第58話 臨時パーティー
傭兵ギルドへ向かう道すがら、さて、彼らは、オユキが無造作に慢心をへし折った相手はついてくるだろうかと、後ろに意識を向ければ、少し離れた位置から、何を話すでもなく、のろのろとついてきていた。
目的の為であれば、我慢の利く、その様子にまずは結構と、一人頷きながらも、追いつくために軽く走るような状態となりながらも、トモエに並んで、話しかける。
「さて、少し厳しすぎたでしょうか。」
もう少し年長者、見た目はともかくとして、柔らかいやり方もあったように思うオユキは、そう尋ねる。
「いえ、十分すぎるほど優しいかと。
命がかかっていますし、考えなしに人相手に武器を抜いたのです。
もう持てないようにしてしまってあげても、良かったかと思いますよ。」
トモエからは、さらに厳しい言葉が返ってくる。
「そうですね。私であれば、普通に叩きのめして、数日はまともに歩けなくして終わらせますから。
あれ以上優しくというのは、それこそ命を懸けて戦うという意味を、無視したものにしかならないでしょう。」
「その、俺は結構厳しい対応だと思ったが。
特に普段のオユキを知っているからだが。」
イマノルも頷く言葉に、トラノスケがそう、言葉をはさむ。
「トラノスケさん。軽々に、威嚇のためとはいえ、人に武器を向ける、そんな意思を見せれば、その先に事故が起これば、彼らは犯罪者です。
武器を持つ、その意味は決して忘れさせてはいけません。」
「そうですね。人に武器を向ければ、それもさやから抜いた状態で、もうそれは冗談やその場の勢いでは済ませられないのです。」
「言いたいことはわかるが。」
「まぁ、そう思うのは、トラノスケ殿が、それをしない、そういった心根の方だという、その証左でもあるでしょう。ああ、申し遅れました、私は傭兵ギルドのイマノルです。」
そう言いながら、イマノルが改めてトラノスケに名乗る。
「ああ。殿なんてつけなくてもいいさ。聞いてると思うが、トラノスケだ。
まだまだ駆け出し、二ヵ月目の狩猟者で、そっちの二人と同じ異邦人だ。」
そういってトラノスケが手を差し出せば、歩きながらでも、イマノルがその手を取る。
「それにしても、相手はまだ子供だしな。ついついなぁ。
二人も、フラウの嬢ちゃんには結構甘い感じに見えたが。」
「そのあたりは、戦う、技を納める、その意思の有無ですね。」
トモエが、オユキにしても久しぶりに見る、厳しいまなざしでトラノスケを見る。
子供や、孫が、オユキやトモエが体を動かすのを見て、それを自分もやってみたい、そういったときに、トモエはよくこんな顔をして話したな、そうどこか懐かしく、オユキは感じる。
「そもそも、人を殺すのであれば、そこらに転がる石の一つでも拾えば十分です。
それでも、より効率的な、そんな道具を手にした以上、それを使う技を覚える以上、目的以外には使わない、その自制を覚え込ませる必要がありますから。
同時に、それを向ける相手、その相手が危機に対して、どう振舞うのか、理解させる必要もありますから。」
「そういうものか。」
「少なくとも、私はそう考えていますよ。
それこそ、私やイマノルさんに、あの少年がそうしていれば、あの程度ではすみませんでしたよ。」
そういって、穏やかに笑うトモエから、凄みを感じたのか、トラノスケが思わずといった様子で距離をとる。
「こっちのイマノルさんから、かなり剣呑な空気は感じていたが、トモエもか。」
「まぁ、私は分かり易いようにしましたからね。」
そんな話をしているうちに、傭兵ギルドへと一行はたどり着き、そこでイマノルを傭兵として、町の近隣で狩りをする際の護衛として雇う、そんな契約を結ぶ。
料金に関しては、イマノルの言葉もあり、一日1000ペセと、彼の能力にしては、非常に安価なものとしてもらえた。
