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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
13章 千早振る神に臨むと謳いあげ
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第472話 枝の絡まる

「いいですか。とにもかくにも絶対安静ですからね。」


オユキの状態説明、それが4週ほどした後にカナリアの長い話がそう締め括られる。怒られるのはオユキだけかと思えば、トモエもしっかりとやり過ぎていたらしい。体の鈍さは感じていたが、その原因はトモエもしっかりとマナが枯渇しているためであると。


「マルコさんも、お手数を掛けました。」


そして、マナが不足することなどわかり切っている。それ以外の治療手段を持つマルコ、咥えて診察という意味では奇跡の担い手でもあり、より確かな相手もこの場に連れてこられている。これまでは、忙しさが分かり切っていたため、遠慮していたのだが。


「いえ、私たちの為、そう言った物でもあるのですから。奇跡を享受する身として、協力は当然ですから。それと私からも改めてになりますが、どう言葉を取り繕っても重症です。くれぐれも。」


そして、患者三人があまり聞く気が無いと悟ったのか、保護者にマルコは視線を移す。


「畏まりました。医師の判断が許すまで。」

「カナリアさんが無理に奇跡を行使したため、オユキさんも今は傷口は外側だけです。食事などの不都合は無いでしょう。失った血と体力の回復には必須ですから、そちらも良くお願いします。」


勿論、過剰に動けば、傷口はしっかりと開く。奇跡を得るのにも、乱入するのにも。どちらもしっかりと喉に血が流れる様な事は起きていたのだから。肺に流れ込まなかったのは、それこそ運が良かったという物だ。


「ありがとうございます。流石に長くしゃべると痛みますので。」

「医師が患者に患部の悪化をさせる様な事はしませんとも。さて、それでは、私は戻りましょうか。それとどなたか明日にでも薬を取りに来ていただけると。」


マルコにしても、新人が増えているのだ。薬の需要はこの町でも当然増えている。


「本日は、ありがとうございました。改めて主に代わりお礼を。」

「では、どうか患者の安静を。」


よくあるご自愛、自分でなどと言わずにマルコがシェリアに言付けた上で教会の一室から出ていく。心配げな少女達も暫くは残っていたが、今は祭りの主役が移ったこともあり手伝いがある。この場にいるのは、それ以外の者達だ。


「この後は、戻ってもいいのだったかしら。」


アイリスの方も、すっかりと疲労が隠せず、短い時間でしかなかったというのに随分と毛並みが荒れている。


「挨拶などという話もあったかと。オユキ様の分まで、アイリス様にとも思いますが。」


オユキは衆目の前で大声を出せるような状況ではない。アイリスにしても、人前に出るには、少々どころでは無い手入がいるだろう。トモエは無理がたたってしっかりと足首に罅程度の骨折。アイリスにしても切り傷こそないが、筋断裂に手首の骨折をしっかりと言い渡されている。要は、誰も彼も傍目にわかりやすい治療の跡をしっかりと持っている。


「頼まれればやるけれど、そもそも私は自分の物だけの予定だったから習ってないわよ。」


さて、困ったものだと揃って頭を抱えている所にアドリアーナが顔を出す。


「あ、皆さんもう大丈夫ですか。」

「はい。治療はひとまず。大丈夫と言えるのは、それぞれまだ先になりますけど。」


アドリアーナの言葉には、誰よりも先にカナリアが応える。


「えっと、そうなんですね。その、私たちの為にそこまでしてもらって。」

「良いわよ。こっちの都合もあるもの。」

「それよりも、何か用事があったのでは。表はまだ忙しいでしょう。」

「あ、そうでした。司教様がもうみんな騒いで収拾がつかないから、日を改めてお祈りしますって。」


色々と立て続けにあったこともあり、表の騒ぎはもはやどうにもならない事になっているらしい。


「その割に、ここは静かですが。」

「教会の中は、いつも静かですよ。中で騒ぐと聞こえるんですけど。表は門を閉める訳には行きませんけど、騎士様がすごい形相で守っていますし。」

「それはまた。」

「でも、仕方ないかなって。お礼を言いたい人はたくさんいるみたいだし。」


どうやら、アベルとイマノルが簡単な治療を受けて直ぐに移動したのはそういった理由があるらしい。教会に対して無体はしない市民たちと、それでも中に入って今回の奇跡の立役者を近くで見たいものたちとの間で緊張状態が続いているらしい。


「そうですか。なら、休みたいとも思いますが。」

「えっと、今出るのは。教会で休んでもいいって、司教様は。」

「流石に私たちも落ち着きませんし、祭りはまだ続くわけですから、どうにかしなければそれこそ長居をすることになりますからね。」

「ええ、私も休んでもいいなら食事をとって、寝てしまいたいわ。」

「じゃあ、私から司教様と騎士様に希望を伝えてきますね。」


そうして頭を下げてアドリアーナが部屋から去っていくのを揃って見送り、ため息をつく。


「こうなると、護衛の騎士の方、今後の移動も含めてですが先に来ていただけたのは幸運であったと言えますね。」

「流石に、祭りの勢いもあるし、まぁ、面倒よね。休みたいところに側で騒がれてしまえば。」

「屋敷の周りも、暫くは囲まれそうですね。良からぬ輩がいるとは思いませんが。」


領都では僅かな物であったが、王都で散々こういった事に纏わる厄介というのは身に染みている。トモエが、近衛二人に視線を向ければ、こちらも難しい顔だ。今後の警備体制、特に主たちがしっかりと時間のかかる負傷を抱えているのだ、色々と考えなければならないのだろう。ならば、今この場は他の物たちに任せてトモエはオユキとの時間を取る。揃ってこの場に駆け込んでから既に二時間ほどは立っているだろう。そのうちの半分は、オユキは意識を失っていたのだから。今にしてもやはり動きもぎこちない。身体を起こそうと、そうしては頭が揺れたと思えばそのまま長椅子に横になっている。


