第77話 木精
その後は、明日の予定を簡単に話、イマノルの協力も得られることとなったため、再び少年たちを連れて、狩りに出ると、そういう話になった。
朝直ぐというわけではなく、オユキの傷の経過を確認するため、診療所によるため、昼前からの出発にはなったが。
宿に戻り、いつもの面々で話をしていると、それを面白がったミズキリをはじめとした面々も付き添うこととなり、10人を超える、なかなか大規模な数での行動となった。
翌朝、診療所にて、オユキは完治と言われたが、食事の量に関して相談すると、マルコは難しい顔をする。
「正直、異邦人の方は、そのあたり差が激しすぎて、私も分かりかねているんですよね。」
「そうなのですか。」
「見たところ、標準的な人種ではあるのですが、栄養不足であったり、そう言った症状が出ているわけでもありませんから。どうしても心配だというのなら、食欲を増進させる効果のある薬も出しますが、病気というわけでもない方にと、そう思ってしまいますし。」
そういって、マルコは唸り声を上げる。
「とはいえ、年齢と体格を考えれば、食べる量、周りが口をそろえて少ないというのであれば。」
その様子に、オユキとトモエは目を合わせ、トモエが話を打ち切る。
「いえ、少し様子を見て、また伺いますね。
こちらに来て日も浅いですし、違和感を覚えたときに改めてお伺いしますね。」
「そうですね。食べ過ぎても毒ですから。症状が表面化する前に、そう思ってしまいますが、今回はそうしましょうか。」
そんなことを話し、狩猟者ギルドに向かえば、そこには今日一緒に動く予定の全員が集まっていた。
そこで簡単にお互い名前の交換をすると、ルーリエラが少年たちの一人、セシリアを見て、首をかしげながら話しかける。
「木精種、いえ、半分ですか。珍しいですね。」
言われたセシリアもキョトンとしており、他の者もよく分からぬ、そんな顔をしている。
「その、外見は私達と変わりありませんが。」
オユキが代表して疑問を口にすると、リーリエラはセシリアを見ながら、話し始める。
「花精として、近しい種族は見間違えませんよ。混ざっていなければ、木精らしい髪に葉が混じったり、そういう特徴も出るのですが、他の種族に寄りますからね、あちらは。」
「そういうものですか。」
「そういうものですね。雄株が存在しない種ですから、自然発生以外では、他種族との間に子を設けるしかありません。そのような中で、そういった特質になったのでしょう。」
セシリアは、自分の話をされているのだろうかと、不思議そうにルーリエラを見上げている。
「まぁ、何というわけでもありません。望むのであれば、簡単な手ほどきくらいはしましょう。
ただ、種が違うのでどうしても細かいところまでは難しいですが。」
「えっと、何かあったりとか、そういうわけじゃないんですか。」
セシリアがぼんやりとした表情で、ルーリエラにそんなことを尋ねている。
「何かとは、何でしょう。」
尋ねられた側も、質問が漠然としすぎているためか、何を聞かれているのかが解らない、そう返すしかないようだ。
「その、人と違うと、そういう事ですよね?」
「ああ。」
ルーリエラはそう頷くと、道すがら説明しましょう、そういって町の外へ向かうように、皆を促す。
セシリア本人はぼんやりとした顔をしているが、残りの少年たちも、驚きを顔に浮かべはしても、それ自体に嫌悪などを覚えている様子はない。
ミズキリを先頭に、門まで向かう最中、ルーリエラはセシリアと少年たちに向けて木精、その特徴を話すと、トモエも、それを興味深げに聞く。
「木精と、大きく括ってはいますが、元になった木によって特性が大きく変わります。私も細かいところまでは、流石に説明できませんので、大枠だけ。
混じりけのないものであれば、先ほども言ったように、髪に葉や蔓が混じったり、足ではなく根であったりと、非常に分かり易い植物としての特徴が出ます。
生態に関しては、非常にのんびりしていますね。花精の私達も、人から見ればそう取られることもありますが、木精は、その私達から見ても、気の長い種族です。」
「あー。なんか、わかるな。こいつ、放っておくと一日中花壇の前に座ってたりするからな。」
その説明にシグルドが、そんなことを言い出す。
「いえ、それどころではありませんよ。それこそ5年、10年前の事を昨日とそう変わらぬ、そのように考える方が多いですから。」
「俺も2回ほどあったことはあるが、まぁ、元になってるのがそれこそ何事もなければ、数百年、長ければ世界の始まりから、そういった存在らしいからな。」
ミズキリもそういいながら苦笑する。
「私達も、元の花によっては一年で枯れ、次の世代に代わるものもありますから。
これでも、彼女たちに比べれば、人に近い感性を持っているんですよ。
話が逸れましたね、花壇の前に座っているという事でしたが、単に落ち着くのと、そういった環境で栄養を得るからでしょうね。」
「えっと、それは。」
「私もできますし、一日に一度はそういった食事をとりますよ、土から栄養を、日の光で活力を得ていますから。
疲れると、花壇の側で休みたくなったりしませんか?」
「あ、なります。」
「あとで、少し効率よく、栄養を吸う方法を教えますね。他にも種族としての特性があるのですけど、どの程度まで使えるか分かりませんから、外で少し試しましょうか。」
「その、お願いします。」
そうして、少年たちとルーリエラが和気あいあいと話しているうちに、一団は門へとたどり着く。
随分と豪華な護衛だとアーサーにからかわれながら、イマノルと合流して町の外に出る。
オユキにとっては、一日ぶりではあるが、やはり壁の外、広々とした光景は胸がすくもので、伸びをしながらその風景を楽しむ。
そんなオユキをほほえましげに見ながら、この団体のリーダーとしてミズキリが改めて注意事項などを口にする。
「さて、平時よりかなり魔物が増えてるからな。周囲の警戒だけは怠らないように。
それと餓鬼ども、この前やらかしたらしいが、今回は指示に従うように。
最も、よほどの事でもない限り、こっちから口をはさんだりはしない、いいな。」
それに少年たちが頷けば、ミズキリは先頭を歩くことを止めて、トモエに進路を譲る。
「本当なら、実践の前に軽く稽古をしたい気持ちもありますが、そうすると時間と体力をどうしても使ってしまいますからね。」
代わったトモエがそういえば、昨日の事を思い出したのか、少年たちの顔が曇る。
「昼には戻ってきましょうか。では、一昨日と同じです。
一人が戦闘を、三人で周囲の警戒を。後の一人は、武器の確認ですが。」
そこでトモエは一度言葉を切って、ルーリエラと並ぶセシリアを見る。
「そうですね、セシリアさんは、ルーリエラさんにまだ聞くこともあるでしょうから、まずはセシリアさんにはそちらを行って貰いましょうか。
はいそれでは、各員武器を確認、問題が無ければ、移動しますよ。」
トモエが軽く手を鳴らしながらそう言えば、少年たちはわたわたと鞘からそれぞれの武器を抜き、持ちてや刃を確認し、数度振ってそれを確かめる等、必要な作業を行う。
その様子をほほえましげに見る面々と、早速とばかりにセシリアに話しかけるルーリエラ。
溢れが近く、魔物が活性化しているとは思えないほどに、それはのんびりとした風景であった。
「さて。今日は何事もなければいいのですが。」
起き抜けに柔軟は行っているが、改めて体を伸ばしながらオユキが呟けば、トラノスケが嫌そうな顔をしながら、フラグにならないことを願っているよ、そう呟いた。