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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
13章 千早振る神に臨むと謳いあげ
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第461話 足を止め

庭先、外からの目を遮る形に、中庭として作られているそこでトモエとカリンが向き合っている。

これが王都で借りていた場であれば、席についてといった用意もあったのだが、以前の茶会の為に急ごしらえした席はすでに片付けられているため立ち見となる。少年たちを誘えば、良い気分転換になるだろうと少女達も解放されて実に嬉しそうについてきた。そう言った相手を立たせておくというのも、招いた側として気分のいい物では無いのだが。


「新しい家だし、仕方ないんじゃない。」

「それは、そうですが。」

「いわれりゃ俺らも、というか教会で手伝うぞ。簡単なのだったら、それこそ皆やったことあるしな。」


丁稚として、ただ人出が重要、そう言った場面では教会の子供たちというのにも声がかかる物らしい。


「その辺りは、まだトモエさんと相談中でして。」


人の出入りがあることを考えれば、芝を敷いて四阿を。そんな事をオユキとしても考えるし、侍女としてもその意見は肯定されたのだが。トモエ、今後も指導するのであれば足の動き、その跡がはっきりと残るため自覚しやすいからと砂地を残したいトモエとの間で未だに話し合いが行われている。


「ウーヴェのおっさん所でも、確認にいいって言ってたよな、そういや。」

「はい。それは私としても勿論理解できるのですが。」

「訓練だけに使う訳じゃないもんね。こう、分けたりは。」

「そうすると手入れの手間が。」

「いや、それこそ教会のガキどものいい小遣いになるし。」

「ああ。」


管理の労働力、それを考えて庭師もいないからとそう言う話になっているが、はっきりと線を引き、そこを超えた草をという事なら何も専門家に頼む必要もない。

そして、この世界における労働単価などもはや考慮の必要がないほどの収入はあるのだ。巫女、神々の声を届け折に触れて祭りを行う、その人物に対する年給だけでも何ら痛痒を感じる物では無いだろう。勿論、そこから今後抱え込む相手に支払いを行っていくのだが、現時点ではオユキが直接雇用している相手など存在しないのだ。

メイに、代官に納める税にしても巫女としての物はそもそも王家から支給されているし、直接巫女として経済活動を行うほどの日程的なゆとりはまだない。


「そうですね。手を貸して頂けるのであれば、正直ありがたいことが多いですね。」

「屋敷広いけど、人が少ないもんな。」

「そうなんですよね。」


下級の使用人はやはり手配が間に合っていない。雑役を任せられる相手がいるのであれば、それこそいま既に働いてくれている者達も大いに喜ぶという物だろう。


「馬車は、まぁ、余っていますし通いでも。」

「えっと、歩かせますよ。そんなに離れていないですし。」

「うん、馬車迄はちょっと。甘やかしすぎっていうよりも、あの子たちも困ると思うよ。」

「それもそうですね、さて、始まりますよ。」


トモエは流石にある程度の慣れがあるのだが、相手はそうでは無い。牙は隠してとなっているだろうが準備運動が終われば、緊張も高まりオユキもそれに気が付く。

この立ち合いを見たいと、ギリギリまで抵抗したアイリスはアベルによって拉致され、手続きの残りを片付けるために傭兵ギルドへと。こちらで、所属が残っているギルドでしかできない残務があるようで、体調不良もあって未だに終わっていないという事らしい。その後にしてもトモエとオユキは少年たちに放り投げた狩猟者ギルドへの報告、それがアイリスはきっちりと残ってもいるらしい。

一緒に頼んだかと思えば、未だに仮登録状態であり、身分を示す物が不足している、少年達だけの保証では不十分とそう言う事であるらしい。


「えっと、あの人はオユキちゃんと似た動き何だっけ。」

「そうですね、一部は参考にさせて頂いています。大枠として流派あるのですが、カリン様もあれこれ取り入れておられるようで、もはや独自の物と、そう呼んでもいいとは思いますが。」

「懐かしいですね。私も何度となく見て、話しをねだり歌を得た物ですわ。」


そして、オユキの感想としては意外と、そういう物になるのだが歌姫もしっかりと観戦に来ている。


「歌を得た、ですか。」

「ええ。そよぐ風邪、流れる水。色々な人々が私に話してくれた彼らの物語。夏の日に足を降ろした水の冷たさ、本当に多くの事が此処で。そしてそのどれもがかけがえのない旋律に。訪れる事が出来なくなり、新しい歌が歌えない、そうなる程に本当に多くの。」


詩的な言い回しだと、そう感じる物だが言われた子供たちはやはりどこかぼんやりとそれを聞いている。それこそ彼女がそれを示すならわかりやすい方法もあるのだが、今はそれをせずただまっすぐにこれから起こることを見ている。


