表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/1233

第90話 後始末

そうして、暫くあれこれと話しながらも、肉を拾い集めていると、徐々に人出が増え始める。

氾濫も終わり、戦闘に参加できない人々も、周囲の大量に転がる収集物を拾い集める作業に、駆り出されたのだろう。

そんな中、オユキも聞き覚えのある快活な声が聞こえる。


「あ、オユキちゃん。お疲れ。怪我とかしてない。」

「ええ、この通り。流石に夜明けからですから、少し疲れてきましたけど。」

「そっか。もう少ししたら、日も沈み始める時間だしね。お疲れ様。ありがとうね。」

「いえいえ。助け合いとはこういう事でしょう。」


元気いっぱいと、そんな様子で話しかけて来るフラウと会話をしながら、オユキはただただ肉を運び続ける。

拾う手がいい加減脂で滑り出し、匂いも気に始める。

痛んだようなものではないのだが、それでもこれだけ大量に肉が集まると、特有のにおいがして、それが鼻につき始めてしまう。

セシリアも、早々に匂いにあてられて、肉からは離れて、辺りに落ちた、それこそ草原の中、少し背の高い草に紛れてしまう魔石を探して、拾い集めている。

氾濫が終わったとはいえ、そこはまだ町の外。

まばらに魔物はどうしても現れるため、人が増えれば、その分護衛の手がいる。

先輩の狩猟者であったり、傭兵達は、最初の内は回収に参加していたが、今は方々へ散って、護衛をしている。


「少し手を洗いたくなってきました。」

「あー。」


ついにオユキがそう零せば、フラウがよくわかると、そんな顔で頷く。


「いいんじゃないかな。これから町の人も出て来るだろうし。」


いうが早いか、フラウは肉の積み上げられた一角で、記録をつけているギルドの職員に声をかける。


「すいませーん。ちょっと休憩してきてもいいですか。」

「ええ。構いませんよ。疲れましたか。」

「私じゃなくて、オユキちゃんが。脂がひどいみたいで。」

「ああ。狩猟者の方ですし、武器が持てなくなるほどだと、気になりますよね。

 大丈夫ですよ。人手はまぁ、あるに越したことはないですが。」


その言葉に、オユキは頭を下げてお礼を言う。

職員と、フラウに。


「その、わがままを言って申し訳ありません。」

「いえいえ。そもそもこうなってしまえば参加は任意ですから。

 そうですね。ついでにギルドへ伝言をお願いしても構いませんか。

 そろそろ荷車を出して、町中に運び始めたほうがいいでしょうから。」

「分かりました。それでは、少し失礼しますね。」


オユキはそう断ってから、町中へと向かって歩き始める。

トモエは、少年たちと一緒に行動しているが、離れるオユキに気が付き振り返る。

それに、手を一度指さしてから軽く振ると、言いたいことが分かったのか、遠目にも分かるほどに苦い顔をしてから頷いて答える。

どうやらトモエも手指にまとわりつく脂に、辟易とし始めているらしい。

直にトモエたちも抜けてくるだろう、そう考えながら、門を抜けると、そこは朝方と違い、人がずいぶんと増えており、門の脇では治療を受ける物もいれば、提供されている食事を食べながら座り込み、寛いでいるものもいる。


