第65話 狩猟者ギルドで
イリアについては痛み止めと、直りを早くする効能がある、そんな薬だけを出されることとなり、後はイリア自身が回復次第、自身で治癒するそんな話にまとまり、使った薬、包帯などを改めて買い込んでから、マルコの診療所を後にする。
支払いに関しては、事前に言っていたように、イリアとカナリアの二人が頑として譲らなかった。
オユキとトモエは好意を受け取ることとし、診療所を後にして、狩猟者ギルドへと足を向ける。
カナリアへは、変わらずトモエが肩を貸し、イリアは初めてするのだろう、三角巾による固定を、確かめるようにしながら歩いている。
「成程、確かにこれは悪くないな。」
「そうでしょうね。固定しなければ、どうしても動かしてしまいますから。
緩くとはいえ、可動域を狭めるその固定方法は、マルコさんの言うようにに効果的なのでしょうね。」
「そんなもんかね。」
道すがら、そんな話をしながら三人で連れ立って、狩猟者ギルドへと歩いていく。
カナリアは、途中、オユキ達の泊まる宿とは異なる宿へと、先へ運び、そのままベッドへと寝かせてきた。
そこで、彼女が暫く使っていないと、そういう予備の短剣を痛めてしまった、こちらに来た時、数日間の付き合いである短剣の代わりを貰ったりもした。
「それにしても、昨日今日と変異種を排除したわけですが、溢れが少しは遅れたり、このまま解消したりと、そういった事はないのでしょうか。」
「さぁ、少なくとも、私はそういった話は聞いたことが無いね。
予兆が見られたら、溢れは確定、そうとしか聞いちゃいない。」
「そういうものですか。なかなか難しいようですね。」
「まぁ、押し寄せる魔物をただ討伐するだけ、そう考えりゃ気楽ではあるけどね。
あちこちに気を張って、森の中を歩き回るよりは、いくらか気楽さ。」
そういって、イリアがからからと笑う。
「そういえば、森から出てこられたようですが、森の中で何か、数日がかりのお仕事を?」
「いや、別の依頼でね。抜けた先にある村に行ってたのさ。
抜けるといっても、森の深くを通るもんでもなくて、まっすぐ行くには、森の端を多少進むことになる、そういった場所さ。それで、帰り道にあのざまだよ。
戻るよりも、こっちのほうが距離も近かったし、既に数に囲まれていたからね。
包囲が詰まる前に、無理に抜けてきた。」
まぁ、結果はあのざまだったが。そういうイリアと、話しながら歩いていれば、狩猟者ギルドへとたどり着く。
まだ、昼を少し過ぎた、そんな時間であろうに、中にはそれなりの人出があった。
ただ、狩猟者と、そう一目でわかる装備をしているものは少ないが。
そして、ギルドに入ったオユキ達に直ぐに声がかかる。
「ああ、こっちだ。」
少し奥まった位置、そこから手を振りながら声をかけるトラノスケに、近づく。
残りの五人組は何処だろうかと、あたりを見回すが、その姿は見えない。
「二人とも、怪我は大丈夫だったか。」
「今日明日は、療養ですね。ああ、改めて、こちらトラノスケさん。私とはそれなりに長い付き合いです。
それとこちらはイリアさんです。」
オユキが間に入って紹介をすれば、二人が互いに声を掛け合う。
それが終われば、トラノスケの影にいたすっかり見慣れた、しばしば総合受付に立っているギルドの職員から、早速とばかりに、状況の報告を求められる。
それに三人が、それぞれに把握した状況を説明すると、それを手早く書き留めていた書類をまとめると、人を呼んでそれを渡す。
「マルコから、薬草の採取が可能か聞いてきてほしいと言われたが、ギルドの判断はどうだい?」
イリアがそう尋ねると、少し難しい顔をしながら、答えが返ってくる。
「町の近くで変異種が連続して出た以上、猶予は少なそうですから。