こちらに来た際に持っていた金銭、そこから持ち出せないこともないのだが、それでも今回はと、トラノスケが全額を支払い、それにトモエとオユキの二人で頭を下げる。
その様子に、物の価値が分かる連中はいつでも歓迎だと、受付の、昨日訓練を受ける際にもあった男が豪快に笑う。
そんな必要な手続きをとりあえず終え、傭兵を雇用した場合、その証明として、渡される木札、それを改めて門番に見せて、ようやく町の外へ出る。
その間も、仲間内ですら言葉を交わさない、そんな少年たちに少々不満を覚えながらも、随分と時間をかけてしまったな、オユキはそんなことを考える。
外に出ると、軽く体を伸ばしながら、武器をいつでも使える柔らかさを体に与えるようにする。
「では、イマノルさん。これからどのように。」
トモエがそのように尋ねれば、彼は特に気負うところもなく、簡単に答える。
「今は、私は雇われの身ですからね。
あまりに危険である、対応できないと、そう思えば口も出しますが、そうでなければ、皆様のご自由に。」
「そうですか。さて、あなた達。」
そう、トモエが声をかけると、距離はさほど離れていなかったこともあるのだろう、5人組の少年少女が肩を震わせる。
「あまり難しいことは求めません。あまり離れすぎない事、イマノルさんの指示には何をおいても従う事。
以上が守れないのであれば、今からでも門の中に戻します。
また、この後、そう判断した時も同様です。」
では、行きましょうか。
そういって、歩き出すトモエに、ぞろぞろとついていく。
なんとなく、その様子を見ながら、よく見た光景だと、そう懐かしさを感じて、トラノスケに声をかける。
「そういえば、トラノスケさんは、こちらでもこういった事を?」
「いや、今後はまたやることもあるかもしれないが、今は俺も新人だからな。
流石に、人の面倒まで見る余裕はないし、説得力もないだろう。」
「成程、おや、早速ですね。やはり町の側にもいるようですね。」
「これは、ほぼ確定ですね。後は早いか遅いかくらいでしょう。」
そう、イマノルが難しい顔でつぶやく。
「所謂数が多い、そうなると予測されていますか?」
「この状況であれば、そうですね。王種のほうが手早く片付くのですが。
やはり数は脅威ですね。」
「町から離れれば、そうでもないとは思いますが。」
「いえ、過剰に周囲を破壊することになりますから。本当に人里から離れない限りは、広範囲に影響を与える技は使いませんよ。そういった物は、加減も効かないですから。」
そう、3人で話していると、5人組の新人が、連携など知ったことではないとばかりに、丸兎に思い思いに武器を振るっては、躱され、体当たりにバランスを崩している。
「若いですねぇ。」
「オユキさんの見た目で言われると、違和感がすごいですね。」
「俺は、まぁ、ある程度耐性はあるが、それでも首を傾げそうになるな。
にしても、狩猟者ギルドは、よくあんなのに許可を出したな。」
彼らの目の前では、ようやく一人が振るった棒に丸兎が引っかかり地面に落ちる、そこに群がるように皆が集まり、手に持った得物をたたき込む。
「そうですね。簡単な対処法は、ギルドの資料にもありましたが。
できる出来ないはさておき、やろうとしない、それは問題ですね。
評価としては、元気があって宜しい、それに留まりますか。」
「うーん。家に来てもらえれば、最低限はたたき込みますが、だいたいうちに来る方は中級一歩手前、そういった方が多いんですよね。料金も、初心者の方でも利用しやすいように、かなり安くしているはずなんですが。」
「まぁ、この場で、ひとまずトモエさんが最低限は仕込むでしょう。」
「オユキは、教えないのか?」
トラノスケの疑問に、オユキは少し恥ずかし気に笑って答える。
「私は、師から他人に教えを授ける許可を、いただけませんでしたから。」
トラノスケは、その解答にただ唸った。