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第52話 久しぶりに買い物を

二人で、さてどうしましょうか、そんなことを話しながら、これまではほとんど素通りするだけであった、大通りに軒先を並べる店舗に軽く視線を送りながら、それでも足を宿へと向けて進める。


「そうですね。今後は少し大変なことになりそうではありますが、それはそれ。

 日々を楽しむのは、重要なことですからね。特にその余裕があるときには。」

「はい。オユキさんは、今後はどの様な流れになると。」


並んで歩くには、お互いに気を配らなければ、かなり難しいが、それでも互いに気を使い、オユキは速足で、トモエはゆっくりと道を歩く。


「さて、こちらのことは詳しくありませんが、溢れと確定すれば、防衛戦ですね。

 昨日ギルドで説明を受けましたが、狩猟者を始め、魔物と戦えるものが一丸となって、対処にあたるでしょう。」

「成程。なかなか、骨が折れそうですね。」

「ええ。その時は、お互い怪我には気をつけながら、手伝わせていただきましょうか。」

「そうですね。どの程度かは分かりませんが、正直傭兵ギルドのイマノルさんや、アーサーさんのような方が多くいらっしゃるのであれば、お手を煩わせないようにも、気を付けなければいけませんね。」

「精進あるのみですね。」


そういって、高さの違う視線をそれでも合わせて微笑み合い、またあたりを見ながらのんびり歩きだすと、トモエが何かに気が付いたように、顔をある店舗に向け、足を止める。


「おや、気になるものがありましたか。」


オユキがトモエの見るほうを、確認すれば、そこには何か雑多なものが並んでいる、そうとしか表現できない店舗があった。


「はい、雑貨屋さんでしょうか。」

「ああ。なるほど。少し覗いていきますか?」

「ええ、ありがとうございます。」


生前のトモエは特に、こういった取り留めのない小物が並ぶ店舗を好んでいたと、そう思い出し、オユキが声をかければ、間を置かずに首を縦に振る。

そうして、二人で連れ立って、その店舗に近づいてみれば、向こうの世界で見たようなものから、そうでないものまで、本当に取り留めのないものが並んでいる。

あたりに金属資源がない、そう言われていたからだろうが、一目で金属とわかるものは無いが。


「なかなか、変わったものも並んでいますね。」


そういって、オユキが手に取ったのは、何かをモチーフにしたものだろうが、木彫りで装飾の施された、細長く、先が二股に分かれている、そんな代物だった。


「あら、ピックフォークですか。

 そういえば近くの森で、果物が取れるのでしたね。」


そういって、オユキが手に持っていたものを、トモエが横から覗き込む様に顔を寄せてくる。

その目は、実に楽しそうな色合いを帯びている。


「そういう用途の物なのですか。」

「身もふたもなくいってしまえば、楊枝の代わりですね。

 ただ、サイズでお分かりいただけるように、も少し大きいもの、それこそ果物や、フォンデュの時に使ったりしますね。」

「成程。和食ばかりでしたから、洋食器には疎くていけませんね。」

「まぁ、箸やそれこそフォークで十分代用できるものではありますから。

 それに、金属はなくとも、鉱石の類はあるようですね。」


そういって、トモエは手に持っていた、不思議な色合いの、よく磨かれたとわかる石がはめられた、オユキには一目でそれがなにと、そういう事ができない物を手にしていた。


「よい色合いの石ですね。そちらは?」

「イヤーカフスでしょうか。ただ、私の知る物よりも、少々サイズが大きくはありますが。」

「人ばかりではありませんからね、恐らくそういった方に向けた物では?」


オユキの言葉にトモエが、何度か頷く。


「いけませんね、どうにもそういう前提がないもので。」

「まぁ、そういうものでしょう。凝り固まるのはよくありませんが、これまで培った物を漂白するのも、それはそれで、と思いますし。」

「失礼の内容には、気を付けなければいけませんね。」


そうして、少し店先を冷かして、今度は店の中へと入る。

ガラス窓などがないため、入り口からわずかに覗けるばかりであったが、中に入れば、これまた雑貨屋と、そう呼ぶにふさわし光景が広がっていた。


「おや、いらっしゃい。」

「すみません。少し品を見せていただいても?」

「ええ、もちろんですとも。説明が必要でしたら、お呼びください。

 それでは、どうぞごゆっくり。」


広いとは言えない店内の、少し奥まった場所で、のんびりと座っている、年配の店員らしき人物へと、そう声をかけてトモエが意気揚々と、あれこれと見始める。

それを邪魔しないようにと、オユキもトモエについて店内を見て回るが、いよいよ何に使うのかわからない、そういった物が、多数見受けられる。

ただ、その中で、棚にいくつか、それぞれ束ねて置かれている、色とりどりの布が少し気になり、そちらに近づき、手に取って、眺めてみる。

前の世界のそれに比べれば、ところどころに粗さは目立つが、そこはそれ、人の手によって作られたものだろうと、そうわかる趣深さもある。

手に取ったそれは、不思議とひんやりとしていて、これまで触ったことのある布地とは、感触が異なっていた。


「あら。布地も置いてあるのですね。」

「ええ、少し変わった感触です。さて、以前の覚えにもこういった物はありませんでしたが。」


ゲームとしての知識を思い返すが、オユキは思い当たるものが無かった。

その様子に、トモエも興味をひかれたのか、布地を触って首をひねっている。


「不思議ですね、何処かひんやりとしていますし。

 夏場に、肌着に使えば良さそうですね。」


そういうと、トモエはその布地をもって、店員へと声をかける。


「もし。こちらの布地ですけれど。」

「ああ、それですか。近くの河底に生える、水綿の花で織った布ですよ。」

「水中に、綿花のようなものがあるのですか。」

「ええ、綿花に比べれば、少しつるりとして、重さがありますが、水精の加護もあり、丈夫で夏場でも涼しい布ですよ。ただ、感触が苦手とそういう方もいらっしゃいますが。」

「成程、仕立てはこちらで?」

「いえ、服屋に持ち込んで頂いています。

 ただ、今うちにある分では、服を仕立てるまでは足りませんが。

 ああ、そちらのお嬢さんであれば、上着くらいは作れそうですね。」


そういって、店員にほほえまし気にオユキを見る。

ただ、オユキとしても、自分の分だけと、それは気が引ける。


「分かりました、ありがとうございます。

 また、お伺いさせていただきますね。」


そう、オユキが声をかければ、いつでも聞いてくださいと、店員が応え、トモエは少し名残惜しそうに、その布を基の場所に戻す。


「気に入りましたか。」

「はい。味のある、いい布でしたので。ただ、やはり肌着と言えども、量が要りますからね。」

「こちらがいくらかはわかりませんが、それも今後の目標の一つにしましょうか。」

「いえ、あまりものを持つのも難しいでしょう。

 以前のように、旅行とそう言えるものではなさそうですから。」


そうして、物珍しく、まったく用途の分からない物を、数度説明をもとめながら、結局オユキの髪を結ぶためにと、華やかな色合いに染められた紐を数本、宿の賑やかな娘のお土産にと、一本。こちらに来てさっそく頂いた功績、それを示す証をつるすために、丈夫な革ひもを二本買って、店を後にすることとなった。

なんだかんだと、時間を使っていたようで、店の外に出れば、既に日が傾き始める、そんな時間になっていた。

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