「では、そうですね。最初は門徒の不始末、本来のそれを。」

「こうして向き合えば御身の修めた武の確かさが嫌というほど分かりますね。生憎、武侠に身を置かず根を張らぬ草でしかない卑小の身ではありますが、どうぞお付き合い下されば。」

「では、二手目は感覚を掴む為、そうしましょうか。」


そうして言葉を交わせば、間にある緊張感は簡単に決壊寸前まで。


「老師と呼ぶにふさわしい御身からすれば、取るに足らぬ小人ではありますが。幻想世界にて道を見出し駆け抜けた華扇双剣舞、開祖、カリン。」

「己で理合いを組み立て、一つの道と出来るならば小人などととても呼べはしませんよ。改派陰流、皆伝、今はトモエ。」


そして、まずはやはりカリンから。

そもそもが足を止める類の物でもないし、虚の多い動きなのだ。待って動けば織り交ぜられる虚としての動きには制限がかかる。だからこそ先に動き、誘う。踊るように軽やかな足さばきと、緩やかと、そう感じるが向き合ってみれば意の外から襲い掛かるため突然現れた急をもって走る刃にトモエがただ軽く太刀を合わせる。

以前、オユキが目指して叶わなかった理合いとして。


「まさか。」

「二刀、どちらも。それを待っても良かったのですが先に示すのが礼でしょう。」


そして、軽やかに動き回るはずの相手、その動きが完全に止まる。合わせた太刀を軽くひねった上で、手首を固定し。そこから体軸に向けて力をかける。それだけで腕の動きが固まり、それから逃れようと分かりやすい足運びにはさらにそこからの支配を強める。

結果として、動き回らなければいけないというのに、その場、鍔是りを解消しなければ次がない、そうして完全に体が固まる。


「これがかつて。」

「できなかった以上、私としてはオユキさんを咎めなければならないのですが。」

「師弟関係は、任せるわ。まだ、お付き合いをお願いさせて頂いてもいいのかしら。どうあがいても勝てそうにないけれど。」

「ええ。私もこちらに来る前に、軽く動く時間は必要でしたからお気持ちは分かります。」


そうして、相手をその場に押しとどめていた制御を手放し、太刀を滑らせ相手の剣を逸らしながら後ろに体を流してトモエが間合いを空ける。


「では、ここからはなるべく受けに回りましょう。あまりにもと、そう思えば指摘の意味合いも込めますが。」

「先人の指導はいつでも喜んで。では拙い技ですが。」

「存分に、どうぞ。」


そして、オユキの理合いよりもアナに近い動きが始まる。

直線よりも曲線を。相手を惑わす為、それに意識を割くよりも分かり易かろうとも踊りとして。だからこそ、常に両手の剣が舞台の上を踊りまわる。

トモエが以前子供たちに語った言葉でもある。当たれば、触れれば切れるのだ。ならば空間を、その場を埋め尽くすと言わんばかりに荒れ狂う刃というのは確かに一つの極致ではある。ただ、その中でも常に存在する安全地帯、それに相手が望む様にトモエは体を動かし続ける。その中で舞の終わり、そうなるはずの場所だけは己の太刀で、己の場を作りながら。どうした所で不慣れが目立ち、動きたいそれについてこない、そう言ったもどかしさは見て取れる。拙さ、それを感じる動きではあるが、やはりカリンも楽しんでいる。この場を。

違和感を感じるほどに離れた時間があったという事だ。オユキと同じように。歌姫の語る言葉も耳にしていた限り、この世界がかつて手元から失われ、残りの時間を過ごしてこちらに来た、そう言った相手達だ。だからこそ、積み重ねた時間、確かな研鑽それは感じるのだが、それ故の問題が横たわり、それをどう埋めるかといった模索が存在する。


「私もそうですが、カリンさんは動きの性質上根深そうですね。」

「どうなのかしら。元々年を重ねるうちにそれを合わせた経験もある物。」

「毎日の事だったのでしょう。今はそうですね。」


動き続けているうちに庇うためにと省略している、簡単な物としている部分も目立ち、覚えられるという物だ。


「続けるうちに悪い癖となりそうなものは、矯正しておきましょうか。」


本来であれば流れの中で作っていただろうためが、明らかに元としたのだと分かる型、それすらも余りに半端にする形で行われている。


「剣を回す、足を回す。円の動きが雑ですよ。」


足さばきにしても、地面をする音が誘い以上に響き、滑らかさもあまりない。振った剣を腕を降ろしながら回して、躱したはずの位置からもう一度、そう言った動きにしても地面を擦ったりと。

そういった箇所にトモエが容赦なく足蹴り峰打ちを合わせていく。

それでも、一応全体の流れとしてらしさを失わないようにと、演舞の内に治まるようにとトモエの方でも注意をしながら。体の動き、その制御。それを学ぶのに型通りに動くという物は実に都合がいい。トモエにしても己でまだまだとそう思う分野なのだ。

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