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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
14章 穏やかな日々
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第490話 狩猟祭

オユキとしては、何処まで言っても巻き込まれた、そう言った感想しか出てこない。

勿論、言い出したのは自分だと、その自覚は存在しているため、お飾りとしてお行儀良くしてはいるのだが。


「そもそも、私は何をすれば。」


ただ、お飾りとして座っているだけでは済まないともわかっているため、鬨の声を上げて始まった、今も周囲からは怒号と言っても差し支えない声が響く場をどうにか制御しなければと、そう疑問を作る。アイリスの方は随分と慣れた様子で楽しげに見守っているし、メイも何やら呆れた風ではあるが理解がある様子ではあるのだ。


「基本の評定は各ギルドの審査員が行います。そして、私たちの方では、それを超えた物の中から、特にこれはと思うものに祝福を。」

「ギルドの数が。」


今ここにいるのは、二つだけ。そう思ってオユキが口にする。ただ、その返答を待つよりも先に随分と暗い表情とため息が返ってきたため、直ぐに話を逸らす。


「これはと思うものと言われましても、なかなか難しそうですね。」

「早々に決める片も居られますし、最後まで決めない方も。」

「また、指標が難しそうですね。」


そうしてオユキが作法についてメイに聞いているうちに、そこかしこでなかなか愉快な事になっている。オユキは馬車から出してもらえはしなかったが、トモエに周囲の魔物の配置の変更なども聞いていた。

実際に河沿いの街で見かけた蟹が、河沿いを歩き回ってもいる。そして、これまでは森の方まで行かなければ見る事の出来なかったキノコや鹿といった魔物たちも。それだけでは無く、このあたりには居ないはずの大きめの爬虫類なども。


「それにしても、なかなか様変わりしていますね。」

「うむ。この町でも、方角に合わせた難易度を制定せねばなるまいよ。」

「川沿いに薬草の類が新しく群生しているとの報告もあります。距離だけで見ても森の端よりも近く、結界からもほとんどはなれていない所に迄。」

「それは、かなり便利になっていそうですね。アイリスさんの影響もありそうですが。」

「ええ、僅か数日、それでもはっきり分かるほどに。ただ難点として、森が近づいたのですが。」


言われてオユキもそちらに視線を向けてみるが、よくわからない。距離があるのもそうだが、そこまで把握できるほどに時間をこの町で使っていない。ただ、まぁ理屈はわかる。


「こういった形で釣り合いを取るのでしょうね。」


そして、そんな事を話している間にも、視線を向けた先で木がまとめて切り倒されている。魔道具がそこまで大きくないこの町では、それも非常に有用な燃料になるだろう。そしてそちらからなかなか大きな鹿をそのまま担いで持ち帰ってくるものがいる。

いや、それだけでなく、明らかに割合がおかしい。


「ブルーノ様。」

「その方が解らぬことが、我にわかるとも思えんが。」

「では、やはり常の事ではないと。アイリスさんの方では。」

「流石に私もあなたたち以外では、初めて見るわね。」


追い込まれたわけでは無い丸兎を、新人見習いが仕留めそのまま残ったそれを掲げて勝鬨をあげているし、それこそ河沿いではカリンが手早く蟹を解体しては側にいる者達が結界の中に向けて運んでいる。イリアの方でも両手剣を大いに振り回しては、森から追い出されるように出てくる魔物の首を次々に落としている。


「ロザリア様。」

「昔に、狩猟祭という物がありました。」


そして、間違いなく知っているだろう相手が、実に楽し気に様子を見ているので声をかける。そうすれば、実に簡単に答えが得られるという物だ。


「降臨祭の最中に、ですか。」

「実際の日取りは違うのですが、行われなくなって久しい物ですから。私たちが主導で行う物では無く、町に暮らす人々が行うものです。狩猟と木々の神に感謝を。与えられた恵みを戦わぬ者達も、感謝をもって。」

「それで、今回の勝者に聖印ですか。」


となると、アイリスとオユキで役割分担をせねばならないが。そう言った思いを込めてアイリスに視線をオユキが投げれば、ため息が返ってくる。


「料理となると、ブルーノ以外にいるかしら。私は、まぁ、こうして獲物が運ばれれば選びやすいけど。」

「そこは、そうですね。身内にと見えますか。ただ振舞う先は私たち以外もですし、納得は行くかと。」

「それもそうかしら。でも、貴女全てを口にできるのかしら。」


そう言われてしまえば、オユキの方から特に返答はない。先着順とそうするしかなくなってしまうが、やはり作る物を選んで、それも持ち込まれる食材からとなれば。アルノーに至っては、そもそもオユキの食の好みにも詳しいのだ。


「味では無く、工夫や独創性としましょうか。アルノーさんも料理をするなら遊び心が欲しいと、そう口にされていましたし。」

「まぁ、それもいいでしょうね。」


そして、周囲では臨時のギルド出張所に持ち込むものがほとんどではあるが、やはり慣れているのだろう。まずはとばかりに鹿を仕留め、それを担いで持ってきた物がそれをオユキ達の座る場の前まで運んでくる。

