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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
13章 千早振る神に臨むと謳いあげ
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第452話 木々の青

「皆さん、武器から手を離しましょうか。」


色々と片を付けた後に町に戻るかと、そう動き出そうとしたところでトモエが少年たちに声をかける。

視線の先には、馬車とそれを取り巻く一団。あからさまに周囲に対して警戒を向けているその有り様に対して、敵対したところでどうなるという物では無い練度があるとしても、武器を手に持っている状態ではという物だ。


「なんか、急いでんな。」

「ええ。紋章はリース伯の物ですから、後からの一部でしょうが。」


壁からは確かに離れているが、これまでのこの町に対する通行を考えれば、何とも過剰な勢いを持ったまま接近してきている。遠くに見えていた点のようなそれが、瞬きの間にも大きくなるほどに。

車よりも速い、そのような話だったが、実際に目の当たりにすればそれ以上と実にわかりやすいものだ。


「王都騎士団の方もおられますね。」


そして、随分と見慣れてしまった鎧を身にまとい、遠目にも巨大とわかる馬を駆る護衛の姿もある。先行で追加をとそんな話は確かに聞いていたものだが、連絡が入ってからと考えればそれこそ冗談じみた速度だ。遠征に特化した舞台というのが実によくわかるという物だ。

それ以上に、何某かの手はそれぞれが打っての事だと分かっていたとしても。


「少々気が立っているようですし。」


近寄ってくる相手は疲労もあるのだろう。それを感じてトモエは武器を自分から少し離れた場所に投げる。


「あんちゃんがそうすんのは珍しいな。」

「こちらを認識していますし、警戒はある程度解いてもらわなければ、意味の無い事も増えますから。」


そもそも戦闘になってしまえば適う物では無い。そして慣れとして、うっかりと抵抗などしてしまえば、より一層面倒になるとういう物だ。


「今は頂き物の服を着ていませんし。」

「あー、そっか。そう言った分かりやすさもあんのか。」


そして、他の物たちもトモエに習って武器を少し離れた場所に投げる頃には、護衛から離れ下ばえを蹴散らし泥を巻き上げる勢い其のままに重装の騎士が4人程間近にまでくるという物だ。


「気を遣わせたようだな。私は王都第二騎士団所属、ローレンス。この町の狩猟者の一党とお見受けする。日々の務めを邪魔したことは心苦しく思うのだが、王命故我らも急いでいる。」


馬上から、急な減速に前肢を持ち上げた馬を抑えた騎士に声をかけられる。そうするといよいよトモエであっても簡単に踏みつぶせる、そうおもう程の圧力がある。少年たちが手に持つ馬上槍の輝きに歓声を上げない程度の圧力もあるため、警戒されるのは分かっていても首元に手を回して、鎖の先に有る物を取りだしてからトモエが声を上げる。

トモエにしても変わらない。相手の手、武器を持つそれ、公気に使うそれが視界から外れて警戒するななどと言っても意味の無い事はわかるのだから。


「卑小の身にはもったいないお言葉です。職務の最中、急ぎの道行き、その理解はありますが僅かばかりのお時間を頂いても。」

「構わぬ。それも職務の内である。どうか名乗られよ。」


さて、鎖の先に有る指輪、それを見てもトモエの素性が解らぬ相手ではあるらしい。闘技大会の事を含めたところで、オユキと違ってトモエはこちらでよくある姿形をしており衣服にしても、まぁ、らしい物だ。分かれというほうが無理があるという物だ。


「それでは、改めまして。この身はトモエ。今はマリーア公爵のご厚情に甘えさせて頂いております、狩猟者。」

「何と。これは馬上から失礼を。」

「いえ、この在り様で理解を望むのは、あまりにも。」

「ご厚情、真に有難く。」


何処までの立場を伝えればよいのか、トモエで分かる物では無い。最も無難な物で十分な理解が得られたのであれば、僥倖とそう言うしかない物だ。


「騎士様方の道行き、我らの助けとなる者達の護衛までを行って頂いている方には、真に心苦しいのですが。」


そして、トモエからは懸念事項として、今現在の始まりの町、その門前の状況を伝える。門番たちにしても、これほどの一団が急き切って近寄れば狩猟者見習いたちが訓練していることもある、無用な警戒をし、彼らの護衛対象たちに対しても過剰な負荷を与える緊迫感が生まれるだろう。


「相分かった。速やかな武装解除も含めて、この度の協力真に有難く。」

「由を辿れば、私たちにも関する事ですから。それとこちらの二人は、今はリース伯子女の下で雑事をこなしても居ります。御許しを頂けるのであれば。」

「成程。なんとも有難い事であるな。我らよりも先触れを出す。済まぬが、このまましばし待っていただいても。」

「勿論ですとも。」


そこまで話が進めば、寄ってきた騎兵のうち一人がすぐさま取って返し、未だ少し離れた一団へと向かっていく。そして残りの三人は馬から降り、武器を納めた上で兜を取る。


「トモエ殿は流石かの神の名の下に開かれた大会の勝者というべきか。我らの在り様をよく理解されているようだ。」

「恐れ入ります。」

「リース伯子女の配下の者達にしても、済まなかったな。結界の内とは言え、壁の外。武器を手放すのには抵抗もあっただろう。」

「いや、流石に今なら拾って間に合うしな。ああ、その申し訳ない。」


どうやら所作を先に、言葉遣いは後回しになっている物らしい。


「何、突然の事だ、構わぬとも。番号は違えども、騎士であることに変わりない。民に膝を着かせる振る舞いなど我らのだれも望まぬとも。仕事を頼むことになるが、改めて名前を聞いても。」

