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天然女子高生のためのそーかつ  作者: 輪島ライ
第4部 天然女子高生のための大そーかつ
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第119話 反セクト法

 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生には(後略)



「コンチクショー! 貴様許さんぞ! 貴様許さんぞ!!」

「わああ先輩、そんな所で壺割ったら片付けが大変ですよ! それ以前に用務員さんに怒られますって!!」


 ある日の放課後、下校しようとしていた私は2年生で軽音部員の治定度(じじょうど)(りょく)先輩が校舎裏で大量の壺を割っている姿を目にした。


「あのレディは、あのレディはこの壺を買ったら付き合ってくれるって言ったのに! 何が世界を統一だ、俺はカルトに金を貢ぎたかった訳じゃねえ!!」

「ああ、またデート商法に騙されたんですね……」


 治定度先輩が恋愛がらみでトラブルに遭ったりトラブルを引き起こしたりするのは恒例行事なので、私は大体の事情を察してそう言った。


「大体この千代田区で当たり前のようにカルトが活動しているのが悪いんだ! カルト宗教なんて規模の大小に関わらず全部反セクト法で潰せばいいんだ! よし、まずはこの校内で反セクト法を施行させるぞオオオオオオオオオオ!!」


 治定度先輩は一人で騒ぐと生徒会室に向かって走っていき、私はせめて壺の破片は自分で片付けてくださいよと思った。



 その翌週、臨時に開かれた朝礼で……


「えー、生徒会の議決を受け、本日よりわが校で試験的に反セクト校則が施行されることになりました。校内でカルト的とみなされる言動や集会が行われた場合は反セクト委員により摘発されますので、皆さんも何卒カルトに染まらないよう生活してください」


 治定度先輩は何らかの方法により生徒会に反セクト校則の成立を認めさせたらしく、マルクス高校教頭の琴名(ことな)枯之助(かれのすけ)先生がこうして公に宣言している以上は実際に施行されるようだった。



「反セクト法って言うけど、普通に生きてる限りはカルトなんて関係ないよね。治定度先輩って何がやりたかったのかな?」

「そうだね、まああの先輩はいつも思いつきで生きてるから……」


 昼休みに同じクラスの朝日千春さんと話しながら教室に戻っていると、中庭で委員長の治定度先輩が率いる反セクト委員たちが何やら騒いでいた。


「君、その漫画は何だ! 見たところ女子大生やOLが好んで読みそうな女性漫画ではないか!!」

「ええ、そうですけど何か問題が……?」


 中学生らしい女子生徒は中庭で読んでいた漫画を批判されており、この中高では教室以外では漫画を読んでも校則違反にならないので女子生徒は不思議そうな表情をしていた。


「何を言う、『どこにでもいる普通の大卒女子社員』とか言って実家はそこそこ金持ちで家庭環境は円満で顔面偏差値が60ぐらいあったりする女性向けラブコメ漫画はカルトに他ならないではないか! 大体そういう漫画を読んでいる女性に限って男性オタク向けのラブコメ漫画を憎悪していたりするから余計にカルト感がある!! そんな漫画は我々反セクト委員が没収する!!」

「ええ……」


 言いたいことは分からないでもないが治定度先輩は99%ぐらい私怨(しえん)に基づいて話しており、女子生徒はその剣幕にドン引きしていた。


「ちょっと待てよ治定度君、誰にだって自分が読みたい漫画を読む自由はあるじゃないか。僕だって表現の自由を学ぶために『秋の空の姉弟(きょうだい)』を読んで戦慄したけど、創作物を楽しむ自由は無制限に認められるべきだという主張はたとえカルト的と言われても支持するぞ」

「裏羽田、てめえは身長が182cmもあってイケメンで他校の女子高生と付き合ってたりするからそんなことが言えるんだ! 第一そんな風に現実を見ずに物事を語る男女が多いから俺たちみたいな男が余るんだよ!! そーかつ! そーかつ!」

「うわああああああこんな所でタイトルを回収するなあああああああ」


 治定度先輩の行為を注意しに来た2年生の裏羽田(りばた)由自(ゆうじ)先輩は反セクト委員たちに総括され、女子生徒はその間にさっさと逃げていた。



 その翌月、再び臨時に開かれた朝礼で……


「えー、反セクト校則を試験的に施行した結果、反セクト校則を運用する側がセクトと化す事例が見受けられましたので、今後は権力による弾圧ではなくカルトの問題点を検討する審議会により対応することになりました。審議会の名称は『総括(そうかつ)学会(がっかい)』となり、今後は生徒会と総括学会が共同して課題に取り組んでいく体制となります」


「何かすっごく既得権益の完成って感じがするね!」

「朝日さん、その問題はナイーブだからちょっと……」


 教頭先生の話に感想を述べた朝日さんに、私はある物事を規制したい場合は特定の何かを対象外にして議論してはいけないなあと思った。



 (続く)

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