それこそ、中級以上のパーティーか、傭兵ギルドと連携して、そういう事になりそうですね。
採取ギルド単体では、どうにもならないでしょう。
ただ、今回の事で溢れは確定するでしょうから、領主様から補助金も出るでしょう。確保そのものは問題ないかと。
採取ギルドのほうへ、必要な素材を伝えてもらえるよう、お願いしても。」
「ああ、わかった。まったく、間の悪い時に移動する羽目になったもんだね。
今回はずいぶんと早いんじゃないかい。」
「そうですね。そちらに関しては、原因の調査中、そうとしかお答えできません。」
そういって、受付の女性が少し困った顔をするのを見て、イリアはすぐに否定する。
「ああ、責める意図があっての事じゃない。そう聞こえたなら悪かったね。
私も、神の御業を疑う意図があるわけじゃないさ。何か私たちの分からない事情があるのだろうさ。」
「助かります。一応、まだ数日は緊急動員は行われませんが、なるべく町から離れないようにしていただけると。」
「分かったよ。怪我もあるしね。おとなしくしているさ。」
そこでひとまず話が終わったのだろう、そう判断して、オユキは口をはさむ。
「話が変わって申し訳ないのですが、今回の取得物、それの分配に関して、お知恵を借りられないかと。」
そう尋ねると、女性はどういう事でしょう、そう聞くように首をひねる。
「主な戦果は、護衛をお願いしていた、傭兵ギルドのイマノルさん。
次点で、こちらのイリアさんと、トラノスケさん。残りの私たちは、まぁ露払いと荷運び、そういった程度でしたから。」
そう、オユキが簡単に話せば、イリアがすぐに声を上げる。
「いや、私らは、さっきも言ったが、面倒を持ち込んだ側だ。
それで分け前をよこせなんて、言いやしないさ。」
「そうは言いますが、持ち直した後の貢献を無視するのも、道理が通らないでしょう。」
「助けがなければ、死んでいた、そんな可能性の高い人間に、分配することもないだろう。」
「とはいえ、結果を見れば、お二人とも無事ですから。」
そう、オユキとイリアが言い合いを始めると、受付の女性が手をたたきながらそれを止める。
「状況はわかりました。後で二階を使って、それぞれからお話を聞き、ギルドで公平に分配を行います。
それはギルドが保証しますので、文句は後程当ギルドへの窓口にお願いしますね。
対象になるのは、今おられる方々と、回収に出ている、シグルド君のパーティーと、その護衛についているダリオさんのパーティーですね。他にも、誰かいらっしゃいますか。」
「あとは、カナリアさんですね。」
「いや、カナリアは一切戦闘に参加していないし、荷物持ちもできていない。
完全にお荷物だ、怪我人で、何も貢献しちゃいないさ。流石に、それを数えるのは無理があるさね。」
「はいはい。そのあたりも、ギルドで聞き取りを行ってから、決めますから。
そうですね、一連の事が終わってから、改めてお支払いさせていただきますので、今日すぐにとはいきませんが、宜しいでしょうか。」
そう、女性に尋ねられ、この場にいる一同は首を縦に振る。
「明日には終わらせますので、そうですね、今いる方だけでも、先に話を個別に聞いていきましょうか。」
そうして、女性が立ち上がり、まずはトラノスケが連れられて行く。
それから順に降りて来ると、次に誰と、そう声をかけながら、順繰りに一人づつ、ギルドの二階へと上がり、何があったのか、自分が何をしたのか、それらを説明していく。
そして、オユキが二階から、最後であったこともあり、女性と一緒に降りてくると、そこには少年たちと、見覚えのない相手が、トモエたちと話していた。
「ああ、ダリオさんたちも戻ってきていたのですね。回収の進捗を聞いたら、順にお話を伺いましょうか。」
そう、女性が呟くと、膨れ上がった大きな荷袋をそれぞれに担ぐ三人組に声をかける。