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天然女子高生のためのそーかつ  作者: 輪島ライ
第4部 天然女子高生のための大そーかつ
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第117話 ステルス値上げ

 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は(後略)



「寒下さんお疲れ様です。そのオムライスってまかないですか?」

「こんにちは野掘さん。まかないと試食を兼ねてるんだけど、これを見て何か気づくかい?」


 ある日の放課後、硬式テニス部の練習前に自販機でスポーツドリンクを買おうと学生食堂を訪れた私は調理師長の寒下(かんげ)丹次郎(たんじろう)さんが営業終了後にまかないを食べようとしているのを見かけた。


 寒下さんは作ったばかりらしいオムライスにスプーンを差し込み、私に中のチキンライスを見るよう促した。


「この中身ですか? 見たところいつもの学食のチキンライスですけど……」

「値段と大きさは変えてないんだけど、実は鶏肉と玉ねぎを減らしてケチャップを少し多くしたんだよ。原材料費が上がってるせいで今の価格ではこれまでのオムライスを提供できなくてね」

「いわゆるステルス値上げですね。でも、寒下さんが作ったオムライスならこれまで通り美味しいんじゃないですか?」


 寒下さんは以前からスローフードを提唱しているせいでこの学食にも変なメニューが多いが、普通の料理を作る分には優秀すぎる料理人なので問題ないように思われた。


「もちろん生徒の皆さんが美味しく感じるように作るのは変わりないけど、鶏肉と玉ねぎを減らすとどうしても栄養素が偏ってしまってね。できれば今の400円を450円に値上げしたいんだけど、どうすれば納得して貰えるか悩んでるんだ」

「うーん、それは難しい問題ですよね……」


 学食は普通の定食屋やレストランと異なり中高生に栄養バランスの取れた食事を提供することも目的の一つなので、ただ単にステルス値上げで解決したくないという寒下さんの悩みはもっともだった。


「マナ、ここにいましたのね。そろそろ練習が始まりますけど、オムライスの件でわたくしにいい考えがありましてよ」

「堀江さん、本当かい!?」


 私の後からペットボトルを買いに来ていたゆき先輩は寒下さんの話を聞いていたらしく、学食のオムライスを問題なく値上げする方法を思いついたらしかった。


「商売は何でもそうですけど、原価の上昇を価格に転嫁して文句を言われないためにはこのように付加価値を与えればよいのです。パテント料は月1000円でいかがでしょう?」

「なるほど、堀江さんのやり方は効果がありそうだ。パテント料についてはまた後日相談させて貰ってもいいかい?」


 ゆき先輩は寒下さんが食べているオムライスの上で何かを降るジェスチャーをして見せ、私は一体何をするつもりなのだろうと不思議に思った。



 その翌週、昼休みの学食で……


「生徒の皆さん、原材料費の高騰を受け本日からオムライスを450円に値上げさせて頂くことになりました。そのお詫びとして、本日からはオムライスにほっちゃん印のデミグラスソースを使用します。そして提供初日となる本日は特別に堀江有紀さんが自らソースを振りかけてくれます!!」

「このデミグラスソースはわたくしの愛情の結晶でしてよ。拓雄さん、はいどうぞ」

「ほっちゃんのソースが僕のオムライスに!? ヒャッホー!! ほっちゃーん! ほ、ほーっ、ホアアーッ!! ホアーッ!!」


 寒下さんはマイクを持ってオムライスの値上げについて告知し、ゆき先輩は3年生の秋葉(あきば)拓雄(たくお)先輩が注文したオムライスにデミグラスソースでハートマークを描いてあげていた。


「こっ、これはすごい! 俺今日から毎日オムライス頼むよ!!」

「はいはい、栄養が偏らないようにね……」


 ゆき先輩にハートマークを描いてもらおうと早速オムライスを注文しに行った弟の正輝に、私は商品って誰が売るかも大切だなあと思った。



 (続く)

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