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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
14章 穏やかな日々
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第493話 栄誉を称え

大物を仕留めたのは、勿論ローレンツだけではない。流石に中型種など追い込んできたところで早々近場にいるものでもないため、大きさとして明確な優劣はそこにあるが。ローレンツと逆の方向に走った二人は、片や異邦でのそれと比べれば、愉快な大きさになったダチョウを仕留め、他方はまさに魔物というしかない程に凶暴な大きさになった猪を仕留めている。そして、傭兵ギルドの者達がそれぞれ数人がかりで運んでくるのに合わせて、他にもこまごまと周囲の魔物を蹴散らしていた騎士達が戻って来る。

これまでトモエやオユキが仕留めた物の単純に数倍以上の大きさのそれを後ろに置き、その前に騎士が膝を突けばあまりのサイズ感に多くの物が圧倒される。


「見事です、ローレンツ。」


仕事を頼んだ以上は、勿論それを果たし遂せた者に。簡単な話の流れではあったが、アイリスとの間で役割分担の変更は既に決まっている。ならば、称えるに不足ない物は確かに手元にある。不足しているのは数だ。


「お褒めの言葉は有難く、しかしこの程度であれば我らの誰もが何程の事もなく行えるでしょう。」

「真、頼もしいお言葉ですね。」


実際に、相応に激しく動いたというのに、一切の疲労を見せていない。


「今後の道行き、それを考えても本当に頼もしい事です。」

「御身の安全に限らず、我らが健在であればあらゆる敵を払いのけて見せましょう。」

「では、その確かな覚悟と、突然の願いを聞いてくださった、それに対するものとして私からも預けられた物を、ローレンツ様に。」


オユキが立ち上がろうと、そうしたところで背後に立っていたシェリアが動く気配がしたため、そのまま側に来たシェリアに木々と狩猟の神から与えられたと思しき聖印を渡す。


「幸いと、そう言ってもいいのでしょう。この催しに先立って、私の下に狩猟をその讃えるべき名に持つ神より頂いた物があります。魔物の討伐、その証が確かに残ったとはいえ、この祭りはそれを分かち合う事こそ趣旨。誰もが称える武勇を示した相手からすら、それを取り上げるその代わりに。」

「巫女様のお言葉、しかと胸に刻みます。されど我らを確かに讃える者達が、神国の誇る剣と盾、その輝きを称える者達がこれほど側にいるのです。」

「ええ。しかし、民からばかりでなく、騎士という枠組みの中でも讃えられ、目指すものとして。」


少々下賜すべきものが足りないこともあるし、他に各々が渡すと決めていることもある。後は、オユキとしては早々に祭りの主役となる相手を決めて、さっさと他の物たちの興味の行き先を分散させてしまいたいというのもある。なんだかんだと衆目の中で振舞っていれば、未だに完治していない怪我もある。疲労が徐々にたまり始めているし、当初の予定では昼を過ぎる頃には屋敷に戻って、休む腹積もりだったというのもある。

現状では、オユキの中座が許される雰囲気ではないため、その流れを作っておきたいということもあるのだ。


「正式な祭りとして、今後新たに用意される事が有るかもしれません。その先駆けとして、私の願いを受けてまさに勇壮というべき振る舞いを示したローレンツその方に。」

「勿体なき御言葉。」


このあたりのやり取りの基本は、オユキは王都で学んだこともあり何とかなる範囲ではある。どうやら進行に問題はないようでシェリアが動き出している。メイの方から、言葉遣いか振る舞いか、その辺りに対する視線を感じもするが、その辺りはまぁ今後の事。


「どうか、今後もその剣の誓いに恥じぬよう。」

「今後より一層の働きをもって。」


厳かとは正反対な空気ではある。オユキが宣言し、シェリアが代わりにローレンツの首から木々と狩猟の神の聖印をかけた後に、慣れたものなのだろう。立ち上がって手に持つ剣を掲げれば、観衆から盛大にこの置いた騎士を讃える声が上がる。それに応えて、彼の愛馬も嘶きを上げ前足を上げるあたり、実に聡明としか言いようもない。

そして、そこから先はもはや収拾のつかない騒ぎになるというものだ。

騎士が神に認められるほどの成果を見事に果たし、それを結界の中、最弱とされる魔物とすら戦う事が出来ない者達がいる場所に運んでいけば、そうなりはするだろうという他ない。


「なかなか解体に手はいりそうですね。」

「足の一本だけでも先に回してくれないかしら。」

「足回りは煮込まないと硬いかとは思いますが。」


食欲に満ちた視線を変わらず獲物に向けているアイリスに、オユキからかけられる言葉などその程度でしかない。


「ちょうどいい歯ごたえよ。」


どうやらその辺りもしっかりと人以外の特徴を引いているらしい。それを受けて、アイリスの方についているラズリアがシェリアに一度目配せをした上で炊事場へと向かう。どうやらそちらに要望を伝えに行くらしい。


