表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/1233

第97話 キャンプ

「よし、今日はここまでだな。周囲に目印が無いように見えるだろうが、そんなことはない。さて、何かわかるか。」


引率役の傭兵がそう声を上げる。地平線もなく、遠くなったものはただ霞んで白く消えるこの世界、遠くを見てもただどこかにあるだろう遥か高い山がその影を主張する場所はあるが、距離を測れるようなものではない。

オユキはさて何かあるだろうかとトモエに抱えられたまま周囲を見渡せば、空にはただ位置を変えた太陽、地面にはと改めて見れば、人が通ったからできたのであろう、そんな道の脇に、土が露出した場所がある。

ああ、あれの事かと、視線を向けて少年たちが何かを見つけるのを待つ。

すると、セシリアから意外な答えが出て来る。


「あのあたりで、たまに人が休んでいるらしいですよ。」

「お、成程。なにか他の血が入ってるのか。ただ、まぁ、そうだな。あってはいるが。」


そういって、困った顔をする引率の男性。

そして、リーリエラがセシリアを誉めている。

とりあえず収拾をつけようと、オユキが声をかける。


「草花の声を聞けるというのも、素晴らしくはありますが、あちら、土を掘り返した後がありますので、それでしょうね。」

「ああ、そうだ。だが、あれだ。お前たちで今後も組むなら、まぁさっきの判断も間違いじゃないからな。

 でもまぁ、一応知っておくといい。町から、そうだな、30~40キロほどか。それくらいの位置に、ああして野営用の場所と分かるように、痕跡がある。未開地は別だがな。」

「ああ、土が出てる、あれか。」

「そうだ。国法で決められていてな。大体、魔物と戦わない人間が、8時間くらいか。それくらいでたどり着ける距離に、ああして跡を残さなきゃいけない。余裕があるときは、見つけたらその周囲を軽く掘り返して、消えないようにしなきゃいけないしな。」


それを聞いた少年たちは、聞いたことが無いな、そんなことを呟く。

すると、それにミズキリも交じって説明を始める。


「狩猟者でも中級に上がるときに説明されるさ。初級の内は説明されないさ。

 他にも、中級者に上がるときに色々と説明されるぞ。というか上がるためには研修もあるしな。」

「そうなんですね。」

「ああ、人に寄るだろうが、全部で2ヶ月くらいか、それくらいかかったな。」


ミズキリの話に、少年たちが感嘆の声を上げる。

そして、一方のオユキは、どうっしても歩幅の関係で遅れがちになるため、途中から小走りで一団に合わせていたのだが、やはり途中から疲れが出始め、見かねたトモエに運ばれるという一幕もあった。

少年たち、その一団で最も背の低いアナと比べても、頭一つは低く、以前氾濫の時にその後始末に出てきた子供と、下手をすれば変わらない体格なのだから。


「さ、話はそれくらいにして、野営の準備だ。手順を説明するから、こっちにこい。」


そうして、指示に従い、各々が作業を開始する。

その間も周囲を警戒する人間、設営をする人間、他にも今は必要ないが状況によっては必要になることを説明される。

その説明でよくわからないと、そういう事があれば、少年たちも積極的にその疑問を投げかける。

ただ、傭兵にしても、状況によるものは、どうしても状況を揃えなければ説明しきれない、そんなこともあるようで、回答に窮する、そんな場面もあった。


「そうだよなぁ、山岳地帯とか、極環境とか、行かなきゃ想像も難しいよなぁ。」

「いえ、知識として聞いた、それだけでも意味はあるものですから。」

「そうだといいんだが、そっちの研修は、もう研修じゃないからな。

 かといって、似たような環境なんて作れるわけもないしなぁ。

 せいぜい魔物の多い危険地帯くらいか、森の中でも、やるか。」

「あの、それで怪我をするようなことがあれば、本末転倒とも思いますが。」


そう、オユキが話しかけているのは、引率の傭兵の男性。

いつも受付に座っている、顔なじみではあった男性だが、聞けば始まりの町で傭兵ギルドをまとめる立場の人物とのことだった。

内情に詳しいそぶりを見せ、その場であれこれと決めるそぶりから、それなりに上位の人間だろうと思っていたが、まさか長自ら受付に座っているとは、オユキも考えていなかった。

