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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
14章 穏やかな日々
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第482話 二日目

休みの初日はお茶会が終われば、トモエとオユキは室内でまたのんびりと時間を過ごした。どちらもそれなりに急ぐべきこともあるのだが、休むと決め込んだ以上は休むのだ。そして、場を室内に移して今度は二人でこれまでの事をぽつりぽつりと話しながらお茶を飲んでいれば、直ぐに夕食に呼ばれることになったのだが席は分けられた。

怪我の状態もあってだろう。カナリアに改めて協力を願い出たようで、肉を大量に焼く場からオユキが食欲を奪われないようにとの配慮がされ、トモエはアイリスと共に大量の肉を楽しんだらしい。オユキの方でも、未だに喉に違和を抱えているため、細やかな配慮がされたスープを主体に食事を済ませた。肉にしても、一度別でゆでて脂を落としたものを細かくしてと、オユキとしては本当に頭が下がる思いだ。

ただ、オユキの参加しなかったその場では、かなり愉快な食肉の消費があったらしく、アルノーから苦笑いと共に仕入れを頼まれもしたが。


「確かに、過去との違いを感じますね。」


そして、その大量消費を行った相手の感想は実に端的な物だ。


「種族差という物は理解できますが、私は相変わらず無理そうです。」


そして、オユキにしてもトモエの補助が無ければ体が起こせなかった前日に比べれば、かなりましだ。一応、自分で上体を起こす程度は出来る。そして、その状態を続けたところで視界の端が暗くなったりという事もない。


「ただ、昨日も話したように、私からの挨拶は座ったままとなりそうですね。」

「アイリスさんも、実際のところは。」

「体毛が祖霊の力を示すとのことですし、私たちが思うよりも、忌避感は強いでしょうね。」


今は見すぼらしいとまでは言わないが、常と比べて見苦しくはある。そして祖霊から継いだものを示す部位がそうだというなら。


「回復は待てない、その理解はある物でしょうから。」

「ええ。それとトモエさん、外にいるシェリアさんにゲラルドさんとカレンさんを。」


今日という日は、一応オユキにも仕事がある。そのために為すべきことも多いのだが、休みを求めた以上は、そこで遠慮をしたりもしない。騎士達の振る舞いについては、屋外で共に食事を楽しんだトモエに頼んでおいたため、いえの統括としてはゲラルドに休むと断言した以上、オユキの方から色々と確認したいこともある。カレンと改めて時間を取るという目的もあるが、他にも招いた異邦人たちの要望もある。そして、トモエとオユキが場を離れた後にこちらに来ただろう、顔なじみの二人にしても。

こちらに来ていないという事は、ミズキリが引き取っているはずではあるのだが。


「おや。」


ただ、そうしてあれこれと考えているうちに部屋を訪ったのは、呼んだ相手ではない。


「なんで意外そうにされるのか、私こそ不思議に思いますけど。」


部屋に入ってきたのはカナリアとシェリア。


「アイリスさんはまだお休み中、獣人の方ですし、体調の回復は食べて寝るのが大事な種族ですから向こうは後です。」


そして、しっかりとカナリアに診察される。喉については、それこそ致命傷でもあったため回復には時間がかかる。掌の傷も、相応に深くいったため寝ている間にしっかりと滲んでいるものもある。


「一度、功績を貯める器を身に着けていただいても。」

「それもそうですか。」


流石に寝る時に装飾の類は外しているため、トモエに頼めばそのまま首からかけられる。そして、前日とほとんど変わらぬ色がそれに改めて映る。


「怪我の治療にとも思ったのですが。」

「使命の上で、これを得るためにとしたことで、という事でしょうか。」


そもそも今回の負傷は功績を認められるために行った事。ならば、認められたそれが過程を補填するためには使われないぞと、そう言う事なのだろうかとオユキは考える。


「定着に必要な分も回復していないということかもしれません。そうなると、オユキさんとトモエさん、お二人の存在を維持するための最低限が増えたという事になるのですが。」


流石に、その辺りはすぐに分かることもありませんからとカナリアが苦笑いだ。


「こちらに来てまだ一年にも満たないですからね。」

「それ以上に、個人差が大きすぎるので。なんにせよ、本日の挨拶にしても座ったままとするのがいいでしょう。特別な事が有るとは伺っていませんが、万が一ということもあります。」


確かに、祭りの最中突然倒れたりというの色々と障りも多い。


「ええ、そのように。」

「後は、護衛の方にお任せしますね。癒しの奇跡をと言われましたが、やはりまだ難しそうですから。どうかくれぐれも。」


相変わらず念押しは護衛に対して行われるものだが、そう言い残してカナリアが部屋を出ていく。


「トモエさんは。」

「松葉杖があれば、使っていたでしょう。」

「それだけの傷が、数日で治るというのは有難い物ですね。」

「ええ、しかしそれに甘えず鍛錬はせねばなりませんが。」


そうして二人で頷きあっていると、呼び立てた相手が部屋に訪れる。思えば、執務室以外にこうしてオユキから呼ぶのは初めてかもしれない。

領都では商業ギルド、そこに務めていたカレンが、ついたころに比べればいい加減体力も回復しただろうかと思えば、しっかりと増えた仕事が苛んでいるらしく、やはり今一つ顔色が優れない。


