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天然女子高生のためのそーかつ  作者: 輪島ライ
第1部 天然女子高生のためのそーかつ
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第12話 ポリティカルコレクトネス

 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は(後略)



「お疲れー、正輝まさき。練習上手くいってる?」

「あっ、姉ちゃん! いい感じだよ、俺が皆の足引っ張っちゃってるけど」


 ある日の放課後、私は附属中学校の文化祭に向けて演劇の練習に励んでいる弟を応援しに行った。

 今年の文化祭では中学3年生の各クラスから選ばれた生徒たちが協力して「西遊記」を演じることになっていて、弟は今日も体育館のステージで孫悟空そんごくうの衣装のまま練習を重ねていた。


「皆ごめんねー、大して演技力もないのに弟が孫悟空に選ばれちゃって」

「いえいえ、クラス一のイケメンの野掘君が主役をやってくれて、女子は皆喜んでるんですよ」


 私が恐縮しつつ言うと、三蔵さんぞう法師ほうし役の女子生徒は嬉しそうに返事をしてくれた。


「ちょっと待ったああぁぁぁぁぁぁ!!」


 和気あいあいと話していると、体育館の入り口の方から誰かが全速力でダッシュしてきた。



「なるみ先輩じゃないですか。こんな所にどうして」


 長身とベリーロングヘアが特徴的なその女性は平塚ひらつか鳴海なるみ先輩で、もはや言うまでもなく硬式テニス部所属の2年生だった。


「あんたら、この演劇の配役はポリティカルコレクトネス的に問題だらけや! 今すぐ配役を変えるんや!!」

「ええー、何が問題なんですか?」


 ものすごい剣幕で中学生たちを怒鳴りつけるなるみ先輩に、三蔵法師役の女子生徒は戸惑いながら尋ねた。



「まず猪八戒ちょはっかい! ブタの役を女の子にやらせるのは女性差別や! この太った男子にやって貰い!!」

「ええ……」

「だ、誰か助けて~」


 なるみ先輩はよく見ると途中で捕まえてきた何名かの中学生を縄で縛っており、丸々と太った男子は身動きできないまま助けを求めていた。


「次に沙悟浄さごじょう! 頭髪が将来危なそうな男子にカッパ役をやらせるのはハゲ差別! アフロヘアーのこの子に代わって貰い!! あとサルの役をイケメンがやるのもよくない! あんたは主役から降りなさい!!」

「ええ……」

「ひどい、俺はサルの役でもいいなんて……」


 ドン引きする正輝を眺めながら、縄で縛られた細身の中学生男子は嘆き悲しんでいた。


「あと三蔵法師を女子がやるんはトランスジェンダーへの配慮が足らへん!!」

「そんなこと言ったって、流石に三蔵法師は美人がやらないと面白くないんじゃ……」

「せやな、じゃあ三蔵法師やなくて三蔵みくら法子のりこでええやろ。配役変更は先生に伝えとくな!!」

「あ、先輩……」


 なるみ先輩はひとしきり騒ぐと職員室に向けてダッシュしていき、正輝をはじめとする中学生たちは縄で縛られた同級生たちを慌てて解放していた。



 そして文化祭当日……


「いやーん、砂嵐が目に入って痛いわ」

「法子ちゃん! 俺が如意棒にょいぼうで砂嵐を払いのけるよ!」

「ワイは水を出すから、それで目を洗うんや! ちゃんとしたキレイな水やで!!」

「顔を拭いた布巾ふきんは僕が後で洗っておくよお~。ぐふふふ~~」


 馬に乗った美女の三蔵みくら法子のりこと彼女を守る外見がイマイチな孫悟空・沙悟浄・猪八戒の旅はそれなりに観客に受けていた。



「何かすっごくオタサーの姫って感じがするね!」

「朝日さん、それ言っちゃ駄目」


 新聞部員らしい着眼点で演劇を評する朝日あさひ千春ちはるさんに、私はポリコレってこんなのでいいんだっけと思った。



 (続く)

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