名をアベルという男は、そういいながら、あれこれと今のサービスについて見直しているのだろう、独り言のようなものを呟きながら、考え込み始める。


「そうだな。客に怪我をさせても、それこそ問題だからな。

 ちょっと、周辺で見繕って見るか。いい場所があればいいが。いや、修道者の道の途中、あのあたりの山岳地帯を脇に逸れれば、いけるか。

 教会に話をつけなきゃいけなさそうではあるが。」

「アベルさん、そこまでにしましょう。野営の準備に関してですが。」

「おお、悪い。そうだったな。」


そう言うと、アベルは手早く次から次へと指示を出す。

野営地の設営からも、オユキはその身長から外され、どうしてもオユキの背丈に合わせて設置できる天幕などは低すぎるのだ、周囲を軽く掘り返したり、積んできた荷物から薪を降ろして、積み上げる等の作業に従事することとなった。


「背丈が低い、それだけでここまで不便を覚えるとは。」

「しっかり食え。んで、良く寝ろ。それでも伸びなきゃ、それ以外の事を考えるんだな。

 ここらにはいないが、小人族や妖精属に比べりゃでかいんだ。」


オユキがぼやくと、アベルが頭に手を乗せ乱暴にかき混ぜる。

トモエによって整えられた髪が崩れるからと、体を逃がせば、アベルは少し驚いたような顔をする。


「食事ですよね、量が食べられないのは、確かにどうにかしなければいけませんよね。」

「ま、合う合わないはあるだろうさ、無理に食べて拒否感を覚えるくらいなら、他を探すほうがましとは思うがね。

 にしても、他の連中がほめるはずだ。」

「これでも異邦人ですから。見た目通りとはいきませんよ。」

「分かっちゃいるが、技術ってのはすごいもんだよな。」


オユキが抜け出した、それが意外だったのかアベルは自分の手を見ている。

その様子に、オユキ自身も初めて武と呼ばれるものに触れて、自分よりも背丈も年も低い、そんな相手にあしらわれた時に感じた、あの、よくわからない、ただ呆然とするしかなかった感覚を思い出す。


「人の積み重ねた物ですから。正直、私も初めて触れたときは、ただただ訳が分からないと、そう思いました。」

「人相手に、そこまでするものかと、そう考えてしまうが、凄まじいものだな。

 あとは身体がついてくれば、それこそもう二段くらい上がるんじゃないか。」

「分かりますか。」


オユキは改めてアベルに視線を合わせるとそう告げる。


「まぁ、な。トモエにしてもそうだが、お前らが互いに確認するときの視線の高さ、動きの癖、そういった物を見れば、元がどんなか、何となくわかるさ。特に今、無理やり型にはめようと窮屈そうに動いてるの見ればな。

 ま、イマノル程度じゃ気が付かんだろうがな。逆だったのか。」

「ご明察の通りです。私がもともとあちらの姿を。」

「下手すりゃ倍半分か、それでまぁ、歩き回れるもんだ。」

「練習の機会はいただきましたから。イマノルさんの面倒を見たのが、アベルさんですか。」

「ああ、クララとイマノルが新人として入ってきたときに、俺が教官でな。

 まぁ、なんだかんだあって、抜けてみれば翌年には二人して傭兵になって、また俺の前に来たってわけだ。」

「いい後輩ではありませんか。それに慕っての事でしょう。」


オユキの言葉に、アベルはただ視線を空に向けて首をひねる。


「騎士として鍛えたつもりだったんだがなぁ。」

「お互い、ままなりませんねぇ。」

「まぁ、それも、それこそが人生なのかもなぁ。」


お互いにそんなことを口にして、どうにもならないものに、ただ思いを馳せる。

後悔はないが、ただ、掛け違えていればどうなったのだろうか、ただそれだけを考える、郷愁のような、懐古のような、ただ暖かさを感じる感情に根差した、そんな何かを共有していた。

アルファポリス

https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/160552885

カクヨム

https://kakuyomu.jp/users/Itsumi2456

にて他作品も連載しています。

宜しければ、そちらもご一読いただけましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー アルファポリス
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