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天然女子高生のためのそーかつ  作者: 輪島ライ
第4部 天然女子高生のための大そーかつ
122/181

第110話 耐震偽装

 東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生には(後略)



「ちょっとそこの生徒さん、第三文化部棟は現在立入禁止ですよ。勝手に入らないでください」

「チェス部の備品を取りに行きたいんですけど、少しだけでも駄目ですか?」

「申し訳ありませんが、理事会の決定ですので。まあ大丈夫だとは思うんですけどね……」


 ある日の放課後、学生食堂で2年生の平塚(ひらつか)鳴海(なるみ)先輩にジュースを買って貰ってから一緒に硬式テニス部の練習に向かっていた私は第三文化部棟の前で警備員さんが生徒を引き止めているのを見かけた。


 マルクス高校では現行の耐震基準を満たしていないという理由で先日剣道場が解体されたが、新設部活に対応するため10年前に建てられた第三文化部棟の工事で耐震偽装が行われていたことが数日前に明らかになり、現在は解体と建て直しに向けて生徒は立入禁止となっていた。


「チェス部とか奇術部は大変やな。いきなり部室使えんなったらいくらマイナーな文化部でも困るやろ」

「ですよね。まあこの機会に部室がゴージャスになるとも取れますけど……」

「それがそうとも限らないんだよ。今は予算が下りるかどうかの瀬戸際でね」

「教頭先生、それどういうこっちゃ?」


 第三文化部棟を眺めながらなるみ先輩と話していると、ちょうど現場視察に来ていたらしいマルクス高校教頭の琴名(ことな)枯之助(かれのすけ)先生は私たちに話しかけてきた。


「うちの高校は以前から経営が苦しいから、新しく第三文化部棟を建て直すとしても今より豪華な建物には絶対にならないんだ。今この建物を使っている生徒は30人にも満たないから、理事会では校舎の空き教室を使って貰うというアイディアまで出ているらしいんだよ。流石にそれは教頭として許容しがたいけど、私の権限では意義を申し立てるのが精一杯でね。実はこれから専門家の方が……おっと、来たようだ」

「お疲れ様です。本日は一級建築士として建て替えの視察を担当させて頂きます、シスター・リーフと申します」


 教頭先生がそう言うと正門の方から女性の声がして、そこには聖職者の衣装を着た妙齢の女性が立っていた。


「こちらの女性は第三文化部棟の建て替えを担当して頂くシスター・リーフさんだよ。彼女はキリスト教会で働くシスターでもあるんだ」

「はじめまして、私たちは通りがかった硬式テニス部員です。外国の方ですか?」

「いえ、私本名が姉葉(あねは)秀子(ひでこ)なのでただのニックネームです。実はこの高校のOGなんですよ」

「ま、紛らわしい……」


 シスター・リーフは西洋人系の顔立ちをしているが日本生まれ日本育ちの日本人らしく、私たちに挨拶をすると第三文化部棟の外観を観察し始めた。


「このぐらいの建物ですと、ざっと3億円で済めばいい方ですね。ちなみに予算はどの程度でしょうか?」

「そうですね、文化部棟を建てるためだけに学費を上げる訳にもいきませんから、2億円までならどうにか……」

「中々厳しい状況ですね。ところで、この文化部棟を使っている部活を具体的に教えて頂けませんか?」

「部活ですか? チェス部と奇術部と鉄道研究部と、後は活動休止中の地理研究会だけですが」

「分かりました、それならば数百万円でどうにかなりそうです。これで工事を発注して頂けますか?」

「数百万円!? それは何よりです、ぜひお願いします!」


 シスター・リーフは建て替えの費用を数百万円で済ませるつもりらしく、私は一体どうするつもりなのだろうかと不思議に思った。



 その翌週……


「何や何や、さっきこの辺から爆発音聞こえたで! あっ、あれか!?」

「なるみ先輩、第三文化部棟が木端微塵(こっぱみじん)ですよ!!」


 放課後の練習中に第三文化部棟の方から爆発音が(とどろ)き、驚いた私はなるみ先輩と共に様子を見に行っていた。


 シスター・リーフはダイナマイトで第三文化部棟を爆破したらしく、してやったりという表情をしている彼女の近くでチェス部員や奇術部員たちはorz(こんなポーズ)になってくずおれていた。


「ああああ、僕たちの文化部棟が……」

「迷える子羊たちよ、このようなことでくじけてはなりません。チェスもマジックも鉄道の研究も、全ては青空のもとで行えることではありませんか。神がかつてバベルの塔を破壊した時のように、あなた方の部活動はここから新しく始まるのです」


「何や知らんけどええもん見れたな! 芸術は爆発や!!」

「上手いことまとめようとしないでください……」


 宗教的説法を行っているシスター・リーフと爆破された第三文化部棟を見て目を輝かせているなるみ先輩に、私はいつの時代も苦難にあえぐのは立場が弱い人たちだなあと思った。



 (続く)

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