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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
13章 千早振る神に臨むと謳いあげ
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第450話 吹く風に

オユキが治療と諸々の手配に駆り出されるとなれば、トモエはやはり手が空く。負傷している状態で一人にするのが不安ではないかと言えば、確かにとも思うのだが。

そもそも、全ての相手を敵として見る、そう言った精神性があったところでそれはあくまで戦う場合に限るのだ。常の中では相手がそれをしない、それくらいの認識もあるため、トモエはトモエで動き回ることになる。さしあたっては面倒見ている子供たち、移動に時間を取られ、どうしても鍛錬として間の空く相手からとなるが。


「お、あんちゃん、この前ぶり。」

「ええ。少し間が空いてしまいましたが、旅の疲れは大丈夫でしょうか。」

「以前よりも、楽だ。慣れなのか、それ以外かは分からんが。」


少年達を探そうと、そんな事も考えてはいるがまずは鍛錬の準備とばかりに狩猟者ギルドに行けば、都合よく探している相手にばったりと会う。ティファニアを始めとする領都組も一緒にいるが少女三人組がいないあたり、なかなかこちらも忙しいようではある。


「アナさん達は、やはり。」

「ああ。リーアも持祭の位を得たし、助祭と修道女に絞られてるな。」

「それな。なんか、預かってた手紙にこのあたり直したほうが、みたいなのがあったみたいでさ。」


そこで言葉を切って子供たちが身震いをする。

どうやら、王都から持ち帰った手紙に用事を行う少女二人の様子もきっちりと書かれていたものであるらしい。見慣れぬトモエからしてもぎこちない動きではあったのだ。今後増える事は想像に難くないこともあり、今頃さぞ徹底的に絞られている物だろう。

ただ、こちらの教会に突然大荷物を運びこんだ時、出発する前の果実酒を初めて備えたときなど、実に慣れた動きを見せていたことを考えれば、後は離れの問題だと、トモエからはそう見える。


「緊張ばかりは、仕方ないと思いますが。」

「あー、なんか、緊張するのは甘やかしすぎたからかもしれないとかでさ。」

「ああ。」


そう言った考えもトモエは理解できる。


「そうですね。本番、日常を過ごす姿とは全く違う、そう言った空気を作れなかったと。そう己を恥じているからこそ、結果として練習の場は厳しくなったようにも取れますからね。」

「シグルドから聞いたが、大会の時には。」

「ええ、望まれたので、そのように。」

「いや、今でも思い出すと、軽く震えるくらいだったけどさ。」


鍛錬、本番を想定したそれ。その差に思いを馳せながらトモエがフォローを入れれば少年たちも理解はしているらしい、年に似合わぬ苦笑いと共に言葉が返ってくる。どうやら、そう言った表情を浮かべるほどに、徹底的に絞られているらしい。

ロザリア、あの司教であれば、それこそ少女たちが神に向かって吐いた大言壮語もきっちりと伝え聞いているのだろうから。


「俺も、一度とそう思ってしまうが。結局俺の時はいつも通りだったしな。」

「そうですね。望まれれば、それもいいかとは思うのですが。」


ただ、トモエとしてはそこが難しい線でもある。


「パウ君が、本当に私を超えようと、勝とうと思うのであれば、そう言った形の相対もお受けしましょうか。」


そう。勝とうと、そう望んでいない相手に迄トモエは本気で向き合わないのだから。


「ああ。そうなるか。」


パウはあくまで鍛えるのが、己がまだ見ぬ先に向けて歩くのが楽しいと、そう考えているに過ぎない。誰か、狩猟者の息子とそう言っていた以上その相手を追っているのだろう。その視線の先にはトモエとオユキ以外の影がある。シグルドとはやはり違う。十人十色その言葉通りに。


「シグルドさんは、本気で勝つつもりなんですね。」

「ああ。」


ティファニアの言葉に、実に軽くシグルドが頷く。


「そっか。お前らはいなかったもんな。」


そして、シグルドが話すのは以前トモエが話した言葉を彼なりに咀嚼したものだ。


「あんちゃんが言ってたけど、強い相手に勝つために、そう考えて皆頑張って来たらしいからな。あんちゃんもオユキも、騎士様に勝った。決まりごとはあったけど、それでもさ。

