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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
13章 千早振る神に臨むと謳いあげ
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第465話 秋告げる

降臨祭。大きな不安を抱えたその本祭が前日に迫る夜。

王都から戻る手前で話していたことが、ゆっくりしようと言っていたのは何だったのかと、そのような事も話しながら早々にトモエとオユキは枕を並べる。


「ようやくではありましたが、牧場の見学などもさせて頂けましたし。」

「少々どころでなく、仰々しいものとなりましたが。」


書類仕事の合間に、見に行きたいとそういった話をすれば続々と届いていた後続の人員を引き連れてと、そうならざるを得なかった。ダンジョン用の駐屯地、資材置き場といった場所も、王都からの先遣隊が今ではすっかりと駐屯地としている。こちらで利用していた宿、そこのフラウにしても荷台に大量の料理を積んで運んでいたりとそういった話も聞くことになった。


「意外と、いえ、広さは知っていましたが。」

「そうですね、この町にも本当に色々とある物でした。」


そうして、勿論街歩きも。これまではそれこそ大通りしか見てこなかったが、ウーヴェが与えられた工房がある職人の集まる区画。魔術師ギルドの裏手に続く形で伸びる、魔術師たちが集まる区画。そしてそういった場に住む者達を支えるための日用品や、雑貨などを売る店舗など。実にその場で生きる人々を感じさせる町並みが広がっていた。

そこかしこでトモエが小物を買ったり、オユキもいくらか書物を購入してみたりとそのたびに平伏され、献上といった話が出たりとなかなか大変な買い物ではあったが。


「今後も、休日はこういった形になりそうですね。」

「私の方でも、未だにトロフィーが得られますし、狩猟は仕事として継続しなければなりませんからね。」

「技をお認め頂くにしても、繰り返し同じものというのは理屈に合わないようにも思うのですが。」


その辺りは、オユキとしてはやはり疑問が多い。

ベッドの脇、寝室の中央、オユキからはトモエの影となって見えはしないが、大量に得た丸兎の毛皮を纏めて実に白々とした毛足の長い敷物が用意されている。


「あの子たちにしても、やはり頻度は落ちていますが。」


そして、そこにただただ差が存在する。トモエが教えた物と、そうでない者達との差が。


「公爵様から頼まれている方々にしても、何やら得られるものがあるようですし。」

「そうですね。やはり短い期間ですし、簡単な物だけでしたがそれだというのに。」


そして、そういった事もあって、トモエはファルコとリヒャルトに連れられて狩猟者ギルドや騎士達と動き回らなければならなかった。


「伝道者、ですか。」

「恐らく、その辺りなのでしょうね。もしくは大会の。」


戦と武技、その名の下でトモエが持つ明確な物は二つ。恐らくは相互作用だが。


「また、皆さん頭を抱えそうですね。」

「年に一回の予定を変えればとも思いますが。」


大会の勝者、その功績があるのだとすれば、トモエがそこでわざと負ける選択肢などない。そしてそれをしたところで神の公正さに任せたさばきがある事などわかり切っている。


「それはそれで、王妃様の溜息が増えそうですね。」

「機会が増えれば落ち着くと、そう信じましょう。」


それこそ、敵うはずもない願望だが。そうして、これまでの楽しい時間、それについて話せば話題は自然に変わる。


「明日、恐らく私は参加できそうにありません。」


どうにかと、それを求めて過ごしてきたのだが叶わない。それこそ以前からそのような事はいくらでもあったが、そこで生まれる落胆、悲しみ、それが無くなるはずもない。

オユキの快復は間に合った。

思いつくものはとばかりに行ったそれが功を奏したこともあり、カナリアの見立てよりも早く。ただ、それにしても根本的にマナの保有量が少なすぎる。瞑想、マナを扱うための初歩の訓練、それをカナリアの監督下でいくらか行ったところで焼け石に水だ。アイリスとは比べるのがおかしい、同じ種族のシェリアと比べても半分にも届かない。その程度の量だ。そして、今回の負担の多くはオユキに向く。アイリスは神の試しがあるため。


「ええ。では、オユキさんの分も、確かに我らの技を知らしめましょう。」

「頼もしいお言葉です。」


そうして、オユキもどうにか笑って返す。


「オユキさんは。」

「カナリアさんにしても、一つ目の物の変化、それは一緒に行動していたため、漠然と想像がつくと仰っていました。それにしても注意していたわけでは無いので、判断が難しいとも言われていますが。」


そう、河沿いの町から戻る道は、カナリアも同行していた。ただ、医師として注意をしていたわけでは無く、普段の事としてあったときに見えていたものと比べて、そう言った判断だ。


「それによれば、二つはギリギリだろうと。意識を失うとまでは行かずとも。」

「前回は、余剰の功績もありましたからね。」


そして、今回はそれもほとんどない。狩りに出る日も少ないがあった。それこそ庭先では頻繁に体を動かしもした。ただ、それこそこちらに来て、あれこれと頼まれごとを片付けた結果と比べてしまえばという物だ。


