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第79話 前兆

「さて、次がいますね。」


トモエがシグルド少年からの質問に答えながら、次に先頭を歩くパウに声をかける。

少年たちの中でも、寡黙な性質の少年は、シグルドがそうしたように振り返らずに頷き、前例があるからか、特に力んでいる風もなく、武器を構え前に進んでいく。

オユキは森の方向に意識を割きながらも、さて今度はどうなる事かと、そう思いながら見ていると、シグルド少年とは逆に、彼は少し武器を振り遅れた。

後1秒、その程度遅れればあわやと、そんなタイミングでの対応になったが、剣の腹で丸兎を捕らえ、そのまま地面にたたき伏せ、討伐を終える。

構えは良かったが、どうやら彼は武器を振るときに、過剰に力を入れてしまったようだ。

結果として、悪くない方向に転んだが、加減というのは難しいものと、オユキはそれを眺めて一人で頷く。

そして、一人で魔物をねじ伏せたパウは、喜んでいるのだろうが、残心というには長くそのままの体勢で動きを止めている。


「はい。すぐに魔物の拾得物を拾って、武器の手入れです。」


トモエが軽く手を叩いてそういえば、パウも弾かれたように動き出す。

その様子に、軽く笑いながら、トモエがパウだけではなく、少年たちに対して声をかける。


「喜ぶな、とまでは言いませんが、ここはまだ周りに敵がいる、そんな場所です。

 それを忘れるほどは、流石に見過ごせません。」

「その、すみません。」


拾い上げた魔物の残留物を片手に、合流したパウがトモエに謝る。


「まぁ、そのあたりも、慣れが必要でしょうから。

 喜ぶこと、結果が出たのですから、それも大事ではありますが、場所を選びましょうと、そういう事です。

 それでは次は、アナさん。」


トモエが声をかけると、快活な少女が今度は前に出る。

一人で魔物の相手、これまでそんなことはしたことが無いのだろう。

遠目にもわかるほどに、ぎこちない動作で前に進む。


「嬢ちゃん。あんまり気負いすぎるなよ。なに、下手をうってもちょっとの怪我で済む。

 むしろ今怪我をしときゃ、その対処も解る。」


オユキが訴え、イリアも森に不穏があるとしたことで、少年たちに交じっているトラノスケがその背中に声をかける。


「そう、ですね。」


アナは少年たちと違い、一度振り返ってから、何度か剣を振ると、トモエに視線で問いかける。


「はい。その調子です。左手に少し言ったところに、一匹います。それを狙いましょう。」


トモエがそういえば、アナは頷いて、軽い足取りでそちらへと歩き出す。

そして、魔物が気が付いた、そう見えたときに改めて武器を構え、危なげなく、まさに練習通り、そのように剣を振り、飛び掛かってきた丸兎をうまくとらえて、先の二人と違い、魔物が地に落ちることなくいくつかの物品に代わり、落ちていく。

アナはそれを手早く拾い上げると、そそくさと、元の場所へと戻ってくる。


「なんだか、拍子抜けしました。」

「油断は禁物ですよ。怯えるのもよくはありませんが、戦っているのは、あくまでこうして安全な状況を作り、丸兎一匹なのですから。」

「そう、何ですけど。シグルドじゃないけど、なんだか、こんなあっさりだなんて、そう、思ってしまって。」


そう、アナが剣を構えながら言う。


「まぁ、な。そうなんだよな。おっちゃんにも言われたけど、たった一日半。力だって付くわけじゃない。

 それでも、初めてと、今日、こんなに変わるんだもんな。」


それに、シグルドが続いていえば、パウも頷きながら、彼にしては珍しく、長くしゃべる。


「でも、何故だろうな。確かに登録した時に、傭兵ギルドで訓練を勧められたが、こんなに効果があるとも思っていなかったし、受ける人間も少ないと聞いていた。

 少しでも、効果が出るなら強制してもいいような気がするが。」

「人手が足りないのさ。狩猟者ギルドだけじゃな。」


そういって、トラノスケはパウの頭に手を置いて話始める。


「所属しているのが基本的に、個人ででも動き回る狩猟者だ。ひとところに残って、教えようなんて狩猟者がまずいない。で、狩猟者だって、傭兵に習うのは、なんかおかしな気がするだろ。

