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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
14章 穏やかな日々
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第483話 カレン

「さて、主要な事が終わっているのであれば、改めて。」


この場には当然のごとく近衛もいる物ではあるが。


「ご挨拶をさせて頂いたきりとなっていましたが。」

「オユキ様、どうぞこの身には。」

「ええ、気を付けるようにはしますが、常がこうですので。」


オユキが砕けた言葉遣い、それをするのはミズキリだけだ。彼については、そもそも学生らしい時分でもあり、すっかりとそれに慣れていた。それを知っている相手、勿論仕事場では弁えることもあったが、度々、お互いに行き違いが生まれたときなど、それこそ人様に聞かせられないような物も多くあった。そう言った一切合切を含めて、今がある相手だ。


「その、その後は如何お過ごしでしたでしょうか。私共にも都合があったとはいえ、切欠だけを作ってとそうなりましたから。」


傍から見た時には、オユキ達の振る舞いというのは賛否の別れる物だ。公爵は一応諸々を秤にかけた上で歓迎してくれた。ただ、それ以外の者にとっては住まう場所の一角、そこから安息が消えるという大事を引き起こし、収拾がつかぬ間に去っていった者達だ。色々と遺恨もあるだろう。それを表立って言わせない、そうするために神の言葉があり、それを運ぶ役割を果たしたというのもある。


「いいえ。それこそ逆恨みでしかないでしょう。」

「そうですな。不心得者も居りましたが、では何が悪かったのかと言えば、住まう物のこれまでが、それでしかありません。神の裁き、それを受けるだけの事を行ってきたのですから。」

「おや。」


ゲラルドがそこまで言うのは、障りがありそうだと思わずオユキの口からも驚きが出る。


「現公爵様も、先代様も。相応に。」

「それもあって王都での多忙ですか。」


どうにも、色々と面倒を抱え込んでいるように見えるかと思えば、その辺りに対しても何かがあったらしい。

いや、何やら相殺可能な部分も多くあったと聞いている。公爵にしても、王族から来ている手紙にしても、他の領の事に触れていない。そういった事までを踏まえれば、今後、次の移動。そこであれこれと話をされることも多そうではある。


「カレンさんには、今後の移動、その際同道をお願いすることになります。」


昨夜のうちに、オユキはトモエとその辺りを少し話している。要は、本邸、帰るべき家というのを何処に置くのかという事を。最も、今はそれも一つしかないため早々に決まった。


「ゲラルドさんは、お願いさせて頂ける間は、私たちの本邸となるこの場で。」


そして、始まりの町、メイのすぐそばに置かれるそこを任せるのに、彼ほど信頼できる相手もいない。では、移動の最中。各地でトモエとオユキに変わって簡単な交渉を行うのは誰かと言えば、残った一人になる。


「より一層、厳しくせねばなりませんな。」

「いえ、ある程度はこちらで。移動中、色々とお話もさせて頂くでしょうし、こちらに合わせる事も考えますが、身の回りに一番近いのであれば、私のやりやすい方法というのを覚えてもらわねばなりません。

 家宰としてではなく、恐らく近侍、侍従に近い扱いをする場面も出るかと思いますので、過日の騒動と合わせて改めて謝罪を。」

「正直に申し上げて、今の私は見習いの見習いのような扱いですから。既に家名も無くなった身です。」

「そこまででしたか。」


かつてカレンは家、両親かどうかまでは分からないが、そこから押し付けられたことをさらにトモエたちに向けた。その結果として、彼女に目をかけていたアマリーア、ギルドの支部の長という以上の背景を持つ人物が、それだけではないにしろ問題を抑えるために奔走することになった。その結果だけを見れば、当時のアマリーアの言葉を考えれば、そこまではあまりに過剰とは思うのだが。

そういった思考が視線に、カレンを観察するような視線として現れたのだろう。


「私の両親は現在療養中です。」

「そこまで、でしたか。」


つまり、マリーア公爵の領都、そこにすら汚染が広がっていたらしい。狩猟者ギルドで遭遇した相手の事を考えれば、確かに理解のできる物ではあるのだが。その実例、それが正しいとはっきりと示されればオユキは重たいものが自身の内にまた降るのを感じるという物だ。


「久しくまともに会話ができないとそう思っていたのですが、オユキ様とトモエ様の為したことで、随分と久しぶりに両親と話が出来ました。」


カレン、彼女にしてもメイとさほど年の頃は変わらない。それが随分と久しぶり、そう言うほどの期間汚染された両親と暮らしあの会話が成立しない、歪な理屈で動く相手と生活の場を共にしていたのだ。トモエとオユキは経験が有る、これまでの人生として。だからそうでは無いものがある、好まない物を寄せ付けない、その選択があった。しかし、目の前の未だに少女と呼んでもいい相手は違う。


