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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
14章 穏やかな日々
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第491話 繋ぐための話

騎士オスカーが、何やら決意と哀愁を同時に背中に背負って一先ず鹿の魔物を狩猟者ギルドの出張所に運んでいくのを、何とも言えない面持ちで見送る。悪いことをした、そう言った気持ちは席につく者達が等しく持っていたのだが、それを見たいというのも事実であり、なんだかんだとこちらの様子を伺っている者達も多い。観客、祭りを見ようとここまで足を運んだ物見高い者達、騎士に、その輝きに憧れを寄せる者達の視線というのも確かに寄せられ、もはや止めようもない空気が確かに流れている。後は、申し訳ないが騎士達の中で調整してもらう他ないと、一同それを見送るしかないというのもあるのだが。


「オユキ、貴女も騎士に憧れを持っているのですね。」


そして、メイから年相応の振る舞いでオユキに声がかかる。


「はい。やはり一つの研鑽の極致におられる方々ですし、異邦ではそれこそ歴史の中、物語の中の方々ですから。」

「異邦にも、騎士を題材とした物語が。」

「こちらの物はまだ手に取ったことはありませんが、はい、実に多くの物がありました。」


一つの題材として、実態と違うと簡単に分かる物だが。お伽噺から演劇、歌劇迄。本当に多くの創作というのが存在していた。


「聞いてみたいものですわね。」

「あまり熱心という訳でもありませんでしたし、私よりもヴィルヘルミナさんに強請る方が良いとは思いますが。」


それこそ、歌劇、そこで披露される歌という範囲であるなら、あの歌姫の方がよほど詳しいであろう。それこそ叙情豊かに、オユキが行うよりも遥かに上質な物語として謳いあげて呉れる事だろう。


「それですが、オユキ。私が改めて招いても。」

「そう言えば、私の客人扱いですから、その辺りもありますか。」


話の流れで意を得たりとばかりにメイに言われ、それに改めて気が付く。


「ヴィルヘルミナさんに確認をし、ゲラルドに伝えておきましょう。ただ、舞台衣装を用意したいとのことでしたから。」

「それは、そうでしょうね。」


そして、話題に上っている人物にしても、この場にふらりと訪れているし、実に楽し気に狩りに勤しむ者達を眺めている。その恰好はなんというか、トモエとオユキも長らく平素としているし、屋敷内で良くしているものと同じだ。


「メイ様からの要望として伝えておきます。恐らく事前に演目の傾向など聞きたいかとは思いますので。」

「それでは、そちらは改めて。」


そうして狩猟に勤しむ者達との喧騒とは離れて、恐らく別館、そこで行われるだろう事を行っていれば、次の挑戦者がこの場に現れる。恐らく初めて得たのだろう。他の物たちが直ぐに料理にと持ち運ぶ中、最初に持ち込んだ騎士の物と比べてと二の足を踏む中、それでもと。狩猟者見習いとして、折に触れてオユキとしても見た覚えの顔でもある。


「名乗ることを許します。」


本来であれば、その辺りは侍女や侍従の仕事だろうかと、そういった事もオユキは思いはするがメイがまずはと口を開いているあたり、何やら別の決まりでもあるのだろうかとも考えるものだが。青年というには年若い、それこそトモエと見た目に関しては同じ年頃だろうか。メイが声をかければたどたどしくも名前を述べて、丸兎、丸ごと残ったそれを掲げて見せる。それに対してメイが誉め言葉を贈り、ブルーノからも。ついでとばかりにオユキからも何とはなしに見ていたこの人物の戦いぶりに対する所感も告げておく。

そして、そこから暫くはなかなか、忙しくなるという物だ。

褒められたい、それは人の自然な心なのだから。

長蛇のと枕を置くほどではないが、それなりに人が並ぶ席、そこで見せられる狩猟の成果に次々と、何とはなしに出来上がった役割分担。既に狩猟者であればブルーノが。獣の特徴を持つ相手ならアイリスが。教会の子供たちにはロザリアから。そうしながらも、次々に見せられるそれに対して声をかけていく。そして、数は少ないが川辺で見つけたのだと薬草や、治療に有用な苔であったり、森から珍しい秋の訪れを感じさせる食材であったりを持ってきたものがいれば、それこそ採取者ギルドから。

オユキとしては、何やら川辺に座り込んで釣り糸を垂らしている見知った顔に言いたいことも色々ありはするが、今後を考えれば互いに休日はいるだろうとどうにかその辺りも飲み込んで。


「採取がやはり。」

「魔物、そちらが試練として強度を上げた以上は。」

「どうしても魔物以外を集めるとなれば、戦闘は避けたい物でしょうし。役割分担であったり、合同であったりというのは。物によってはやはり隙が大きくなるでしょうから。」

「道中の護衛というのは、どうしても傭兵ギルドになりますからな。」


少し合間が空けば、メイもいるのだからとオユキからも気になることを口に出す。それにしても、公爵と話を詰め今後改善すべき課題として挙がっているものだからこそ、気兼ねなくというものだ。


「ブルーノ。」

「そういった事に協力的な物、興味を持ち出しているものにしても、今は新人の教育に手が取られておる。」

「やはり森の中ということもありますか。」


そして、問題として草原と森では途端に難易度が変わるという現実がそこにはある。


「森の浅い所であれば、どうにかなる方も多いようですが。」


そして、こうした話し合いに都合のいいこととしては、現状の戦力という物を実際に目にすることが出来るというのが真っ先に上がる。数人無謀な試みを企む者もいるが、それは早々に周囲に散った先達たちに追い返されている。それでもと続けようとすれば過去にオユキやイリアがそうしたように容赦がない。それをしないほうが良いと、オユキが伝えアベルの追認を得たこともあるが、ねじ伏せられた上で、町の中にと運ばれて行く。


