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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
14章 穏やかな日々
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第498話 5日目

前日の休日は、オユキの体調もあり、すっかりと室内で過ごすことになった。それはそれでらしい休日と、そう言えるものだ。トモエの方でもオユキとそれなりに時間を取りつつ、前日席を立った後にオユキ宛とされた品の検分であったり、必要のあることというのも何処までも室内で片が付くものとなった。

どうした所で食材が多いこともあり、保管に難があるとアルノーが判断した物も多かったためカナリアを頼んで屋敷の中に氷室のような物を用意してと、それなりに手間はかかった。


「朝からは、私は遠慮したいですね。」


そして、翌日には早速とばかりに分厚い肉が。昨日よりはいくらか気分も良く、昼前に来たマルコに風邪と診断され、追加の薬なども処方されはしたが、その効果もあってオユキはこうして起き上がって動き回っている。相も変わらず、加護と実際の能力その仕組みに内心大いに首をかしげながら。恐らく確からしい、その推測を積み上げる度に、そうでは無いと嘲笑うような加護の仕組み。それには昔と変わらず思考で遊ぶ楽しさが多いとオユキとしては喜んでいるが、解明するにはまだかなりの時間を要するだろうと、出来るかどうか知れたものでもないとそう感じる物だ。


「私は嬉しいけどね。」


喜んでいるのはアイリスだけではない、というのが大いに問題ではある。現状この屋敷に食らうもので、やたらと分厚く切り出された肉に対して苦手意識を持つものは、オユキとヴィルヘルミナしかいないのだ。他の物たちは、実に平然とむしろ嬉しそうにそれを切り分けては口に運んでいる。


「流石に私も、朝からは。」


そして、その二人の前にはアメリカンブレックファストスタイルの料理が並んでいる。どうにもこういった一切を取り仕切るアルノーには手間をかけるとも思うものだが、その辺りは色々と要望も出されている。

従業員と呼んでも良いのか、借り受けている人員向けの物として、ビュッフェスタイルで食事ができる場所を求められ、広間の一つがそれにあてられている。食器の不足が多い為、急遽木で出来た物を大量に買い上げたりと、相応の手間はかかったが調理担当者にも、そこを利用する者達にも好評ではある。オユキとトモエがこの場を出れば、残るのは僅かな人でしかないため、一過性の忙しさに対処するには実に有用ではあろう。


「ヴィルヘルミナも、歌うにしても吠えれば体力を使うのだから、もう少し食べたほうが良いわよ。」

「ご心配頂き有難うございます。確かに昨日は長く喉を使ったので、今日は流石に私も体を休めようかと。」

「アルノーさんに、その辺りも少しお願いしておきましょうか。」

「負担が過剰と、そう思えるものになりそうですから。今後の移動、その間で手間を省いてアルノーさんにも、補佐をする人員の育成をお願いするしかないでしょうね。」


一先ず魔国迄は頷いて貰えている、それにしてもアルノーにも打算があっての事だ。魔道具、調理にも大いに活用できるそれをこちらに持ち帰るという、非常に分かりやすい打算が。それが終わってしまえば、その先は流石に分からない。食材を方々に見に行くといった目的もあるかもしれないが、それにしても門の配置が終わり整備が済めば何処かに留まって研鑽という考えも出てくるだろう。

特にオユキにしろトモエにしろ、大いにそれに関わっているのだから。料理の担当者に我儘を、そう言った形で多少なりとも融通は利く。


「それと、先の事はともかく、今日はシグルド君たちが来るのでしたか。」


先々の事、それこそ移動の計画などは大まかなものが決まらなければ、今話し合ったところでどうなると知れた物でもない。まともな道行になるかも、正直風向きが怪しいとそういった相談が既になされている事が有る。

カナリアによる新しい馬車、その耐久試験も行わなければならない。

二日前の祭りの折、各所で行われた焚火の主な燃料になっていたのはちょっとした箱をカナリアが重ね、それを破壊するにはどの程度の威力がと散々に実験された結果出た木材でもある。オユキも何度か確認してみたが、外見は変わらず入れるための上蓋も変わらない。だというのに内部の空間が広がっているのはトモエでは無いが、何やら認識の齟齬が起こり軽いめまいを覚える様な物だった。実に平衡感覚に影響を及ぼす、愉快な体験を皆で共有したものだ。

そして、馬車向けにと既存の魔術文字、魔道具としての回路とやらとの兼ね合いの部分でもう少し調整したいとカナリアは言っていたが、それは研究者という側面からの言葉だろう。実用には既に問題が無いと、そう言った話も出ている。


「はい、ロザリア司教から狩猟祭に関することを書き起こしたので、それを届けにとのことでしたよ。それと、今日が降臨祭の最終日ですから巫女としてのお迎えも兼ねて。」

「それはロザリア様にも、忙しい中随分な手間をお願いしてしまったようですね。後は、降臨祭の終わりは簡単な宣言だけですから、さして問題は。」


そこまで考えて、オユキは言葉を止める。


「今度は、なんだ。いや、言いたいことはわかるが、まぁ騎士連中にそこは任せろとしか言えん。」

「ええ、そうですね。」


先ごろの祭りの喧騒、その流れで取り囲まれてしまえばそれはそれは大変そうだと、不安も各々よぎるがそれこそ派遣されている戦力に頼るしかないだろう。彼らにしてみれば、予想されている業務ともまた違うと、そう言った物にはなるのだろうが。