 傭兵に習うなら、傭兵ギルドに入る、その方が自然だからな。」


トラノスケがそういえば、少年たちもそれで腑に落ちたのか、彼の言葉に頷いている。


「それに、一番大きな違いがあるからな。

 戦いを避ける、護衛が主体なんだから当然だ、そんな傭兵と、魔物を探して戦う狩猟者、やっぱり根っこが違うからなぁ。」

「そうか。それか。」

「他にもあるんだろうが、俺がぱっと思いつくのはそれくらいだな。」


そういって、トモエに視線を送れば、一つ頷いてトモエも話始める。


「加えて、護衛、誰かを守るためと、積極的に倒すため、そこには明確な理合いの違いもあります。

 例えば、イマノルさんは、ああして盾を持っているでしょう。

 ですが、あなた方は盾を持とうと、あのように重たい鎧を着ようと思いますか。」

「いや、森に入れば邪魔になるし。」

「そうですね。前提となる装備、そこにもやはり差が出てきます。

 装備が違えば、正しい動きというのも変わりますから。

 今は皆剣を持っていますが、例えばこの中で誰かが槍を持てば、立ち位置も変わってきます。

 そうですね、あなた達は、今後役割分担など考えていますか。」


そうトモエが問いかければ、少年たちが顔を見合わせ、首をひねっている。

その様子に、トラノスケが声をあげて笑いながら、話す。


「5人いるんだ、全員同じこと、というのも難しい。現に今だって、一人が戦って、残りで周りの警戒なんかをしてるだろ。

 すぐに一人で全部できるようになる、そんなのは無理だし、時間をかけたって難しいかもしれない。

 なら、今後もこの5人で一緒に魔物を狩るなら、そういうのも考えてみればいいさ。」

「そっか、そうだよな。

 遠出するなら、何人かが寝て、何人かは起きてなきゃいけないわけだし。」

「ま、それこそ、これから考えたり、試していけばいいさ。

 ほれ、また手ごろなのがいるぞ。次は誰が行く。」


トラノスケとトモエが、そうして面倒を見ながら、残りの二人、アドリアーナとセシリアも、それぞれに危なげなく丸兎を討伐する。

合間合間、なんだかんだと、彼らを庇う位置に立ち続けている、イリア、イマノル、ミズキリ、オユキも、それぞれに相応の数を間引いている。


「肉はやっぱりかさばるね。」


落ちているものを拾い集め、袋に入れて、イリアがそう呟く。

彼女の持つ袋は、既に半分ほどが埋まり始めていた。


「普段はどの様に?」

「肉を落とす魔物ばっかりでもないしね。それにある程度は、その場で焼いて食べるし、余るようなら、それこそ埋めてきちまうね。」

「成程。」


そう、応えたときに、オユキは妙な寒気を覚えて、森を振り向く。

急な動きに、イリアも何事かと、耳を森に向ける。


「どうかしたかい。」

「いえ、妙な寒気が。」

「旦那、ちょっといいかい。」


イリアがイマノルに声をかければ、彼も少し厳しい表情を浮かべている。

その隣では、眉を顰めたルーリエラが立っている。


「ああ、そちらも気が付きましたか。

 ルーリエラさんも、淀みが強くなったと、そのようなことを仰っています。」

「どうする。少し見てきたほうがいいかい。」

「そう、ですね。」


そういってイマノルは、顎に手を当てて少し考えこむ。

その様子にミズキリも不穏を感じたのか、側に寄ってくる。

一方で、全員が無事に魔物を打倒したことで、ひとまず休憩と、明るい雰囲気になっていた少年たちも、不穏を感じたのか、そわそわと落ち着きなく、あたりを見始める。


「何かあったか。」

「森の淀みが、ここからでも分かるほどになっているようです。

 この後、どうしようかと。」

「町に戻ろう。なんにせよ、それが第一だな。」


ミズキリの決断は早く、イマノルもそれに頷く。


「そうですね。」


そう、話がまとまると、少年たちに声をかけて、町まで戻る。

その際、イマノルははっきりと告げる。


「恐らく、今夜か、明日の朝には、溢れるでしょうね。」

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