「お二人にも、かなり負担をお願いしているかと思いますが。」

「いえ、これこそが職務ですから。」


返事はゲラルドから。


「今日は改めて夕刻ごろに教会に。先延ばしになっていた、祭りにおける仕事を行う事になります。」

「畏まりました。」

「それから、荷物の確認の進捗は。」


そして、完全に任せきりになっていたことについても改めて話を聞く。一応トモエの方で運ばれた物の確認は行っているが、それがどう言った物か、誰からの物で、どれが自分たちで買いもとめた物なのか、そう言った確認は全て後回しになっている。


「ようやくひと段落と言った所です。」

「目録との照らし合わせも完了しました。未だ受け取っていない物、既に受け取っているもの、またそれらがどちらからか、纏めさせて頂いております。」

「お手間をかけます。」


どうにか、後続の荷物その仕分けも無事終わっているようである。品目にしても多岐にわたるし、類似の物もある。そのどれが誰から贈られた物か、そう言った細かい確認までと考えれば、実に手早く行き届いた仕事ではある。


「では、その中で私たちが自由に使って、いえ、他の方に下賜しても良い布を分けた上で、そこにカリンさんとヴィルヘルミナさんを。それぞれから衣装の仕立てを頼まれるでしょうが、その手配までを頼みます。

 アルノーさんにしても、魔国迄の同行を望まれるでしょうから、相応の場に出る事を前提として役職を持つ身に相応しい物を仕立ててください。」


そうオユキが告げれば、何やら虚ろな笑いも返ってくるが。


「それが終われば、ゲラルド様もカレンさんも、大きなものはひとまず終わりかと。」

「まぁ、確かにそうなのですが。」


内向きの大仕事も終わっており、外に向けた仕事はそのほとんどを一律で断ると決めている。それこそ門前で払うというのならこの二人の仕事では無く、借りている騎士の仕事だ。


「そこまでが終われば、カレンさんとも、一度お時間を頂きたいとは思うのですが。」

「はい、その折には私から改めて謝罪とお礼を。」

「謝罪は結構ですよ。理由に理解はあります。ままならぬこともあるでしょう。どちらかと言えば、その後の事ですね。公爵様もゲラルド様も口にしたくない事柄をお聞きするのは心苦しくありますが。」


領都、初めて訪れたときに引き起こした諸々、その結果。それを公爵も、より詳しいだろうゲラルドも語らない。オユキ達の仕事量を慮ってということもあるだろうが、進んで言い聞かせたいものでもないだろう。だからこそ、あの後何が起こったのか、現状はどうなっているのか、その確認もオユキとしては行いたい。


「それと、ミズキリの方で新たな異邦人を二人預かっているはずですが。」


そして、改めて後に回していたそれについても。


「かつての顔見知りではあります。こちらとも席を設ける事を考えています。」

「それなのですが。」


そして、話を聞けば、顔見知りの二人は早々に己の去就を決めているらしい。一人は既に川沿いの町に向かい現場の下見、そしてもう一人は。


「トモエさんの予想が正解ですか。」

「ええ、あの方でしたらそうなるでしょう。」


既にメイの下で、己の部屋までをきっちりと確保しているらしい。


「それと、ケレス様から、オユキ様にあてた手紙が。」

「後で読みます。」


それに対して、オユキは即座に断言する。読んでしまえば、対応すべき事柄が何処までも並んでいるのだろうから、休日など失せる。


「では、断られた場合に伝えて欲しいと頼まれたことを。怪我が治ったら、一度出頭するようにと。」

「それまでの間に、言い訳なども考えておかねばなりませんね。」


オユキとしても、過去がある。おおよそ言われることなど想像がつく。そして、今は代官であるメイの下で働くことを決めたのだ、そこにはあまりに明らかな立場の差があるため、過去の様な遠慮はない物だろう。


「ケレスさんがそちらであれば、リヒャルト様も、メイ様も喜んでおられるでしょう。ただ、直ぐにとはいかにこともあるでしょうから、私たちの休むとした期間、それはケレスさんにも良い物かと。」

「商会の一員というには、随分と色々慣れがあるようでしたが。」

「私も良くは知りません。あくまでミズキリの興した商会の同僚でしかありませんから。素性についてはミズキリに。となると、体制の再編と教育まで既に始めていますか。」

「ケレスさんもオユキさんと同じで、仕事が趣味といった人物ですからね。」


トモエが笑いながら、そう話す。

オユキとしても、そもそもミズキリの会社自体、ケレスがいなければ立ち行かない事など実に多くあった。生前程の便利な道具は無いにせよ、無いならないなりに出来るだけの人物でもある。


「結局のところ、私とミズキリの負債を押し付けていることに変わりはないので、何か手土産くらいはもっていかなければいけませんね。」

「書式にしても、既に部門ごとに分ける案を出されているようで。優秀なお知り合いが実に多いようですね。」

「皆が来れば、もっと楽になることもあったでしょうし、ミズキリが他に動かしていなければ、この町に集中も出来たのでしょうが。」


架橋というのは、何も片側からばかり進める物では無い。であるなら、反対側、魔国の方にも既にいるはずなのだ。そしてあまりに急に期限が短縮された仕事に奔走しているだろう。

今後、見知った顔を見るたびに色々と面倒がありそうだと、オユキとしては楽しみも大きいが煩わしさも感じてしまう。

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