「万が一。」

「それは無いでしょう。」


そこについては、オユキにも確信がある。


「そもそも前に倒した計画です。不足があれば元に戻せばいいだけです。」


出来るかもしれない、だからそれを示唆されているだけであり、不足があれば当然計画の延期が行われるだけだ。


「それこそ、事が起こった時に倒れて打ちどころが悪い、そのような事でも無ければ。」


そして、それについては持祭の少女たちに託されている。少々どころでは無い圧がかけられたため、オユキとアイリスが揃ってとりなすことになった。近衛だけでなく、助祭や修道の位を持つ者たちまで釘をさすのだから少女たちにしてみればという物だろう。この町の元々の巫女。老齢の女性は実に楽し気にその様子を見ていたが。


「こちらの巫女様が、離れた町でその理由も分かりましたね。」

「ええ、生まれたところで、という事でしょう。後継、その存在にも気が付いておられているようでしたから。」


そして、その老齢の巫女がアナに殊更言葉をかけていた。それこそ助祭の職務であろうに、祭りの場を整える、その作業にもアナを連れ回し、どういった意味がありどのようにせねばならないのか、それを逐一説明していた。当然オユキとアイリスもその場にいたが、アイリスはその後の部族の物の準備があり、オユキはオユキで祭祀の振る舞いを習っているため一緒に来歴を聞いてという訳にもいかずただ粛々と教えを請うたものだ。


「私の方でもカリンさんが残念がっていましたよ。」

「流石に、日が足りないでしょうから。」


残りの異邦人3人、そちらについても各々に過ごしている。アルノーは降臨祭に供えるためにと、異邦で手に馴染んだ食事の際現に忙しく。カリンはトモエや他の者達と一緒に訓練に狩りにと忙しない。唯一ゆとりをもって生活をしているのはヴィルヘルミナくらいではあるが、彼女にしても方々に足を運んではそこで思いつくままに新しく歌をという事であるらしい。過去にそうであったようにと、食事処の一角で歌を披露しては多くの人を虜にしてもいる。

オユキが頼み、こちらに来た時に世話になっていた宿、そこで雑多な賑わいに混ざって欲しいと頼めば実に快くそれを引き受けてくれ、トモエとオユキに向かう糾弾を減らす一助にもなった。


「それにしても、まさかトラノスケさんが熱心なファンだったとは。」


そして、その機会に少々どころでは無く落ち込んでいたトラノスケをどうにか、そうも考えていたが、その役は彼の憧れの歌姫、その存在だけで実に簡単に片が付いた。詳細を知る物は少ないが、知っている者達はそれがどうにもならない類の物だと分かっているようで、彼を責める者もいない。現在は定期的に教会に行きつつ、監視が付いた状態で、それで後は問題なしとそういった処置がとられている。


「お三方は、どうされるかも聞かなければいけませんね。」

「王都は、望まれると思いますが。」


そこから先については、出発の前に聞かなければならない物だろう。どのみちこの屋敷の維持がある。人は残す為、そのまま客人扱いで残ってもらったところで困るような物でもない。領都、王都のどちらにしても遇するのがオユキから公爵に変わる程度だ。そして、3人とも実に喜ばれるだろう。

ただ、王都ですらも遠いが、魔国迄はさらに片道に3ヶ月。道中は相応に急ぎはするのだが、それでも道すがらやらねばならぬこともあり、それ以上の短縮は見込めそうにないとそのような計画になっている。その期間、馬車の積み荷になっても良いと、選択肢があって頷くものはそれこそ実に少ないだろう。

現段階で選択肢が存在しないのは、今はゲラルドについている執事見習いのカレン、新たに得た空間の魔術の現在唯一の行使者カナリアくらいのものだ。後はいつもの顔ぶれ、アベルとアイリスは当然選択などできるはずもない。


「あの子たちは、王都で一先ずとなりますか。」

「はい。晴眼は十分です。あまりに期間を空ければ当然また直さねばならないでしょうが、それこそ当たり前でもありますし。ウーヴェさんも忙しい中無理を聞いてくださっていますから。」


後送の荷物、そこには王都で散々手に入れたトロフィーも含まれている。溢れの物と比べてしまえば、やはりと言った物でしかないとは言われているが、それでも初心者に持たせるには過分だと、そう言われる程度のものは仕上がる。作り、拵え。それについてもトモエがあれこれと注文を付け、オユキからも実用とは少し離れた部分に頼みごとをした結果、なかなか手のかかる品となったことについては申し訳なく思うが。


「後は公爵様に確認いただいて、ですね。」

「それは流石に外せませんか。」

「いえ、習得の度合いでは無く。」


公爵麾下、それが教えを授けた相手とわかる、そう言った品だ。


「オユキさんの方で、勲章といった話もありましたが。」

「そちらは、お話を聞く限り、こちらでは目録くらいでないと釣り合いそうにありませんでしたから。」


こう、オユキとしては私的な物としての考えもあったのだが、勲章である限り国に登録がいるものだとのことであった。各領で、伯爵以上であれば新規に申請もできる物であり、公爵も乗り気ではあるがそこまでの物であるなら難しいと用意だけはしておこうとそうなっている。


「騎士になる、最低でもそこであるようですから。」

「ああ、そうであるなら、流石にようやく初心の方には渡せませんね。」


そうして話していれば、いい加減に眠気もやってくる。それこそ今日は一日確認すべき事態が詰まっていたのだから。


「では、そろそろ本格的に休みましょうか。」

「そうですね。明日は色々と大変でしょうから。」

「ええ、オユキさんはそうでしょうとも。」


最期はそうして簡単に明日に向けての言葉を残して、眠りにつく。

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