覚めた親友に尋ねたゆき先輩に、はたこ先輩は昇っていく朝日を指さしてそう言った。


 こんな自然の現象でも、この世界の誰かにとってはよりどころになっているのだ。







「と()う感じの初夢を見てんけど、これって縁起ええんかいな?」

「いやなるみ先輩結構序盤で出番終わってましたよね!?」


 年明け早々の練習で初夢について話したなるみ先輩に、私は夢って確かに必ずしも自分が主役じゃないなあと思った。



 (完)

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