「シグルドだ。案内だけなら出来るけど。それとねーちゃん今日は教会で祭りの相談するって言ってたから、そっちでいいのか。」

「予定も知っているのは猶の事有難いものだな。受け入れの準備を整えてもらわねばならぬから、直ぐに話が出来るのであれば、願ってもない。」

「分かった。なら教会だな。俺たちは馬ほど速く走れないが。」

「何、町中で襲歩等許されることもない。持ち込むものも多い故、どうした所で領主の許可が必要でな。」

「へー。こう、貴族様とかだと、すっと入ったり。」

「手続きの簡略化などは望めるが、それは事前に手続きを行ったから、そう言う事だ。我らが決まりを守らねばならんからな。」


そうして、少年たちが話している間に、後続の速度も落ち、そこから先ほど一人戻った相手が後ろに見覚えのある人物を乗せて戻ってくる。顔色が随分と悪いのは、まぁ、ここまでの道中が愉快な物だったのだと、そう一目でわかる。


「おー。」

「おや、そうなりましたか。」


随分と懐かしく感じる顔が、騎士の手によって馬から降ろされるとそのままそこに膝を着く。

初めて領都に訪れて以来となる、実に懐かしい顔だ。


「あー、大丈夫か。」


シグルドの掛ける声に、涙目で口元を抑えた上でのろのろと顔が上がる。

カレン。アマリーアが目をかけていた商業ギルドに所属する人物。貴族からの声を無視できぬ、起きた事にすぐに対応するために、動きを起こせる人物。要は貴族の一因として所属していた相手がそこにいる。


「お久しぶりですね、カレンさん。」

「顔見知りか。実に都合の良い事だな。」

「ご自身で歩けそうにはなさそうですし。」

「我らの一部が、この後すぐに移動をとも言われている。それもあって、守るべき者達には無理を押してもらうこととなった。」


さて、恐らく最低限の慣れのあるカレンでさえとなると、残りの積み荷。そちらに放り込まれている人々に至っては、考えるまでもなさそうだ。


「では、シグルド君。いえ、パウ君の方がいいですね。」

「分かった。ジーク狩猟者ギルドは任せる。」

「だな。俺がねーちゃんから手紙も預かってるし。」


それを口にしたところで、シグルドが思いついたとでも言うように口にする。


「ねーちゃんの知り合いだって、紋章付きの手紙も見せたほうが良いのか。」

「状況次第だな。こちらが不審を感じて止めたときには、見の証を立てる事を求める。その折にはやむなくということもあるだろうが、其の方はリース伯の縁者という訳でも無いのだろう。であるなら、彼の家の紋章を許可なく示すのは。」

「ああ。そりゃそうか。俺のもんじゃ無いしな。」

「その辺りは、状況次第であまりに煩雑だからな。今後も良く学ぶといい。今回については、トモエ殿が功績を示したうえで、身分を示したのだ。それでひとまず十分ではある。こちらが声をかける前に武装解除も行っておるしな。」

「成程なー。」


さて、今一つ良く分からないとばかりに頷いたシグルドはひとまず置いて起き、カレンを抱える騎士から目で合図をされたのでトモエもパウに声をかける。


「武器はシグルド君に預けますので。」

「流石に、俺が持つわけにはいかないか。」

「ええ。意味の無い負担は、相手に臨む物では無いでしょう。」

「分かった、では、教会まで。」

「ああ、少年、よろしく頼む。」


そうして先触れとして去っていく二人と一人の荷物を見送れば、改めてシグルドが首をかしげる。遅れていた馬車もすっかりと追いつき、門からは少し離れた壁沿いの結界の中、なかなかの集団が出来上がっている。


「で、俺らは、このままって訳にもいかないよな。」

「アーサーさんに説明して、交替となりますね。後はシグルド君たちは狩猟者ギルドで。私はオユキさんや、既にこちらに居る第二の方に説明、ですね。ですから本日の狩猟、それについてはお願いしますね。」

「ああ、分かった。」

「手間をかけるな。」

「いいさ。たまたま俺らがここにいて省ける手間が大いってんなら、皆喜ぶいい事だからな。」


そう笑いながら言い切った上で、シグルドが改めてトモエよりも方が高い位置にある馬を見上げる。先ほどまで走っている姿からは想像できないほどに、今は大人しくしているのだが首の太さは優にトモエの胴体を超える様な、そう言った生き物だ。人間の方は止まった馬車から降りてくるものもいないというのに、まだまだ余裕があると、それを感じさせる佇まい。


「一回ぐらい乗ってみたいんだよな。」

「生憎と、私の相棒は乗り手を選ぶからな。認められる迄、私も随分と手酷くやられたものだ。」


そうして騎士が笑いながら馬の首筋を軽くたたけば、笑うように軽くいななく。


「利発な子ですね。」

「ああ。それ故困ることも多いのだがな。さて、では、我らも案内を頼む。積み荷の確認も町に入る前には必要であろう。」

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