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第68話 よく見た光景

少女の言葉に、少年がなにを言うでもなく、ただ軽く頭を下げたのに、トモエが頷き、少年たち5人が揃うのを改めて待つこととなった。

その間も、少年はただ悔し気にうつむいたままで、入れ替わったもう一人の少女は、何があったのかわからない、そんな様子で、ただ首をかしげていた。

外から戻ってきた少年たちも、順に呼ばれていき、ひとまず狩猟者ギルドでやることはない、そう判断したオユキとトモエは、5人組の少年たちを連れて、傭兵ギルドへと足を向ける。

意外なことに、それにイリアとトラノスケもついてきた。

イリアに関しては、待っている間に、マルコへの連絡のため、一度離れていたが。


「イリアさんは、カナリアさんを見ていなくても大丈夫ですか。」

「ああ、帰りに少し覗いたが、疲れと、薬だろうね、良く寝ていたさ。

 熱も出ていないようだったし、あのまま寝かしておくのが、一番さね。

 起きれば、自分で治癒をするだろうし。」

「そう言えば、カナリアさんは、治癒の魔術でしょうか、奇跡でしょうか。使えるのですね。」

「奇跡のほうだね。それもあって、近くの村にたまに出張しては、マルコの薬の販売と一緒に、現地で奇跡を行使しているってわけさ。あたしは今回の護衛でね。」


そうオユキとイリアが話していると、トモエが首をかしげながら、疑問を口にする。


「その、魔術と奇跡。その違いは何でしょうか。」

「あたしも詳しくはないから、詳しいことは、それこそ教会か魔術ギルドで聞いておくれ。

 奇跡は、神の力を借りていて、魔術はマナを使って人が行う。まぁ、だいたいはそんな認識さ。」

「成程、やはり一度魔術ギルドには行ってみたいですね。」

「まぁ、興味があるなら止めやしないが、あたしはちょっと近寄りたくないねぇ。」


そういってイリアが苦笑いをする。

快活でよく日焼けした、そんな女性だ。

魔術、ゲーム時代と変わらなければ、それこそ机にかじりついて研究する、そういった事が必要な技能なのだ、苦手意識があっても不思議ではない。


「まぁ、今後、ですね。イリアさんは傭兵ギルドで、どのような御用なのでしょうか。」

「傭兵ギルドにも、所属しているからね。カナリアの護衛完了の報告と、狩猟者ギルドからお使いも頼まれているのさ。」


そういって、イリアは片手に持った丸めた紙を軽く振りながら、そう応えると、たどり着いたギルドへとためらいなく入っていく。

オユキとトモエ、それから何を話すでもなくついて来ていた少年たちも、後に続いてはいると、昨日と変わらぬ男性が受付に座っていた。

近寄るイリアを見て、直ぐに声がかかる。


「よう。なかなか大変だったそうじゃないか。」

「まったく、間の悪い事だよ。こっちが狩猟者ギルドから。

 あたしの報告も入ってる。後はカナリアの護衛が完了さ。」

「ああ、手続きをしよう。対象が怪我をしたらしいが。」

「まぁ、不測の事態とはいってもね、そのためにいるわけだから、引いてくれりゃいいさ。」


そういって、片方だけの肩をイリアが軽く上げる。


「んで、そっちはどうした。」

「こちらの子供たちを、少し鍛えてあげようかと。場所はお借りできますか。」

「ああ、構わないさ。うちからも誰かつけるか?」


ちらりと、一瞥してすぐに興味を失ったように、男性はトモエにそう尋ねる。


「お察しの通り、それ以前ですから。」

「ま、そうだな。この前と同じ場所に行きゃいい。料金は、そうだな、場所と、練習用の武器も使うだろうから、まぁ、100でいい。」


トモエが支払い、木札を受け取ると、イリアと分かれて昨日も訪れた、屋内の広い空間へと向かう。

その出入り口にも、昨日と変わらぬ男性、ルイスが立っていた。


「おや、連日とは熱心なことだな。」

「今日は後ろの子たちですね。オユキさんも怪我をしていますから。」

「ああ、イマノルと一緒に動いてたのは、お前らか。

 ふむ。まぁ、手の空いてる人間が、必要なら手伝うからな。存分に仕込んでやればいいさ。」