「オユキさんは、大丈夫ですか。」

「はい。これでしばらくは、特別な事も無いでしょうし。」

「無理に喋らなくとも大丈夫ですよ。では、私も流石に休みたいですから、暫くゆっくりと過ごしましょうか。」


そうトモエが話せばオユキもそれには賛成であるらしい。嬉しそうに頷く。

庭、今は鍛錬の場にすっかりとなっているが、四阿を用意して屋外でのお茶を楽しむ空間が欲しいと、そう言った話もあるのだから。


「新年祭は王都と聞いていますが、移動の時間を考えても一月と少しは余裕もありますからね。」

「その、領都が。」

「ああ。それでも数日でよいのでは。戻る時もそうでしたし、公爵様も目的地は同じでしょうから。」


オユキの言葉に、トモエがそう応える。

オユキとしては、政治的な面も考えて領都でそれなりの時間をとも考えていたのだが、言われてみれば確かにという物でもある。どのみち、色々とあったのだ。新年祭、その場かその後にでも。なにか役職を改めて任じられるのも、公爵の下でとなる。そこに本人がいないというのは、問題もある。


「恐らく、今回の報告がなされれば、オユキ様とアイリス様の先導の為に、公爵様がこちらに来られるかと。」

「そう言えば、リース伯爵はまだ代官ですか。ならば、そう言うこともありますか。」


ラズリアの言葉にトモエが納得のいく理屈だとオユキを見れば、オユキも少し考えた上で頷く。

オユキとしては、そうなる流れも納得は行くがそれこそ公爵とやり取りを行ってから決める事になる。状況によっては、それこそ公爵の方でも領都を空ける為に人材が足りなければ、こちらに来るのはリース伯爵になるだろう。最も領都にいる貴族の全てを知っているわけでもないため、そちらに預ける可能性もあるが。

少なくとも、ファルコは必ず。リヒャルトはこの町の手伝いとして残す。慎重に、確実に運ばなければならない荷物もあるため、道行は街と町の間はともかく、なるべく多くの拠点を巡りながら、今後の布告というのをそれぞれに行わなければならない。トモエの口にしたものからはそれが抜けているし、王家を優先する者達の頭には、当然それは公爵が別にやればよいとそういった考えもある。

そう言ったところを口にせず、当たり前に頷くあたり相も変わらず近衛の忠誠の先がはっきりとし過ぎている。

オユキにしても便利に使っている部分は勿論ある、個人にしてもそうだが王家に対してもこう、何かしらを返さねばならない。それこそそういった要因もあって今回無理だと分かっていることをやり遂げてもいるのだ。


「何はともあれ、休みましょうか。」


ただ、色々と考えてみる物の、オユキの口から出る言葉はそれだ。

若くないと言いながらも散々動き回り、こうして大けがだ。次を考えようとはしているものの、どうにもオユキも頭が回らない。司教から渡すと言われている手紙、そちらが思考の大部分を支配していることもある。

怪我をした、重症で、何かしようにも医者の許可はおりそうにない。こうして、オユキが喋るたびに視線が険しくもなっている。


「結局、ずっと忙しかったものね。」

「ええ。」


そう、とにもかくにも、王都に言って以来忙しない日々が続いていた。基本は会議。話し合いに手紙を読んでは返事を書く、その繰り返しではあったが。それで日々の時間が失せていくことには変わりない。

そうした日々の中でも料理人が来てくれたのは、非常に嬉しい事ではあったが。


「またアルノーに、大量に肉を焼いてもらおうかしら。」

「私は体調も悪いので、遠慮したいですね。」

「トモエも、嬉しいでしょうに。」

「そうですね。散々動いたので一度しっかりと食べたいですね。」


トモエが賛同したため、オユキはシェリアに視線を向ける。数少ない理解者は彼女だけだ。カナリアも肉はよく食べる。タルヤにしても。ラズリアはこちらの人の平均、用はトモエに少し劣る程度には食べる。残った人員は、体を動かすことが仕事の騎士達と使用人がほとんど。勿論よく食べるのだ。


「オユキさんは、少し顔を出したらさがって頂いてサラダを用意しましょうか。」

「はい。」

「えっと、少しは無理してでも食べてくださいね。」


カナリアがオユキにそう言うからには、何か理由があるのだろうかと思えば、こちらにも栄養学というのはあるらしい。前置きは存在するが。


「人族の方は、血を作るのに肉類に含まれるものが必要になりますし、外傷を直すのにも必要ですからね。」

「こちらにもそういった概念はあるんですね。その辺りは、アルノーさんと少し私の方でも相談しましょうか。

 オユキさんは、嚥下に不都合は。」


トモエからの質問に頷いてオユキは返す。喋るだけでもひきつるような痛みがある。相応の塊を飲み込むとなれば、程々の痛みは否応なく有るだろう。

そうして話している間に、北区の準備が整ったらしい。ローレンツが代表してオユキ達を迎えに来る。

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