 なら、俺だって、そう思うからな。アンにはまぁ、いろいろ言われるけどさ。」

「教える側としては、嬉しい心構えですよ。パウ君のようにただ己の目指す先を楽しいと思いながら進んでくれるのも、勿論喜ばしいのですけれど。」


そう、どちらの姿勢も嬉しい事には間違いない。それこそ、トモエの示す道以外、その階のためにと足を置いている子供たちにしても。


「ティファニアさん達のように、私の、先達の技術が確かに己の助けになる、そう信じてもらえるのも勿論嬉しいのですよね。」


それこそ、戦と武技の神。この道の全ての先にいる存在の言葉では無いのだが。


「向き合い方はそれぞれ。ただ等しく真摯に、確かに役に立つ、真剣に向き合って頂ける。それは当然嬉しい物です。」


以前とは違い、未知の先が行き詰っていない。その素晴らしさがここにある。トモエとしてはそのような物だ。


「私の示す物、それに真っ向から向き合って頂けるのであれば、受け取り方はそれぞれで構いませんとも。

 さて、こうしてここにいる問う事は。」


話はそこまで。互いになんだかんだと忙しいのだと、トモエは話を切り上げる。


「体動かさなきゃって、そう思うんだけどさ。」

「丸兎相手では、その気持ちは分かりますとも。ですが。」

「ま、必要はわかるさ。」

「ええ、ではその中でも出来る訓練、それをお伝えしましょうか。」


状況に合わせて。そもそも手ごろな獲物などいない世界で研鑽を積んできたのだ。方法などそれこそいくらでもある。これまでであれば、何処か及び腰になっても乗って来ただろうに、シグルドはしかし困り顔を浮かべる。


「あー、それも嬉しいんだけどさ。」

「成程。」


一体誰に対して遠慮を、申し訳なさを覚えるのか、それについては実にわかりやすい。

これまでは必ず5人そろって鍛錬をしてきたのだ。少なくともトモエのいる前では。


「それを望むのであれば、そのように。ですが。」


勿論気持ちはわかる。トモエにしても、その辺り申し訳なさというのはオユキに対して常に感じている。


「オユキさんもそうですが、一度話し合うといいでしょうね。」

「ま、そうだよな。」

「俺は、自分の道を歩く事を決めている。守るのが役割だとも考えてるしな。」

「分担はあってもいいと思うけど、機会が無いって言うのはな。」

「アナさんとセシリアさんは、神々の前で言い切りましたからね。今後もそう言う場面は増えるでしょう。よく話し合い、より良いと、自分の納得できる道をそれぞれ探すといいでしょう。道に迷うのも良いものです。これまで気が付かなった物、見落としたもの、そう言った物に目を向けられるのですから。」


足を止め、迷い、同じ場所を回らねば、周囲を改めて見なければ目を向ける事もなかったことというのがいくらでもあるのだ。全てを気にすることができるほど、生き物の時間は長くない。それこそ一歩たりとも進まない、そう言った状況でもその場の理解は進み、深さを増す。勿論そうならない事は大いにあるが、そこはそれ。


「繰り返しになりますが、今後も皆さんで。そう思うのであればこそ。」

「あー。そうだな。色々話してみる。」

「そうだな。」

「皆さんも、騎士、その中でも色々と見る事になったと思いますが。」


そして、それを他人ごととして聞く子供たちにも向けてトモエは言葉を作る。騎士、それに種類が多い事は王都で目にしただろう。本当に、自分たちの観光その枠を超えてよい経験がそれぞれにあったと、そう思える機会であったとトモエとしては満足のいくものだった。神殿、主目的が少々おざなりになったのはいけないが、なんだかんだとオユキと共に、王都の名所を回ったりもしたのだから。


「はい。騎士様も色々でした。」

「今から選ばなくてもいいとは思いますが、より具体的に目標を持っている方が何かと良いでしょうから。」


どうにも、その辺りはトモエはオユキ程上手く伝えられる物では無いのだが。それをするには、やはり経験という物がトモエにも足りていない。そう言った生活を続けた結果と、そう言うしかない。

今のような振る舞いにしても、オユキと出会ってから、時間を使うようになってから身に着けだした結果なのだ。元々それを得意としていたオユキと比べれば、拙い。それこそトモエが刀を振るのと、オユキが振るのと。その程度の差がある事柄になっている。

現に子供たちも、分かったような分からないような。これまで教えてきた相手がそう言うのだからと、良くない飲み込み方をしている。過去であれば、それこそオユキが直ぐに対応を行ったものだが。今は生憎。


「改めて、先達の方に色々と聞くのが良いのでしょう。私も騎士ではありません。実際の仕事であったり、これまでアベルさんに求めたように、それこそ他の方からも。」


今となっては少年たちに付随する形でメイの側で暮らしている子供たち。

王都の騎士団ではないが、目標に近い職を得ている相手から話を聞いた方が良く分かると、問題を丸ごとトモエはそちらに投げる。技術指導は間違いなく行える、その程度の自負はあるのだが、進路指導は就労経験もない身には勝過ぎる。


「魔石、メイ様も必要とするそれを求めがてら、まずは簡単に旅の間に生まれたずれ、それを直しましょうか。」

「あー、前よりはましだったけど、あるよな。」

「はい。残念ながら。」


常の動きとは違う。ほとんどを馬車の中、木の板の上で碌に体も動かせずに座っていれば不都合などいくらでも出て来る。その中でもトモエやオユキは体の各部に意識を向けて、細かな動きを制御したりと出来る事をしているのだが彼らにはまだ早すぎる。大きな動きとして型を教えている途中なのだ。分かりやすいそれが出来なうちに、細かい事などできるはずもない。


「ガキどもにも、しっかり肉食わせてやりたいしな。」

「ああ、お祭りの準備で、みな頑張っているしな。」

「鹿は流石に難しいですが、そうですね。全員が満足できる程度には狩りましょうか。」

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ツギクルバナー アルファポリス
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