「聞いていた話し以上に、皆さん面倒見が良いと、そう見えますが。」

「それについては、我らも反省しておる。あの日の事、それで勘違いに気が付いた。誰も隣人が失われることなど望んでいなかったのだとな。無論、日々の事がままならぬのであれば己を優先するが、そうでないならという者も多かったのだ。」

「魔物が増えた、それが良い方向にも働いたという例ですか。」


為政者を巻き込まず、それがどうなるか分からないという中でも、後進の面倒を見ようとそういった気風を持つものたちがこの町にはいた。そして、魔物が増え、否応なく魔石の需要が上がり、狩猟を、魔物を狩る物の日々に不安が減った。それが実に良い方向に回っているらしい。

そして、もともとそこにあった問題が、スライドする形で今は採取者ギルドに。


「シェリア、アベルさんは。」


そして、それに対する解決策を協議するにも顔ぶれが足りぬと、オユキからはそう動くしかない。

暫くはこの場に、同じ席ではないが傭兵ギルドの長として顔を出していたはずだが、周囲を軽く見渡しても見当たらないため、侍女として控えている相手に声をかける。メイの側にも控えてはいるが、いよいよそういった心得はなさそうであるため、そちらに頼ることは出来ないだろうと。


「先ほどまで居られましたが、騎士からの要請があり。」

「時間がかかっているかと思えば。」


こうして話が進む程度には時間も経っている。トモエにしてもすっかり炊事場の住人となっているし、オユキ達の席にはまだこれと言った物は運ばれていないが、あちらこちらで簡単な料理を楽しんでいる者達もいるのだ。酒の樽を持ち込んだものはメイが流石に壁の外だからと止めはしたが、そう言った流れができる程度には場が出来上がっている。アイリスの方でも、話し合いよりも焼かれる肉の匂い、オユキとメイが苦手としているため手は打たれているが、それでもわかるらしくそちらに意識が完全に向いてしまっている。


「では、必要な事ですし、本人としても望まぬでしょうから遣いを出してとしましょうか。メイ様、宜しいですか。」

「そうですね。領主からの要請として、正式に傭兵ギルドの長、アベルをこの場に。それから良い時間にもなっていますから、私たちの方でも簡単に口にできる物をいくらか。」


メイもアイリスの様子には気が付いているようで、そう改めて指示を出す。


「さて、ローレンツさんがアベルさんとともに来るでしょうし、それまでの間に私たちの方でも少し纏めましょうか。アイリスさんには、そうですね、そろそろ持ってこようと考えている方々もいるようですし。なにか宣言などあれば。」

「特にないわよ。」

「では、こういった場の慣れの問題でしょう。メイ様。」

「楽な場と、そうしているつもりではありますが、そうですね。」


流石に直接という訳にもいかないが、獣の特徴を持つものが数人。アイリスに渡したいのだろう。串にあれこれと肉を突き刺して焼き上げた物を用意しながらこちらに視線を送っているのには気が付いている。ただ、問題としてメイとオユキがそれを好まないというのがあるのだ。一応主催はメイとなっているため、アイリスが優先というのも難しく、それもあって周囲に遠慮があるのだろう。

その辺りも踏まえて、メイが簡単に一先ず運ばせるものを纏めて侍女に告げている。後は、それに合わせる形であれこれと持ち込まれる事だろう。


「傭兵ギルド、そちらに定期的に森迄の護衛を頼む。狩猟者が森になれる、採取者を護衛するという経験を積む。その両方も含めて。傭兵ギルドは主体が騎士団からの出向です。今後ダンジョンの運用が本格的になればそちらに手が取られることも、決まっていますからね。」


何も、ダンジョンの内部から資源を得て来るだけではない。それを近隣に分配する者達の護衛も傭兵達の仕事となる。彼らにしても、どうした所で業務過多になるのだ。採取の護衛までというのは。ならば。


「ケレスさんが試算もしているでしょう、ミズキリから腹案を受けて。」


オユキが思いつく事、その多くはミズキリも思いつく。その信頼は確かにある。


「統治者としての、税を得る物として如何にそれを運用するのか。その新しい仕組みを話しましょうか。」


困難は多い。よらしむべしという言葉がある。それこそかつての世界であれば、それに対して罵詈雑言を投げかける物も多いだろうが、こちらはその言葉が出来た封建制。そしてそれが必要な世界なのだ。ならばそれを存分に前提として、それでも確かなものを返せばよい。

衆目も多い為、実際の話はせず概要だけを。改めて各々持ち帰って、オユキの定めた休暇が明ける頃にはちょうどいいだろうと。


「ダンジョンにだけ頼るというのも、やはり不健全ですからね。定期的な業務として、町の出来事として。そのような仕組みを用意し、経験を積み己でとそうなる迄は手を引く。そういった形の仕組みもいるでしょう。」


ミズキリが思いついたとして、それはあくまで仕組みでしかない。そこに人の感情というのはほとんど考慮されない。互いに利益があり、運用できるかが最も先に立つ。そして、オユキが無視された部分、そこを補填するのだ。かつてのように。

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ツギクルバナー アルファポリス
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