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天然女子高生のためのそーかつ  作者: 輪島ライ
第5部 天然女子高生のための真そーかつ
145/181

第128話 過度の一般化

 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生には(後略)



「先輩お疲れ様です。文化発表会のアンケート用紙を持ってきましたよ」

「高1全員の分となると結構重いですね。文化系の私にはちょっと酷であります」

「おう、お疲れ様。そこの机に置いておいてくれるか?」


 マルクス高校ではオープンスクールや学園祭とは別のイベントとして文化発表会が設けられており、その日は中高合同で各学年が何らかの企画を発表する。


 企画の選定は各学年の実行委員が全生徒へのアンケートを参考にして決めることになっており、私と宝来(ほうらい)(じゅん)さんは放課後、学年全体のアンケート用紙を今年度の実行委員の一人である2年生の治定度(じじょうど)(りょく)先輩のもとに持参していた。


「提出締切の前日に持ってきてくれて助かったよ。女の子は時間にルーズだって言うけど、君たちは美人だけあって優秀だな」

(りょく)先輩、そういう言い方はよくないです! 女子を一括りにして特性を決めつけるのは過度の一般化と呼ばれる差別的行為であります!!」

「えっ、別に俺はそんなつもりじゃ……」


 治定度先輩は生徒会室の机に置かれたアンケート用紙の束を見て素直な感想を述べたが、宝来さんは先輩の言葉を聞いて指をさしながら問題点を指摘した。


「過度の一般化をそんなつもりじゃないと言ってしまう辺りがそもそもハラスメント的です! この機会に自らをよく反省して欲しいであります!!」

「まあまあ宝来さん、そんなに言わなくても。ただ、治定度先輩もそういう言葉遣いしてると実際女の子にモテないですよ。宝来さんみたいにはっきり言ってくれる女の子も珍しいですし」

「うーん、確かに俺のこういう態度はよくなかったな。よし分かった、自分自身への反省も込めて高2の企画は過度の一般化に関するテーマにしてみるよ。伝手(つて)を探すから楽しみにしておいてくれ」


 治定度先輩は企画選定の方針を述べるとスマホを取り出して誰かに電話し始め、私はここで言うツテってどういう意味だろうと思いながら宝来さんと一緒に下校した。



 そして文化発表会当日……


「高校2年生の今年度の企画発表は、高校ホールでの討論会となりました! 確固たる持論を持つ人同士で激論を交わして頂くため、生徒は参加せず4名のゲストによる討論を今からお見せします! 紹介を交えつつ討論を始めて頂きましょう!!」


 高校2年生の企画を見に宝来さんと共に高校校舎のホールに行くと、そこではマイクを手にした治定度先輩が司会として討論会を開始しようとしていた。



「今回のテーマは昨今話題のSDGs(持続可能な開発目標)です。赤コーナーから討論を切り出すのは目的語がでかい人、千代田区議会議員の村田(むらた)(もやい)さんです! それではどうぞ!」

「SDGsは何やらうさん臭いと思っている市民の皆様も多いですけど、SDGsというのは地球に生きる一人一人がこの地球を守るという壮大な社会運動なのです。地球を守ることは生態系全体を守ることですから、すなわち人類全体を繁栄させることにもつながるのです」


「青コーナー、補語がでかい人! 将棋好きで千代田の竜王とも称される八百屋のドラさん!」

「もし じんるいがSDGsのしそうにしたがうなら せかいのはんぶんに ひとびとがすめばよかろう。 どうじゃ? わしのしゅちょうは ただしいとおもわんか?  >はい  >いいえ」


「黄コーナー、動詞がでかい人! 昔は学生運動家で今は亭主関白のサラリーマン内田さん!」

「そんなバカバカしい主張をのたまう女や老人はたたっ斬ってやる! SDGsを本気で信じるアホどもなど滅ぼせ! 滅ぼせい!!」


「最後は緑コーナー、主語がでかい人! アイドルグループ『九段坂(くだんざか)46』の抱可(だか)せいろさんです!」

「男の人っていつもそうですね…! 私たち地球に生きる女性のこと何だと思ってるんですか!?」


 4人のゲストは侃侃諤諤(かんかんがくがく)の討論を繰り広げ、最終的には視聴者投票の結果を受け抱可せいろさんが勝利した。



「そんな、なぜ討論の勝敗が投票などで決められるのですか! 人類の倫理を冒涜しています!!」

「このたいようけいに わしのせいぎを しめせぬとは。 これはおかしいと おもわんか?  >はい  >いいえ」

「けっ、所詮はかわいいお姉ちゃんが言えば何でも全肯定されるんでい! 日本社会は腐り果ててるぜい!!」

「中高年の人っていつもそうですね…! 私たち若者のこと何だと思ってるんですか!?」


「帰ろっか」

「同意であります」


 討論会の終了後も罵り合っているゲスト4名の姿に、私は宝来さんを連れてさっさとホールを出たのだった。



 (続く)

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