「お。どうした。休憩か。」


門番にそう声をかけられ、仮登録証を差し出しながら、オユキは反対の手を軽く振る。


「はい。肉を拾うにも、脂がひどくて。」

「ああ。まぁ、仕方ないとはいえ、気になるよな。

 あっちで、肉を料理するために準備してる一角がある。お湯を貰って流すといい。」

「ありがとうございます。」


オユキが言われた一角に行けば、そこでは気が早いのか、それとも膨大な量を片付けるにはそうしなければいけないのか。既に料理が始まっており、見覚えのある顔もあった。


「すいません。お湯を貰っても。」

「おや、オユキかい。無事でよかった。流石にここで体を洗うのは難しくないかい。」

「いえ、手の脂を落としたくて。」

「ああ、石鹸の類は持ってきてないからね。完全には落とせないかもしれないね。」


そう言うと、フローラが木でできた器にお湯を入れて、それをオユキに手渡す。

道端にそれを置くと、オユキはそれに手を浸して、軽く揉みながら、どうにか気にならない程度になればと、手を洗う。


「まだ拾うなら、ちょっと奥に行った雑貨屋で、手袋を買うのもいいかもしれないね。」


そんなオユキの様子を見ながらも、大量の野菜を下処理しつつフローラがそう声をかける。


「今日だけで駄目にしてしまいそうですね。」

「仕方ないさ。ずいぶん早く終わったみたいだけど、魔物の数は多かったんだろう。」

「ええ。そこら中に、まだまだ肉が転がっていますね。」

「さっきから手の空いてるのが、出て行っちゃいるが、まぁ、これまで通りならそれこそ2,3日仕事だからね。」

「今回は、あと一日あればどうにかなりそうではありますが。」


オユキはどうにか気にならない、その程度まで脂が落ちたと、木の器から手を出すと、布で拭きながら、この汚れたお湯はどうしたものかと考える。

それをフローラが、手早く脇にひっくり返し、その場でお湯を捨てると、汚れものとして分けているのだろう、器がいくつか置かれている場所に、放る。


「あとで、このあたりもまとめて魔術ギルドの人間が洗浄しに来るからね。」

「成程。時間をとって、そういった技術も学びたいですね。」

「身ぎれいにしておくのは悪い事じゃないさ。私もだけど、それくらいなら使えるからね。」


そういってフローラが鍋に水を何もない空中から落とす。

そんな様子に、笑って礼を告げてから、狩猟者ギルドへと足を運ぶと、その中は人の姿は少なくとも、忙し気な空気が漂っている。

入り口から入ってきたオユキに、ミリアムがすぐに気が付き、声をかけて来る。


「あら、オユキさん。」

「休憩がてらではありますが。外の職員の方から、そろそろ荷台が欲しいと。」

「そうですか。ありがとうございますね。どうします、仮眠室、使われますか。」

「いえ、そこまで疲れているわけでもありませんから。」


そう答えたうえで、ふと気になって、尋ねてみる。


「そういえば、トロフィーを得たのですが。」


オユキがさて言葉をどう繋げようか、そう考える間もなく、ミリアムが歓声を上げる。


「まぁ、おめでとうございます。どうされますか。記念品にしますか、加工しますか。」

「そのあたり、ご相談させて頂こうかと。トモエも得ていますし、少し良い武器を、そんな話をしたところでもありますから、そちらの元手に、そうも考えたりしています。」


勢いに押されながら、オユキが応えれば、ミリアムは手早く取り出した紙に何かを書きつけると、それを他の職員に渡す。


「それは、なかなか難しいところですね。分かりました、しっかり相談に乗らせていただきますね。

 トモエさんもですよね、先にこちらに運んできますので、お二人一緒に改めて来ていただいてもいいですか。

 職員が運ぶので、それと一緒に。」

「外で、魔物の収集物を拾い集めなくても。」

「それは誰でもできますが、トロフィーはお二人の物ですからね。

 神々からの頂き物です。放置するなんてとんでもない。」


その言葉に、そういうものか、そう納得してオユキは従うこととする。

荷車を引く、職員数名と並んで門のところまで戻り、少年たちと作業を続けているトモエに声をかけ、事情を説明する。

ただ、何を得たかは言っていなかったこともあり、量が多かったため、少年たちも手伝いを買って出て、10人程で運ぶ。

荷車からはみ出すほどに立派な、白くつややかに光る角、大人の上半身程は優にありそうな熊の顔。

それらが乗せられた荷車は、当然のように注意を引いた。


「随分と立派なもんだな。これは、お前らが。」

「はい。私が鹿を。オユキさんが熊を。」


門に戻っていたアーサーに声をかけられ、トモエがそう答えると、彼はトモエの肩を叩いて言祝ぐ。


「いや、技術は優れてると思ったが、よくやった。すぐにギルドに持っていくのか。

 これからの祭りで、トロフィーがあればより盛り上がるが。」


それにトモエが職員に視線を向けると、職員達もそれに頷き、ひとまずここに置いて起き、一人が先にギルドで確認してくると戻ることとなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー アルファポリス
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