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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
14章 穏やかな日々
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第479話 では、体調は

話を主体と勧めるのがオユキにならざるを得ない時間が続いた。

内向きの事はトモエが引き取ってはいるのだが、そもそも客人との席であり、どうした所でオユキがやらなければならない外向きの話が続くことになったというのもある。結果として一度開いた傷、治りつつあるはあるのだが、ひきつりを覚えるその傷の結果として、ひきつりを覚えて反射としての咳がでる回数が増える。


「このあたりの話題は、そこまでにしてくださいね。」


そして、暫くは見逃したカナリアから改めて制止が入る。


「オユキ様は他の二人に比べて、はっきりと重症です。今後の移動を踏まえると、あまり無理は。」

「先よりも、治るのは早いと、そう言った見立てだったかと。」

「治りが早い事と、今完治しているかは全く意味合いが違います。無理をすれば、当然治療に必要な期間も。」

「それは、申し訳ありません。私たちの為に、そのような状態で骨を折って頂いて。私に返せるものは歌だけだけれど。」

「お気持ちだけで十分ですとも。」


カナリアの視線が厳しくなり始めたため、オユキが言葉を返すことなく、トモエが代わりにヴィルヘルミナに応える。オユキの思惑としては、神々の思惑としてはヴィルヘルミナが歌を各地で歌う、それだけで十分な物がこの世界に得られるのだ。トモエとしても疑問に思い、所謂パイの取り合い、ゼロサムゲームが神々の間で起こるのではないかとオユキに尋ねてみればそれは無いという回答を得た。

前提として、人口の不足が存在しておりそうであったとしてとり合うべきものが順調に増えるのだ。物理的な側面としてはそちらに否定され、らしい理由としては、振る舞いでは無く思いが重要であるならそれは個人個人の上限があまりに不透明であり、複数に向けたところで問題が無いと。勿論、今後の祭りの場として分かりやすいものがあれば、そちらに目が向くこともあるだろうが、それに対する回答として神々が直接印を与えるダンジョンに関わる祭りという物があるのだと。

用は今回の予定の変更にしても、オユキに遠因があるとはっきりと分る流れとして、そう言った者があるのだと二人の時間で話したものだ。だからこそ、オユキは異邦からの新たな来客をもてなすと決め、トモエもそれを理解している。こちらの人々がいる時間では無かったが、今いる人員が殊更気を遣っている所を見れば、理由の詳細はともかく、こちらの人々にも重要な存在だという事は伝わっているらしい。それについては、各々の能力、これまでに身につけた物を披露すれば神々の手によると分かる奇跡が起こることもあるのだろうが。


「オユキさんの怪我は、それほどなのでしょうか。祭りの場、私も見学させて頂いていましたが。」

「前提として、トモエ様により、一度オユキ様は喉を刃で貫かれた上で、半ばから断たれています。その傷自体は神の奇跡、その場に居合わせた者達の祈祷により最低限は問題が無いとされていました。しかし、それはあくまで今後時間を要したうえで、それでしかありません。」


カナリアが、この場にいる者達。これまで話を直接聞ける者たち以外にも向けてだろう。席についている者達以外にも聞こえるようにと声を上げながら言い募る。


「移動の負荷もあります。御覧の通りといいますか、物質的には見た目通りの強度しかオユキ様は持ち合わせていません。加えてマナの扱いについては絶望的です。」


カナリアのあまりに忌憚のない意見が、オユキにも刺さるものだが、アルノーが既に1週間もないうちに結果を残していることを考えれば、そう言いたくなるのも分かる。喉に感じる違和を抑えるために、既に温度のさがったお茶をただ飲み下すだけ。アルノーからの指示だろう。喉のためにとヴィルヘルミナとオユキのカップには蜂蜜も加えられている。料理、特別な席の専門というのは気にしないのかとも思えば、アルノーはきっちりとその辺りも知識として修めているらしい。


「異邦での事も治療の中でお伺いしましたが、こちらでは回復、それに際してマナは必須です。それを前提とした治療法が多く、魔術にしろ奇跡にしろ、かけられる側にもそれを求めます。」


それについてはトモエとオユキは王都で聞くことになった。


「結果として、マナが枯渇しているオユキ様とトモエ様は治りが遅くなります。この町には、そう言った者に頼らぬ技を修めたマルコさんがおられますので、やはり常よりは早いですし、後遺症の心配もありませんが。」

「残るのですか、傷が。」

「はい。これについては奇跡を都合よく考えておられる方がも多いのですが、傷が塞がる前にそれが現在の形として世界に認識されてしまうと、手遅れになります。期間についてはそれこそ差が大きく、研究のためにそういった傷を負え等とは言えませんので幅のある目安しか分かってはいませんが。」


