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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
14章 穏やかな日々
501/1233

第501話 仕事終わりに

司教が語る神々の話、それに耳を傾けた後は簡単にアイリスから社を如何にして祀るのかの説明も含めた話が行われる。オユキはそれに付け加える形で先の狩猟祭についてと、それこそ簡単な挨拶をすれば仕事は終わりだ。結局のところ不調は完全に治っているわけでもないため、決められたことが終われば早々に馬車に詰め込まれて屋敷へと戻される。


「一先ず、これで決まっていたことも終わりですね。」


屋敷の中、応接間とも食卓とも違う居間で、少ない人数が席に着く。


「休むと言いながらも働いて、そうは思うけれど。」

「配慮は頂いていますから。」

「トモエは、足はもういいのかしら。」

「はい。既に問題ありませんよ。」


外傷については、トモエもオユキも治っている。結局はこちらの仕組みに頼っての物になっているため、マナが枯渇する事が有ればどうなる物か分かった物では無いが。

それでも日々の事に対しては不都合がない。


「私もいい加減常の事であれば、どうにかなりそうです。アイリスさんは。」

「生え変わり待ちね。」

「ああ、それなのですが。流石にアイリスさんには季節に合わせた物がいるのではないかと。」


そうオユキが声をあげれば、近衛二人とトモエの視線がアイリスに向き、三者三様に頷いている。


「この町で用意は出来そうですか。」

「その、申し訳ありませんが。」


どうやらこの町の職人の技量は、近衛たちを満足させるものではないらしい。一応貴族がいるとは言え、やはり位も低い。そもそも、そう言った飾りが必要であれば領都から買い付ければ済む物でもある。


「ならば、領都か王都でとなりますか。領都にしても、滞在は短くなりそうではありますが。」


日程の調整、こちらについてはどうにも公爵が劣勢となっている。そもそも今回の移動の目的があまりに明確であり、他国との折衝を抱えている。そしてその現場にマリーア公爵が来ることは出来ない。そう言ったあまりに明確な理由があるため仕方がない物ではある。

どちらかと言えば、公爵としてもトモエとオユキを預けるためにと、王都であれこれと動き回り、紹介をして回らなければいけない立場だ。


「そう言えば、隣国迄を頼む方ですが。」

「先日、マリーア公爵に返答があったそうです。しかし相応に年配の方であるため、長旅はむしろ迷惑をかけるのではないかとの事で。」


オユキの方で、その辺りは確認している。


「カナリアさんに、相談しますか。」

「いえ、情報の公開は、陛下に納めた後となります。事前にそれをお伝えさせて頂くことは叶いません。」


それに対する解決策というのは、一応存在する。大型の馬車、それにしてもなんだかんだと荷物を積めばやはり人が座るための場所というのはどんどん狭くなる。しかし、内部の空間が外観よりも広がれば。それこそ寝台を持ち込む事すら許される、そう言った奇跡が既に存在している。加えて魔物避け、魔石がどうした所で必要になるが、それすら叶える魔道具だ。野営のためにと馬車から出て、そこで慣れぬ野営地で休まずとも、馬車の中でそのままとすることができるのだ。そう言った便利な道具の情報を共有してしまえば、先代公爵の辞退理由も簡単につぶせるが、今はそうするわけにもいかない。


「となると、年配とのことですが。」


では、先代公爵夫妻、そちらがどういった人物なのかがわからず、話は近衛に向けられる。


「先代アルゼオ公は、確か70を少し超えたあたりかと。」

「とすると、現公爵が、マリーア公とアベルさんの間位ですか。」

「いや、現アルゼオ公はイマノルより少し上、そんなもんだぞ。」

「おや、随分と。いえ、これまでを考えれば、そう言うこともありますか。」


生命の数が定められていた。それは過去。既に起きた事実でしかない。


「そういった諸々の解消も含めて、少々早めに王都に向かう必要はありそうですね。今度ばかりは私たちの負荷も少ないでしょうし。」

「どう、かしら。魔国でしょう。」


オユキの方では直ぐに思い当たることは無いが、アイリスは何やら不安があるらしい。


「戦と武技だもの、私たちは。」

「流石に全く土壌の違う場に、無理を言われることもないと思いますが。」

「私も詳しくはないから、何とも言えないけれど。」


しかし、アイリスの返答はやはり鈍い。

つまるところ感覚的な物でしかなく、明確な理由は無いが何やらという事であるらしい。そう言った不安を抱える気持ちは、この場にいる者達はしっかりと共有できている。これまでがあるため。