「イマノルさんにもよろしくお伝えください。お会いできれば改めてお礼を言いたいのですが。」

「あいつは、今日のところは、忙しいからな。事が事だ。」


そういって、手を振る男性に、それではと、そう言葉を残して、7人でそのまま訓練所へと入る。

相変わらず、こちらの室内の空間は人がおらず、ただ広い空間、その一角に模造の武器が立てかけられている。

そちらのほうへと、ひとまず歩きながら、トモエは軽い口調で、話し始める。


「さて、それではとりあえず、素振りから始めましょうか。

 数は、そうですね、外で活動して疲れているでしょうから、二百でいいですよ。

 さ、それでは皆さん、手に自分の武器を。」


そう満面の笑みを浮かべて少年たちに告げる、そんなトモエの姿に、何か不穏なものを感じ取ったのだろう。

5人そろって、一歩下がることとなった。


それから10分も立っていない時間、オユキは、ルイスと並んでトモエたちから離れた場所で、話をしていた。

オユキはオユキで、イリアから譲り受けた、肉厚の短剣に馴染もうと、それを抜いて構えをとったままではあるが。


「あの赤毛の兄ちゃん、見かけによらないもんだなぁ。」


少年たちの正面、そこで数を口に出しながら、遅れればすぐに叱責を飛ばす、そんなトモエを見ながらルイスがそう口に出す。


「私は師より許可を頂けていませんが、彼女は技を授けることができる立場ですからね。」

「ま、訓練が実践よりもきついのはいい事だ。」


そう言うルイスに、オユキは今後の事を考えて、質問をする。


「そういえば、今後野営のご教示を頂ければと考えていますが、それまでに用意していたほうが良いものなどはありますか?」

「ああ、まぁ、こっちでそのあたりは面倒を見るさ。

 まずは一日、それこそ門のすぐそばで、夜を過ごす、そこからだからな。

 徐々に慣らして、最終的には森の中、隣の村まで移動、そういう流れだな。」

「随分と、面倒見がいいですね。」

「その道中の護衛が、こっちの本分でもあるからな、こっちの訓練も兼ねているのさ。」


ルイスの言葉になるほどと、そう頷いていると、トモエの叱責がまた飛ぶ。


「まだ50も振っていませんよ。あなた達が丸兎1匹を倒すために、30は振っていました。

 一日に5人がかりで1匹、その程度で終わらせるつもりですか。」

「くそ、なめるなよ。」

「それ以前です。過小評価ではなく、それがあなた方の現在の程度です。」


トモエはそういいながらも、数を一定の間隔で数えながら、ただ淡々と武器を振るう。


「にしても、本来の得物はまた違いそうだな。」

「分かりますか。」

「あっちのガキども程じゃないが、体がたまに流れそうになっているしな。

 手首の動きを見れば、長さは変わりないみたいだが、もう少し軽い物だな。

 ま、わかって馴染ませてるみたいだからな、お前さんもそうだし。」

「ご賢察の通りです。」

「昨日も見たが、お前さん達異邦人か。

 ほれ、さっきから徐々に切っ先が上がってる。」


慣れない重さの短剣だからか、過剰に力が入り始めていることをルイスに指摘されて、オユキは少し恥ずかしげに笑う。


「はい、このあたりの技も、向こうで身に着けた物です。」

「成程な。ま、お前ら二人はこっちのというか、今の手持ちの武器になじむのが優先だな。

 お、最初のところにきれいに戻したな。」

「ご指摘、有難く。」


そんな話をしていると、トモエもそれぞれに、武器を振り上げすぎている、地面まで振り下ろさず、きちんと自分の正面で振り下ろしを止めろと、少年たちそれぞれに改善すべき点を、矢継ぎ早に告げる。

数もそろそろ70を数えるところ、疲れてきたのか、体勢が崩れだせば、それも見逃しはしない。

その様子を、オユキは懐かしく見守っていると、ルイスが肩をすくめながら、ぽつりとつぶやく。


「イマノルの教え方とよく似てるな。

 世界が違っても、武門ってのは似るもんなのかね。」

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