それを聞いて、顔色を変える物と頷くものと。その反応の差は分かりやすい。


「そして、オユキさんは今の所傷の回復に必要とされるマナと日々の回復量の釣り合いが辛うじて取れている状況です。日々を生きるための神々の加護に回す物も薄く。」

「そうなると、日々の滋養を得るための料理の方が必要になりますか。」

「それは氷菓と、お休みなさるときに氷柱を用意することで。季節も夏を過ぎましたから、回復も早くなっているのですが、それ以上に重傷でしたから。」

「表面上、傷はふさがっていますが。」


そこについてはトモエとしても疑問がある。オユキにしても判然としない事でもあるのだが。


「人族の方では実感が薄いと思いますが、存在の核というのが私たちは別の領域に存在しています。物質はあくまで側面の一つでしかありません。核についた傷というのが世界に保存されていまして、そちらからマナの不足があれば容赦なく引き出されます。」


そして、そこから暫くカナリアの話が続く。


「そもそもの視界、見える物が違うので比べてどうこうという物もないのですが。私たち、翼人種ですね、アイリスさんは匂いとして感じるのでしょうが、風に流れる血というのがやはり無視できるものではありません。

 オユキさんは未だに傷口から血を流していますし、トモエさんにしても折れた構造が表面を傷め血を流しています。そう言った面も含めれば、物質界の見た目としてアイリスさんよりもお二方の方が余ほど重傷です。

 マルコさんは眼に奇跡を授かっていますので、その辺りも見えていますし、処方される薬にしてもそちらに緩くはありますが作用のある物です。そういった事も鑑みた上で完治までの期間をお話しさせて頂いているのですが。」


先に要点を述べた上で、カナリアはさらにこちらの生き物、その怪我に対して彼女の知見を語る。

曰く、どれだけ見た目、人族の視界に映る部分というのが限定されていようとも、存在としての負傷は存在していてどちらの領域が早く回復するのかも個体差があるのだと。


「つまり、絶対安静、それに違いは無いという事です。」


どうやら、これまでのように一区切りとして呼び立てられない、何かが起きる事も無いというのはそう言う理屈の下に判断されているらしい。


「物理、いえ、現実のこの剣の一振りが、目に見えぬものも斬り付けるのですか。」

「勿論できない方もいますが、トモエさんは行っていますね。オユキさんの傷を見る限り。」


トモエの太刀、そこに込められた意思というのは何処までも明確だ。必殺を期して、相手を斬る。それがこちらの世界では視認できない存在の核とやらがあろうとも、そちらまでを含めて問答無用。

相対した存在を己の太刀で、技で叩き斬る。その何処までも明確な意思が存在している。勿論それを向ける相手というのは限られるのだが、己の行う結果、どんな相手に対しても己が行えば、得られるものはどうであるか。それが何処までも明確に存在するのだから。


「しかし、そこまでの事となれば武技とその枠組みになりそうなものですが。」


オユキはそう疑問を覚える。トモエがオユキに対して行ったのは、そう言った一切の奇跡を排した場での事だ。


「私は実際にその場を見たわけではありませんが、神々のご用意くださった場です。何もないと、そう考えるのが理解できません。」

「確かに、加護を抑える、そう伺っている指輪にしても日常の物は働いていますが。」

「神々は言葉を違えません。しかし、私たちの自由を保障するために省略されます。加護が無い、その言葉の主たる部分が何処にかかっているのか。」


つまり、カナリアの言う事は指輪と同じような理屈が存在していたのではないかという事だ。

それに対してはトモエから。


「相応に覚悟をもって、そう言った方も居られましたが。」


ならば、あの場で、それこそ王太子妃の信任を得ようとアイリスに覚悟をもって挑んだ相手が特別とならなかったことが理解できない。トモエとオユキ、この二人だけを特別とするようなそんな甘さを持った存在ではない。如何に予定という物があったとしても。それに届かぬ人々であるならば、前倒しにしない、それだけで片が付くのだ。


「繰り返しになりますが、居合わせたわけではありません。仮にそうであったとしても神々の奇跡の全てを紐解けるわけでもありません。ただ、今この場にある事実としてオユキさんもトモエさんも、核に傷を負われている、それだけです。」


仮にその理屈を飲み込んだとして、オユキはトモエによるものだが、トモエに至っては自傷だ。


「そうであれば、トモエさんにも不足があり、それに対してという事ですか。」


ただ、その理屈に関してはオユキは納得できるものもある。

トモエにしても、以前ほどの技の冴えは当然ない。その中で無理に皆伝としての振る舞いを取った、それを叶える研鑽、己の制御、それらをすべて置いて結果だけを求めた。その負荷が。過去の記憶、その通りに動けと無理を重ねた結果として、それが保存されている核とやらに傷を。納得のいく理屈ではあるが、不足だと、そう感じられるものでもある。マナの不足、それを物理的な減少として支払わされたアイリスがいる。余剰だったはずの功績があてられたこともある。ただ、トモエが首から下げているそれに変化はオユキの記憶には無かった。奇跡を願ったのであれば、まずはそちらから支払わされるのが妥当なはずだ。だというのに、それを飛ばしてというのはやはり納得のいく理屈ではない。支払い、勝った、その結果として功績といった面で補填がされたのだとしても、そこまでオユキはこちらの神々を都合のいい存在とは考えていない。


「とにかく、そう言う事ですから。お二人ともちゃんと安静にしていてくださいね。」


カナリアの言葉に頷くのは、子以降で遊ぶオユキでも、今一つ腑に落ちないといった様子のトモエでもなく近衛になるのだが。

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