ただ、いくらそれがあったとして、覚悟はできるがどうにもならない物でもある。


「備えはしますが。」

「まぁ、それしかない物ね。ただ、まぁ、今回もそうだけれど休みも予定に入れたほうが良いわよ。」

「そうですね。アイリスさんはともかく、オユキさんはその上で移動となれば。」

「慣れてはいるけれど、負荷が無いという訳ではなのよ、私も。」


トモエが回復が早いからいいだろうと、そう言った趣旨の発言をすれば、アイリスの頬がひきつる。その辺りは優先順位の違いとしか言えない。


「なんにせよ、相も変わらず予定は流動的。それが結論なのでしょうね。」


では、オユキとしてはこの場をどうまとめるのかといわれれば。


「譲れない部分、各々のそれをまずは定めましょうか。」


やはり今後がこれまでと変わらないのであれば、それに対峙する気構えというのもこれまでと変わる物では無い。


「私とトモエさんの目的としては、やはり魔国の観光があるわけです。王都で門を、それから魔国で。どちらにしても、今回の事を考えれば、私は間違いなく休みが要ります。」

「まぁ、そうでしょうね。私が関われる奇跡ではなさそうだもの。」

「テトラポダに向かえば、アイリスさんにお願いすることになりそうなものですが。」


しかし、そうでない場所ではオユキが主体としてやらねばならない物ではあるのだ。


「それを踏まえれば、新年祭、その後に行い休息を挟んで移動となるでしょうね。」


移動の最中、そこで馬車の中で休めるからと無理に移動を始めろと言われることは無いだろう、それをさせないだけの交渉の手札は手元にあるとオユキは考えている。

運ぶもの、それに対する決定権は何処まで言ってもオユキが持っている。つまり最終的な決定権というのが、オユキの手の中にあるのだ。勿論、交渉であったりを使って色々とあるだろうと予測はしているが、それにしても次を魔国、王太子妃の生国としたことで、押し付ける先というのが確保できている。

オユキとアイリスは戦と武技、そうであるならそちらを先にと言いたいものも多いだろう。国交がすでにあるとそういった話もあるのだから、そちらに依っている者達からその辺りの話も出てくるだろう。トモエとオユキ、そちらにあれこれと話が来るであろうし、アイリスにしても国許があるためそこから雑音も生まれてくると、実にわかりやすい予想があるのだ。


「どうした所で王都では相応の面倒もあります。急ぎたい者達から、あれこれと予定を押し込まれそうですが、そちらは前回同様。」

「そうするしかないわよね。ただ、私としてもテトラポダから返事が来る前には、魔国に向かってしまいたいのよね。」

「あの、アイリスさん。」


国から何か言われる前にさっさと離れたい。それを隠さずに言い切るアイリスに、トモエとしても流石に不信を覚える。


「何も言わずに衝動的に出てきたもの。一度戻れと言われるでしょうし、流石に正式な使者迄たてられると。」

「お願いですから国家間の問題には発展させない着地点を。」

「門があるでしょう。それに、祖霊様も次は難易度が上がると仰せであったもの。」

「そこまで近い事とも、もう一度とも思っていませんでしたが。」


ここまで散々オユキとトモエも巻き込んでいるのだ。アイリスの方でも、逆をしっかりと考えているらしい。


「そうですね、状況次第ですが、始まりの町に足を運んでいただくように。」

「戻るのはここだものね。一応、手紙だけは残してから出るわよ。この国から正式な使者も出ているから、そうね戻るときに丁度良いとそうなる程度には時間もあるでしょうし。」

「正直、あまり月と安息を後回しにするのも気が進まないのですが。」


現在所属しているといってもいい国には、もう一つ神殿があるのだ。片方は早々に、もう一方を後回しにするという選択は、オユキとしても少々思うところがある。

それについてはこの国としても、変わらない。新しく生まれた王族、その正統を保証しているのが月と安息だ。それを知った上であまりに後回しにとすれば、そこから色々と邪推も生まれるという物だ。トモエとオユキにしても後見人はそちらの神から名前を頂いている家でもある。少々どころでは無く外聞が悪い。


「アイリスさんと別れてというのは。」

「無理だと思うわよ。」

「はい。」


既にアイリスを散々いいように使っている。正式な使者がこちらに訪れ、その身分を明かし、保証したうえでこれまでに対する補填を行えと言われれば、首を縦に振るしかない。神の名の下に行われた物ではあるが、先の闘技大会もある。そこで一つの結果として、上下関係が生まれてしまっている。対等であると、それを示すのであればまず断れない。


「アベルさんと時間を取っていると思えば。」

「基本は私だけれど。」


そういった調整をアベルとこれまでの期間で行っていたのだろう。アイリスの身柄を預かる、少なくともこちらの国においてそれをアベルが保証するとなれば、その証明を求められる。王家に連なるその人物として。


「公爵様の心労の原因も分かるという物ですね。」

「あなた達が持ち込むものほどでは、無いと思うけれど。」

「これまでの事に対するものとして、それは受け入れるしかないでしょう。私にしても、都合のいい事柄ではありますし。」


他国の要請がある、無視できるものではない事柄がある。それが明確にそこにあるのであれば、オユキとしても予定の調整というのはむしろ簡単になる。指針について悩む必要がなくなるのだから。


「一応確認しておきますが、先方が求める事、その予想もあるのでしょう。」

「ええ。五穀豊穣、祖霊様の物がまずは先よ。」

「そちらはそちらで、時間がかかりそうですね。」


まだ先の事、それこそこの後にある大仕事を終えて、その後の話ではあるが。


「間に挟んだ国の物もと考えると、また負荷が大きそうですね。」


先の苦労を思って、オユキとしては気が重くなる。

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ツギクルバナー アルファポリス
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