表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/1233

第81話 開戦前

狩猟者ギルドに入れば、やはり一団の湛える緊張感のせいだろうか、それとも昼を少し過ぎたくらい、かなり早い時間に戻ってきたせいだろうか。

ギルドの受付、見慣れた女性がすぐに声をかけて来る。


「あら、皆さん。どうされましたか。」

「ああ。ミリアム、アーサーからだ。イマノルは早ければ今夜とそういっていた。」

「そうですか。皆さんは、暫くこちらで待っていてくださいね。」

「その間に、納品でもしておくさ。

 いや、何人かで食事を買いに行っても大丈夫か。」

「そうですね、時間が時間ですし。食事から戻られてにしましょうか。」

「その方が助かるか。分かった、近場で済ませて来る。」


ミズキリの言うように、それぞれが納品を行い、ミズキリの案内に従い傭兵ギルド近くで、会話も少なく食事を済ませ、戻ってみれば、ギルドの中は慌ただしげな雰囲気に包まれていた。


「あら、お早いお戻りですね。」

「まぁ、な。」


ミリアムが早速気が付き、ミズキリに声をかけると、そのまま話を進める。


「それでは、ミズキリさん、ルーリエラさん、イリアさんの三名は二階、奥から二番目の会議室へ。

 残りの皆さんは、あちらの奥で少し話をさせていただきますね。」

「わかった。ひとまず今日はこれで。ひょっとすれば、またすぐに会うことになるが。」

「ええ、お疲れ様でした。」


ミズキリとオユキが軽く言葉を交わして、それぞれ言われた場所へと移動する。

さて、この雰囲気であれば、町は防衛体制、そういう事なのだろうが、一体どういった役目を与えられるのか、オユキはそんなことを考えながら、ミリアムに連れられ、並ぶそれぞれの受付とも違う一角へと案内される。

そう言えば、最初に変異種に出くわした時も、ここで話をしたな、そんなことを考えていると、ミリアムは早速とばかりに話を始める。


「アーサーさんからの書簡にも書いてありましたが、今夜から狩猟者ギルドは氾濫の対策を行うことになります。

 入会の時にもお話ししたかと思いますが、狩猟者の数少ない義務ですから、皆さんも協力をお願いしますね。」

「ええ、分かりました。具体的には、どのように。」

「今日のところは、皆さんには特にお願いすることはありません。

 実際に氾濫が起こったら、非常事態の鐘が鳴りますので、それが鳴ればギルドまでお越しいただきたいですが、まぁ寝ていて気が付かない方もいますからね。

 夜の戦闘はどうしても難易度が上がるので、初心者の方にはお願いしませんので、本番は明日の朝から、そう考えておいてください。

 なので、今日は装備の確認、それを徹底して行ってください。」


ミリアムはそういうと、それからこれを、そういって、いくつかの木札を机の上に置く。


「氾濫に参加する狩猟者の方へは、補助金が出ますので、こちらがその証明用の木札です。

 武器や薬の購入、その際にお店で見せてくださいね。」

「武器は、今使ってるのじゃ、駄目か。」

「ある程度、長期戦になりますから。予備がないと難しいですよ。

 馴染んでいない物が不安と、そういう事でしたら、なるべく馴染ませてください、そうとしか言えません。」


シグルドの問いに対して、ミリアムの答えはにべもない。


「その場合、荷物が多くなりそうですが、おいておけそうな場所は。」

「なるべくご自分でお持ちいただくことになりますが、皆さん、仮登録の方は門の側に配置されますので、門の内側に、守衛の方に指示を仰いでおいておくのもいいかと思います。」