「狩猟者ギルドの方では。」

「そもそも解体自体が稀であるからな、畜産に従事している者の手を借りておる。」

「あの大きさになると、血抜きなども相応の騒ぎになりそうですが。」

「そこは向いた魔術もあるのでな。」


そういった、生産活動に対してかかる手間を省略する技術が、道具を利用するでもなく個人で自在にというのは実に便利なものだ。


「さて、アベルさんをお呼びしたのは他でもありません。」


一先ず興味の事が片付いたからと、オユキの方で話を戻す。そもそも呼び出した理由というのがある。


「王都で簡単に話は進めていましたが、少し進めたものとして、定期的に集団で。それも良いのではないかと。」

「まぁ、魔物が増えたなら、流石に今のこの町の狩猟者じゃ足りんだろうしな。だが、森はやはりそれなりに厄介だぞ。」

「まだ確定では無く、情報を集めている最中ですが、森の中も少々変化が。」

「ほう。」


まだ他には情報として共有していない物であったらしい。


「それは後で聞くとして、やはりダンジョンだけではという事か、ハベル。」

「はい。これまでの成果は既にまとめてご報告させて頂いていますが、やはり圧倒的に少ないですね。一度内部が森に近い形状になったこともありますが、それで採取できるものが増えたという訳でもありません。」

「メイ様、そちらについて思い当たることは。」


領主はそこに存在する人員の管理を行っている、ならばそこから恩恵が発生するのではと、オユキとしてはそう考えるが。


「ミズキリからも似たようなことは聞かされましたが、生憎私では。」

「神に定められた数、場所も決められていたとすれば、その辺りはそうもなりますか。とかく、そういう訳ですアベルさん。ブルーノの方で運営は相応に上手くいっていると聞いています、では今後を考えれば、不足するのはと考えたときに。」

「まぁ、言いたいことは分かった。だがうちの連中もそもそも危険地帯は避けるのが本分だからな。森での護衛となると勝手が違いすぎる。少々荒れるぞ。」

「人命と比べるべくもありません。勿論避けてほしくは思いますが、必要であれば私が領主として許可しましょう。」


傭兵の主要な仕事は、こちらでは移動だ。それがわざわざ移動しにくい場所を戦場とするのかと言えば、そんな事が有るはずもない。それこそ、非常時と彼らが判断して対応できないわけもないのだが、その結果は周囲の環境破壊を行うのと同義だ。


「人数次第なら、担いで走りゃどうにでもなるのはなるが。その話が出てるってことは、そこそこ纏めてだろ。」

「詳細は、そうですね。それぞれから。アベルは動員可能な人数とそれで受け入れられる数を。ブルーノは狩猟者の中から協力ができる物を。ハベルも、最低限の能力を持つものと成長を望む者。それぞれの数を。」


直ぐには決まらず、持ち帰りの仕事が増えただけではある。ただ、方針が決まり、今はまだ健在化していない問題に対応するための方策が決まっただけまだ良い。


「メイさんも慣れてきましたね。」

「ええ。否応なく。それにしても、私から見てもトモエの教えを受けている者達は、随分と。」

「技術を伝える、事それに関しちゃ経験が違うみたいでな。」


結界の外、騎士が一暴れした後にそれに続けと、少年たちも張り切っている。鹿であれば、既に単独で対応した実績もあるのだ。きちんと周囲に気を配りながら、まだ戦闘経験のない熊や虎からは離れた位置に陣取って、そちらから離れて寄ってきた鹿や狼、兎といった魔物を順調に討伐していっている。

そして、勝った獲物がそのまま残ればそれを引きずって持って帰って調理場であったり、狩猟者ギルドの出張所に預ける。勿論、その合間にところどころトモエが声をかけている。


「料理しながらでも、ほんとよく見てるな。」

「見れるのは20人まで、今はその半分ですからトモエさんも余裕があるのでしょう。」

「公爵の縁者も人段落つきそうなもんだし、そろそろ他もと思うが。」

「来週、でしたか。マリーア伯と追加の人員が来るそうで、その方々を一度しっかり見る事になります。」

「ああ、リヒャルトはここに残すし、嬢ちゃんとお前らが離れるとなったら、戦力も足りないしな。」


そして、今は過剰な戦力がこの町にいるが、この後はまたそれらの人員が列をなして王都へと向かって出ていくのだ。初めからそれを前提とはしているが、それでも補填が行えるなら行うという者だ。特に河沿いの町、そことの移動はメイがいない間はリヒャルトが連絡も含めてあれこれとせねばならない。特に新年祭では公爵とメイが揃って王都に呼び出されているため、新たな教会を建てるという大役がこの一帯に残ることになるのだ。


「私としても、名誉な事だとは分かっていますが。」

「まぁ、新たな教会の誕生、そっちに気が引かれるのはわかるが、嬢ちゃんは任命式典だけじゃなく、先の功績への褒賞もあるからな。代理を立てて書面だけという訳にもいかん。」

「新たな教会など、このあたりでは鉱山の傍らが、町として運営ができるとなった時以来ではないか。」


本当に、随分と久しぶりの事であるらしい。

少年達も、それに合わせて動くことになる。王都に向かう事は決まっているのだが、彼らは新年祭を前に、門の試しと新たな教会を任せられる司祭と共に、この町に戻ると既に決まった。王妃から直々に名前を書かれた書類が届いたのだ。当然それを断る事が出来る訳もない。本人たちは、この町で新年祭を祝えることと、新たな教会を建てる儀式の手伝いが出来る事を喜んでいたが。そして、領都からの子供たちは、まずは領都に。そしてそこから水と癒しの教会で、新しい教会に赴任する者達の手伝いとそれが終われば、先に場を整える仕事を言い渡されている。子供たちについては公爵からではあるが。


「さしあたっては、今回の顛末を纏めて報告しなければならないのが最たる困難ですか。」


そうメイが呟けば、この場に座る物たちの溜息が重なる。司教を除いて。

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