「後は、大箱をどうするか、だな。」

「流石に私たちでは、どう手入れをすればいいのかも分かりませんし。」

「となると、教会には変わらず出すしかないな。」


そう口にして、アベルがシェリアに確認の視線を送っている。


「シェリアさんからも、何か。」

「はい。道中ですね、先の事を考えますと騎士達では運べませんでしたから。」

「それは、先にそれようの荷台を。いえ、移動の最中吹き曝しという訳にも行きませんか。」


言われて、どう運ぶかをこれまで考えていなかったと、オユキは反省する。それこそ騎士達であれば、一人で持ち上げて走り抜ける。その程度の事は当然やってのけられると考えていたのだが、そもそも持ち運べないのであれば、どうにもならない。


「相応の大きさの荷台の用意が要りますね。神授の品でもあります。陛下から下賜された布を幌に使ったとして。」

「あれは、オユキ様とトモエ様の衣類を仕立てるために、なのですが。」

「公爵様の日程の調整もありますし、今から追加でとなると。」


領都までにしても、それなりに急いで7日程かかる。通常の行程であれば10日近く。それを待ってからさらに加工とすれば、どの程度の時間が必要になるか分かった物では無い。この町では生産力にも難があるのだから。そして、それこそ用意を頼んで、それをこちらまでとなれば、通常よりもさらに仰々しく移動を行わなければならなくなり、という物だ。


「領都までの物として、とりあえずとするしかないでしょうね。領都から王都。王都から魔国はそれぞれにお願いするしかないでしょう。」

「まぁ、それしかないか。一応奇跡を授けて下さった神の紋章も必要にはなるが。」

「そこは司教様にお伺いするしかないでしょうね。」


そして、それをそれぞれにお願いしなければならない。


「そう言えば、ここ数日イマノルさんとクララさんの姿が見えませんが。」


今も朝食の場にいない相手、それについてアベルに確認を取る。


「ああ。経験を積ませなきゃならんからな、教会側の警護の統括を任せている。向こうは報告先も嬢ちゃんが最終だからな。丁度いい機会だ。」


どうやら、きっちりと分担をしているらしい。


「成程。どのみちこちらに残ってもらわんければいけませんし、今後は川沿いの町もありますから。」


そして、その二人にしても新年、教会が新たに完成を見せればいよいよそちらにひとまず移動となるらしい。こちらで散々採取している木材も、既に相当量が運ばれているとも聞いている。


「ああ、後はウーヴェから嬢ちゃんの方に相談が言ったらしいが、鉱山沿いの町から、人を募りたいと。」

「流石に、この町の規模で鍛冶職人が数名だけでは、不足しますよね。」


どうした所で、魔物と戦う物たちは新人が多い土地柄だ。そして、これまでは専門職がいない、設備もない中でどうにかやりくりしていた金属製品も多い。これまでそれを販売していた店の者達が、仲介などは担い、鍛冶を行えるものは仕事に集中が出来る体制は出来ているらしいが。

それにしても、散々祭りの場で野外で調理をするための道具を披露した事が有る、魔物と戦うものが増えた影響で生産しなければならない物も増えた。


「ああ。どのみちあっちで行っている製鉄にしても、需要が落ちる事が無い。それもあって、少々強権を振るわなきゃならんからな。」

「それは、どちらかと言えば公爵様の領分では。」

「ああ、だからお前から一筆書いといてくれ。」


さて、それにしてもいよいよメイの為すべき業務にも思えるが、そこまでオユキが考え、それが目に出たのだろう。アベルから大きなため息とともに付け加えられる。


「あっちにしても、結局新人だからな。」

「まぁ、それもそうなりますか。」


相応の人はメイの方でも抱えているが、話を聞く限り毎日のようにこの町に訪れる貴族たちの挨拶に対応するだけで、かなりの時間が割かれているという話だ。それこそ公爵からトモエにと送られた物にしても、こちらに来てしまえば代官を無視するわけにもいかず。互いに略式でとなりはするが、それでも相応に時間は必要になる。オユキにしても、トモエへの客人を迎える日はそれだけで半日が潰れるのだから。


「越権とならないように、かつ、統治者としてのメイ様に瑕疵が無いとするには私から口実を用意するのが良いのでしょうが。」


しかし、それにしても直ぐに思いつくものでもない。


「下書きだけ用意して、メイ様からとして頂きましょうか。新人育成、その全体的な方策の一環として。」

「まぁ、そこに落ち着けるしかないわな。」

「予算については、戦と武技、それに係るものとしても私から出すとしましょう。確か、領都や王都に勤めに上がる人も多いとそのような話を聞いたこともあります。ならば、その先がこの町でというのが最も通しやすい理屈でしょうからね。」

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