「分かりました。予想では、どの程度の長さになるでしょうか。」

「長くても二日、そのあたりでしょうね。

 前回からあまり時間も経っていませんし、間引きも進んでいますから。」


その言葉に、オユキは思わず考える。

二日分、食事なども含めて考えれば、かなりの量になる。武器の予備もそうだし、手入れの道具、薬。

それに休憩なく、二日、それだけ体力が持つのかも。


「よほどの状況でもない限り、休憩もなしにという事にはなりませんから。」


そんな思考を見て取ったのか、ミリアムがそう告げる。


「三人は経験がないでしょうけど、シグルド君たちは、参加はせずとも、どのようなものかは知っていますよね。

 周期が短い以外は、それと変わりませんから。」

「分かりました。その、何か具体的に持っていたほうがいい、そういうものはありますか。」


オユキがそう尋ねれば、ミリアムは少し考えたうえで、応える。


「予備の武器が二つ、傷薬、包帯、軽食、水筒、そういった物でしょうか。

 どうしても長丁場になりますし、状況によっては交代まで時間が空くこともありますから。」

「成程。ありがとうございます。それでは準備をして、休んでおきますね。」

「はい、そのようにしていただけると。

 皆さんは、普段違うところでしたか。」

「私達とトラノスケは、同じ宿です。渡り鳥の雛、だったかと。」

「俺たちは、教会の孤児院だ。」

「分かりました、何かあれば、そちらに。

 あ、シグルド君、少し待ってくださいね。ロザリア様に手紙を書きますから。

 それと、狩猟者ギルドの判断よりも、教会として人出がいると言われたら、そちらに参加してください。」


言われて、シグルドは数度瞬きをして、問い返す。


「いいのか。」

「はい。教会の仕事も非常に重要ですからね。

 どうしたって怪我人は出ますから、その対応で人手はどうしても必要でしょうし。」

「分かった。それでいいならそうする。」


その返しに、オユキはおやと、そんなことを思ってしまうが、トラノスケやイリアの言葉が少年に大きな影響を与えたのだろう。これまでであれば、前線に、戦いの場に立つ、そう言い出すかとオユキは考えていたが。


「じゃ、必要なことをそれぞれするか。教会への連絡は任せたぞ。

 自分たちの準備以外にも、教会で必要な買い出しを頼まれるかもしれない。

 そのあたりは、ちゃんと分けるように気をつけてな。」


そう、トラノスケがシグルドの肩に手を置いて語り掛ければ、少年は途端に渋い顔をする。


「そっか。私たちの分と、教会の分は違うんだ。」


アナが言われて気が付いたと、そう呟くと、ミリアムが少し不安そうな顔で語り掛ける。


「えっと。狩猟者としての買い物だったら、そちらの木札を見せて話してもらっても構いませんが、教会の買い物のときには使わないでくださいね。

 予算の出所が違いますから、一緒にされると、その、後でお呼びして細かく聞かなきゃいけなくなりますから。」

「面倒だな。」

「ま、責任があるってのは、そういう事だ。

 こっちとおんなじだ。よくわかんなきゃ、教会の人について来てもらえばいいさ。」

「お使い位、出来るさ。」


そういうシグルド少年を、髪をかき混ぜるようにしながら、トラノスケが話す。


「お使いならな。これはお使いじゃないんだ。

 準備が足りなければ、治せたはずの怪我が、長引くかもしれない。

 それこそ、誰かが準備不足で死ぬかもしれない。

 命がかかってる仕事だ。だから、不安なら人を頼ればいい。誰だって、そんな簡単に人の命の責任なんて取れやしないからな。」

「分かった。聞いてみる。」

「そう、なんだよね。町が魔物に襲われるんだよね。」


トラノスケの言葉に、改めてそれを実感したのか、アドリアーナの表情が曇る。

トモエは軽く手を叩いて、注意を引きながら、声をかける。


「今日と同じですよ。時間があるなら、それを使って備える。

 そして、いざ事態が起こったのならば、出来ることをする。

 それ以上ができる人はいません。それ以上を求める人もいません。

 過剰な緊張は、しなくても大丈夫です。私達よりもはるかに詳しい方々、強い方がもう動いているんです。

 私たちは、私達のできることで手伝う。これはそういった話です。」


トモエの言葉に、少年たちが大きく頷くと、ひとまずその場は解散となり、それぞれがそれぞれの備えへと向かうことになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー アルファポリス
― 新着の感想 ―
[気になる点] 人手を人出との誤変換多数 誤字報告は未実施
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