「そうですか。」


そして、ただトモエとオユキその心証は害されてゆく。僅かな甘ささえ見せるべきではない、与えるべきではない相手なのだと。


「その、ご両親は、今。」

「現在は、屋敷で過ごされています。朝晩は教会に、その程度です。まだ軽度だそうですから。」


嬉しさと、悲しさと。実に複雑な感情を浮かべてカレンが続ける。


「他の物たち、取り返しがつかないとされた者達については、想像通りに。」

「私たちがいる間にも、試したでしょうから。」


既にそれについては、別の方向で確認が終わっている。

メイであったりオユキであったり、その側で行うのであれば、原因を利することはないのだと。機会は確かにあった。これまでの期間、それなりに領都に滞在し、公爵の屋敷とされている場所で過ごすこともあったのだから。

ただ、そうなると確信を得た時期、それが気になりもする。それこそ御言葉の小箱に入っていたと考える事も出来るが、そうであるならオユキとトモエにそれを直々に伝えない理由も分からない。恐らく、そう前置きをするしかないのだが、異邦から来る者達の中でも珍しい精神性を持っている二人なのだから。アベルが試しを必要ないと、そう断言するほどに。


「であれば、謝罪の言葉では無く、今後より良くなることを祈るとしましょう。」

「ありがとうございます。」

「ともかく、今後はそのような形になるでしょう。領都はともかく王都ではかなり忙しくなりますが。」

「その、具体的には。」


今でもかなり忙しいとそれはオユキも理解している。ただ、それについて既に通常の業務とした。一度に起こったことであるため、勿論通常とは言い難い負荷になったのだろうが。


「ただ、私もその辺りは分からないのですよね。一先ずは魔国への移動に向けた準備となるのですが。」


未だにその辺り決まっていないこともある。

アベルの最初の想定では、王太子だった。しかしそれにトモエが難色を示したため、オユキもそれについては既に連絡している。相応の対価はそれこそ求められるが、それと相殺するために、王都にも門を得たという事にしているため問題はない。話に聞いた、魔国に近い公爵の先代。王太子よりも先に、他国から家に招いた実績を持つ相手に案内を頼んでいるが、未だにそれについての返答はない。


「その辺り、近々手紙が来るとも考えています。それ次第でしょうね。」


恐らく一番忙しい部分、それについては棚上げするしかなく、オユキからはそうとしか答えられない。


「他で言えば、それこそトモエさんと武器を交える事を望む方も多いでしょうし、私に巫女としての職務の依頼もあるでしょう。公爵様を通して頂く事にはなりますが。」


結局のところ、それらは仕事の道中に発生することでしかない。既に事前の折衝、日程の調整は始まっており、オユキからこう決まったと今はカレンに伝える物でしかない。では、何故同行を求めるのかと言えば。


「やはり家財の管理が主ですね。転移を叶える奇跡、こちらは荷物の量に応じてとのことでしたから、運ぶものは最低限にする必要があります。こちら迄運ぶ手配は必須ですから。」


仕事、奇跡を運ぶ対価。それを得られたとして、それをトモエとオユキの手元まで間違いなく運ぶのがカレンの仕事になる。そして、そう言った事には商業ギルドで働いていた経験が十分以上に生きて来るだろう。


「今と、さして変わらぬと。」

「こちらでも家宰の方の主要な仕事は、家財の管理と思いますが。」

「はい、それが最たるものですな。予定などはそれこそ侍従や侍女の仕事です。」

「という事ですので。一応、陛下やそれこそ魔国からお礼を頂けるでしょうから。」


そして、その運搬に万が一がないようにとオユキからカレンには言うしかない。


「国内であればまだしも、魔国となると。」

「それについては昨日宣言しましたが、人を使う事、新たに人の手を頼むことを認めています。どうした所で、手が足りないのは理解していますから。」


そう言えば、その場にこの二人はいなかったなと、そんな事を考えてオユキが改めて宣言する。てっきりシェリアあたりから共有が行われるかとも思っていたのだが。そう考えてオユキが視線を向ければ、緩く首を振られる。

どうやら現状を慮って、完全に別系統として動いていたらしい。もしくは、どうにか仕事をやり切った二人を休ませるとしたのか。


「後は、私としても想像が及ばないのですが、魔国側から来る人員ですね。」

「それは、そうですね。先方からお礼として。」

「はい、それについても考えておかなければなりませんし、現地での調整は勿論私も行いますが、どうした所でカレンさんが差配をしなければいけないですからね。」


今後の多忙、それを改めて口に出していけば、トモエもオユキもあまり気分のいい物では無い。そして、そこまでを話した時に、長く話しすぎたのだろう。オユキが急き込むことになったため、情報の共有を行うための時間というのはそこまでとなる。

この後にはオユキは仕事が待っている。トモエにしてもアイリスと共に参加したものとして、社の安置の祈りを捧げるときに並んで欲しいと頼まれていることもある。

それまでの時間、しっかりと休んだうえで、場に臨むことになる。


「休みを満喫するためにではなく、仕事のために休むことが又あるとは。」

「私にとっては、休みは鍛錬の内ではありますが。成程、かつては多くの人が煩わしく感じた物でしょうね。」

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