第131話 オーガニック
東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生には(後略)
「へえー、こんな所に市民農園があったんだね。ビニールハウスが立ち並んでる」
「郊外の憩いの場という感じですね。野菜のみずみずしい香りがするであります」
ある日の放課後、街はずれにある画材店に漫画用品を買いに行く漫研部員の宝来遵さんに興味本位で付いていった私は、人気の少ない街角に市民農園が設置されているのを見つけた。
市民農園にはざっと12個ほどのビニールハウスが並んでいて、その中のいくつかではちょうど農作業が行われていた。
「あっ、野掘さんじゃないですか。お友達と見学にいらしてたんですか?」
「灰田さん、ここで農業やってたの? 宝来さん、この子はケインズ女子高校1年生の灰田さん。お互いテニス部で知り合いなの」
「はじめまして、私は真奈さんと同じクラスの宝来遵です。今日はこの近くの画材店に寄る途中なんです」
私の姿を見かけてビニールハウスから出てきたのはケインズ女子高校硬式テニス部員の灰田菜々さんで、彼女は菜食主義者だけあってかこの市民農園で農作業に励んでいるようだった。
「実は私園芸部にも所属してて、硬式テニス部の練習がない日は農作業を手伝ってるんです。高校からはちょっと遠いですけど、こうやって有機野菜を育てて校内で販売してるんですよ。スーパーの野菜みたいに見た目が綺麗でないのであんまり買って貰えないんですけどね。このミニトマトいかがですか?」
「これは美味しいです! 流石は無農薬であります!!」
灰田さんは私と宝来さんに先ほど収穫したらしいミニトマトを食べさせてくれて、美味しい品種を選んでいるからか水で洗っただけで十分満足できる味わいだった。
「それにしてもこんな素晴らしいオーガニック野菜が買って貰えないのはもったいないですね。私は漫画を描くのが趣味なんですが、よかったら園芸部の宣伝漫画を書きましょうか? 校内で配布して頂ければお礼はそれで結構ですので」
「本当ですか!? 園芸部はイラストを描ける人が一人もいないのですごく助かります。野菜の販売時に一緒に展示させて欲しいです」
宝来さんは半ばボランティアでケインズ女子高校園芸部の宣伝漫画を描くと申し出て、灰田さんは目を輝かせて彼女にお礼を言っていた。
それから宝来さんは自宅で全8ページの宣伝漫画を描き上げ、コピー用紙で製本したサンプルを灰田さんに見せに行くというので私も市民農園まで付いていくことにした。
「これが宣伝漫画ですか!? 表紙のかわいい女の子は一体……」
「まずは読んでみてください。きっと園芸部のオーガニック野菜の素晴らしさが伝わるであります」
灰田さんは宝来さんから受け取った宣伝漫画の冊子を開き……
『迫真園芸部・オーガニックの裏技』
私はケインズ女子高校園芸部の灰田ナナ。今日も市民農園で育てている野菜のお世話をしています。
「はぁはぁ、このキュウリすっごく魅力的。綺麗なトゲトゲに興奮しちゃう……」
「待ちたまえ、君たちが育てた野菜の魅力はその程度ではないぞ!」
「あなたはオーガニック仮面! 一体何をするつもり!?」
力強く曲がった太いキュウリを撫で回していた私のもとに、白い仮面を被った怪しい男性が現れました。
「これは南米に自生する植物から抽出した天然の農薬だ。このオーガニック的な農薬を空間に散布することで君の感度は1000倍にまで跳ね上がる!!」
「何ですって、あっ、身体が勝手に……このキュウリを、今から……」
「はははははは、これぞまさしくオーガニックによるオーガズム! それも全ては君たちが育てた有機野菜が素晴らしいからさ!!」
私は地面に崩れ落ち、目の前にあるキュウリをもぎ取ると
「あなたがお伝えしたいことはよく分かりました。お礼に今からあなたを土中に埋めて肥料にします」
「ひいいいぃぃぃぃ、許して欲しいでありますぅぅぅぅぅぅ」
灰田さんは静かに激怒すると宝来さんを地面に突き飛ばしてスコップで土をかけ始め、私は女子校の人相手に何セクハラしてるのと思った。
(続く)