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天然女子高生のためのそーかつ  作者: 輪島ライ
第5部 天然女子高生のための真そーかつ
139/181

第122話 バイトテロ

 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生には(後略)



「ねえマナ、わたくし人生で牛丼とか豚丼というものを食べたことがないのですけど、今度一緒に食べに行ってくださらない? このお店なのですけど、一人では入りづらくて……」

「ああ、このお店行ったことないですけど知ってますよ。じゃあ今度の日曜日でどうですか?」


 ある日の練習後、私は硬式テニス部所属の2年生である堀江(ほりえ)有紀(ゆき)先輩に道端で配られていたらしいチラシを見せられた。


 チラシに印刷されていたのはこの高校の近くに先月オープンした豚丼屋「豚乙女(ぶたおとめ)」の紹介とQRコードのクーポンで、女性客も入りやすい豚丼屋だとアピールされていたので元社長令嬢であるところのゆき先輩も行ってみたくなったらしかった。



 そして日曜日、私は昼前にゆき先輩と高校の最寄駅の近くで落ち合い、しばらくウィンドウショッピングを楽しんでから「豚乙女」の店舗で昼食を取ることにした。


「いらっしゃいませー! あっ、これはこれは野掘殿と堀江先輩ではございませんか。あるばいと先でお会いするとは奇遇ですね」

「円城寺君、飲食店でバイト始めたって言ってたけどこのお店だったんだね。その制服よく似合ってるよ」


 カウンターの向こうでせっせと働いていたのは同じクラスの男友達で住職見習いの円城寺(えんじょうじ)網人(あみと)君で、彼はオープンしたばかりのこの店舗でアルバイトをしているらしかった。


「どうも、円城寺君のお友達さんですね。少し前までは学生アルバイトが各地でバイトテロ? を起こして問題になってましたけど、彼はちゃんとしたお寺の息子さんですし真面目に働いてくれるので私どもも感謝してるんですよ。今日はどうぞ豚丼を味わっていってください」

「ありがとうございます。わたくし、このプレミアム豚丼というのを食べてみたいですわ。食券はあの機械で買うのかしら?」


 気さくな店長さんは私とゆき先輩の来店を歓迎してくれて、私はゆき先輩に教えてあげながら一緒に券売機で豚丼の食券を購入し、カウンターの向こうにいる円城寺君に渡した。


「あら、美味しいですわ! コクがあるのにさっぱりしていて、これならわたくしでも美味しく食べ切れますわ。このお店はいつかミシュランの星を貰えるかも知れませんわね」

「はははは、うちはチェーン店ですし流石にオーバーですよ! でもそう言って頂けて嬉しいです。円城寺君、追加の具はできてるかな?」

「はい、ちょうどよい頃合いです。今すぐそちらにお持ちしああっ!!」


 円城寺君は調理場にいる店長さんに大鍋で煮込まれていた豚丼の具を持っていこうとしたが、その瞬間に足を滑らせて大鍋を地面に落としてしまった。


 大鍋の中の豚丼の具は調理場の床にこぼれてしまい、明らかにお客さんに出せる状態ではなくなっていた。


「もっ、申し訳ございません! この分はばいと代から弁償致します!!」

「いやいや、誰にだって失敗することはあるからそれはしなくていいよ。次から気をつけてね」

「ですが、これでは食材が無駄に……あっ、いい考えがあります! これはてら豚丼なのです!!」

「ファッ!?」


 無駄にした食材を弁償しなくていいと言ってくれた店長さんに、円城寺君は何かを思いつくと地面に倒れ込んで床にこぼれた豚丼の具にかじりつき始めた。


「いいですか皆様、豚丼というのは一つのお椀に豚肉とお米からなる世界を作るものですが、今はこの地球全体がお米となっているのです! これぞまさに地球(てら)豚丼でのごほっ!!」

「てめえお客様の前で何やってんだコラ!! 今すぐクビだクビ!! うちの会社労組なんてねえからな!?」


「今時の飲食店はこのような寸劇のサービスまでありますのね。ちょっと過激ですけど面白いですわ」

「先輩、これお芝居じゃないんです……」


 店長さんを激怒させて鼻先を蹴り飛ばされた円城寺君とその様子を微笑ましく見ているゆき先輩に、私は悪意がなかろうがバイトテロはバイトテロだなあと思った。



 (続く)

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