ただ、そうなると誰から声をかけるかと若干の牽制が行われ、まずは領主からとメイに視線が集まったため彼女から。


「確か、王都第二騎士団、オスカーでしたね。」

「は。」

「急な狩猟会、いえ、司教様が言うには狩猟祭という古い祭りではあるのですが、よくぞ先陣を切り仕留めました。」

「お褒めの言葉、真に有難く。」


本人としても、戻る最中に方々で魔物がそのまま残るさまを見ていたこともあり、違和感を覚えていたらしいが、祭りと言われたことでそれに納得したように一度頷いて、メイに頭を下げる。


「本来であれば、騎士オスカー、其の方の功績となるのでしょうが今はやはり祭りの場。司教様。」


メイが獲物の扱いについて口にしようとしてつまり、名を聞いたばかりの祭りだから当然だが、司教にその説明を丸投げする。


「名は狩猟祭。狩る者達は積み上げた武を魔物を狩り謳いあげ、日々を暮らす者たちがその恵みを返す。手をとり合い、そこでこの地に住まうものたちが喜びを分かち合う。己の出来る事、彼の出来る事。その差を想い、だからこそ助け合う。それを新たにする祭りです。」


司教の声が響く。屋外で、そこかしこで喧騒があったはずだというのに、参加している者達の耳に正しく届いているのだろう。流石に魔物と戦っている最中の者達は手を止めることは出来ないが、それ以外の者たちは司教の話に耳を傾けている。


「実際の日取りは違います。正式なものとしたいのなら、それは改めて正しい日を伝えましょう。ただ、やはり特別な事ではないのです。当たり前の事、常の事。他の祭りも変わりません。ただ、改めて感謝を示す、その分かりやす日であり、彼の神が近い日だと、それでしかないのですから。」


司教の言葉は、オユキにも非常によくわかる。それに内心で頷いていれば、実に悪戯気に司教からオユキに向けて視線が送られる。


「特に、ここしばらくは異邦の者達が狩猟で得た糧を、多くの者達と分け合い喜びを増やしていましたから。」


それではまるでこの騒ぎの原因がオユキにあると、そのように聞こえる物だ。つられて集まった視線には、いつもの笑顔だけで返して置き、恐らくミズキリが各地に団員を、その一端でもあるのだろうと得心も行く。こちらではどうした所で日々が忙しく、戦闘を主体とする者達はやはり消費も多い。怪我をすればどうなるかもわからぬ、武器も消耗品であり上を見ればきりがない。そのような状況では、確かに難しい事も多かったのだろう。


「では、新たな恵み、失われた神に喜びを添えられるというのであれば。こちらは民達に。」


そして、それを受けて騎士からもそれが当然と返ってくる。


「食用に適さない部位くらいは、そうも思いますが。」

「何、それすらも細工物とでもしてくれれば構わないでしょう。」

「では、オスカー。民があなたを待っています。あなたの狩猟の成果を讃えるために、あちらで。」


メイの示す先には、炊事場があり、既に持ち込まれた食材で料理も始まっている。簡単な物はすでに出来上がっているし、これまで見る事も叶わなかった物を間近で見たいとそういった視線が熱を持っている。


「角が危険であることに、変わりはないのですが。」


そして、なんだかんだと新人たち、そして町で暮らすだけの者達もいるのだ。鉄をも貫く角、刃の鋭さを持つそれに下手に触れればと、その心配もよくわかる。


「まぁ、注意するしか無かろう。毒を持つものもおるしな。」

「それもそうですか。ではメイ様御前を拝辞させて頂きたく。あちらで待つ者達に、我等の剣の輝きを届けたく。」

「ええ。許します。」


そうして前を去ろうとする騎士をオユキが呼び止める。


「オスカー様。」

「どうかオスカーと、巫女様。」


狩猟、そうであるならやはりオユキとしても見たい光景というのがある。そして、それを叶える事が出来る者達がこの場にいるのだ。


「では、オスカー。ローレンツ様に言伝を。第二騎士団、そこから今私が借り受けている人員を率いる立場として、狩猟を行うものとして来るようにと。」


森が近くにある、川もある。しかし主体となっているのはやはり草原だ。そして狩りをというのであればオユキとしても貴族のそれ、馬上に乗る者達が行う姿というのも是非見てみたいというものだ。

生憎と道中は外を見る事が出来るのは、休憩をしていた時だけ。王都でそれこそ整然とした行進は見たのだが、何もそれだけが全てという訳でも無い。しかし、オユキの言葉にオスカーの反応が鈍い。どうしたことかとオユキが疑問を覚えるとメイも同様であるらしく、返答を促す。


「騎士オスカー、神国の剣と盾を立つ者達、それに輝きを示せと巫女様に頼まれて応えられぬ。護衛としての手があることも分かりますが。」

「いえ、希望者が恐らく。」


珍しくオユキが騎士としての力を示せと求めているのだ。無論それを断る者はいない。護衛の人員もあるが、それこそ休憩中の者が息抜きに、それでも十分な実力者たちであるし護衛対象がこうしてここにいる以上、言い訳も十分以上に立つ。ならば、それに参加したいと名乗りを上げる物は実に多いだろう。ただ、問題としては。


「他の狩猟者の方も広く動かれていますし。」


それこそ大人数で騎兵が駆け回れば、事故が起こりかねない。


「それは、皆理解するでしょう。であるからこそ。」


誰が参加するのかと、それこそそちらで諍いが起きる物であると。

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ツギクルバナー アルファポリス
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