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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
13章 千早振る神に臨むと謳いあげ
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第445話 長き夏にも

「オユキさんは、特にこういった時間を好むと伺っていますが。」


夏の長い夜。トモエとオユキの寝室には氷柱が並んでいるため、気温はそれを感じさせるものではないが、魔道具だろう馴染み深い揺れない明りが部屋を照らす中で、ぼんやりとした時間を過ごしていると、シェリアが思い出したようにそうオユキに話を振る。


「そうですね。その、社交という意味合いでは無いので、気を揉ませるかとは。」

「いえ、貴族の方の中にも、好む方は多いのですが。」


近衛の仕事、そう言った話をあれこれと強請っている中で、ふと振られた話であるためオユキとしても、率直すぎる解答にはなる。

近衛、騎士所属であるのに、なぜ侍女に慣れているのか。そもそも、そこまでこの世界で警戒する必要があるのかなど、話の内容をシェリアとタルヤ、二人で選んでもらえたこともあるが、実に面白い物であった。

異邦との大きな違いは、やはり移動の難しさ、それに終始するものではあったが。

やはり話題の中心は王都であり、そこに令嬢、夫人が移動を等と言い出せばただの侍女では難しい。かつて、急ぎの移動で散々オユキが思い知ったように。今回、学び舎で最低限を行っていた令嬢二人に世話役が必要だったのと同じように、それに耐えられる人材が求められ、結果としてという事らしく、結果が同じように見える事でも、その過程に大きく違いがあるのだと大いに楽しんだという物だ。


「その、次に誘う方などは。」

「ああ。侍女の職務として、確かにそれは気になりますよね。」


申し訳なさそうに、仕事以外の場で仕事の話を持ち出すという申し訳なさだろう、それを感じさせるようにシェリアが言いにくそうにすれば、タルヤから。


「まずは、新居を得た、それを親しい方に。」

「となると、リース伯麾下の。」

「あの子たちも、暫くは忙しいでしょうし、先に異邦の知り合いをと。」

「となると、ミズキリ様でしたか。」


その名前が出れば、少々表情が硬くなるという物だ。問い詰める、その腹積もりであるのだから。


「はい。気になる方も多いでしょうから、狩猟者ギルドの長、ブルーノ様にも声をかけてと。」

「いえ、オユキ様は今は狩猟者の枠組みから外れていますので、ギルド長を招くのであれば。」

「まだ、籍は残っていますが。」

「この屋敷は、戦と武技の巫女、オユキ様へと。」

「成程。」


今後、この町をどうするのか。周囲をどう動かすのか。新人の扱いで巻き込んだブルーノもとオユキは考えるものだが、そこではしっかりと立場という物が立ちはだかるものである。


「であれば、各ギルドの長の方々もとなりますが、お会いした事が有るのは、ブルーノ様だけです。まずは面通しからとなりますか。あまりそこに時間を使ってしまうと。」

「そこは、狩猟者ギルドの長に対して、巫女オユキ様から配慮を求めればよいのですが。」

「そこまでの集まりにして、他の有力者については。」

「代官を正式に務めるメイ様、先代の代官であるリュシュリー子爵にはお誘いがいる物かと。」


ここに来て、初めて元代官。恐らく今もほとんどの職務は行っている相手の家名を聞くことになった。見慣れた紋章以外を持つ馬車が始まりの町を出入りすることもある以上、他の家の存在は理解していたものだが、それこそ、他にも居るのだろう。


「それについては、改めて手紙を用意しましょうか。ミズキリにはいよいよ申し訳ない場となりますが、まぁ、本人も理解しているでしょうし。」

「その、そもそもミズキリ様は。」

「私がこう振舞える、それだけの知識を与えたのがミズキリです。勿論、ミズキリが出来ない事を私が出来る、そう言った面も多くありますが事社交、対人関係に置いては私の出来る振舞い、その全てはそれ以上に出来ると考えてください。」

「そうですね。なんだかんだとお二人もオユキさんが分かりやすい、特に感情面や快不快ですが、それを示すことがままあるというのはご理解頂けていると思いますが。」


トモエからの実に率直な評価に、オユキとしては精神修養が足りぬと言われているようで気恥ずかしさは覚えるが。


「ミズキリさんは、その全てを計算として行えます。」


トモエの断言に、侍女二人、近衛としての経験からも来るのだろうが、苦笑いが返ってくる。


「そうですね。私としてもミズキリの目的、その予想はありますがそれを正確に得られはしないでしょう。」

「それは、神の審問の場でも。」

「その神から、創造神様から答えは得られぬと言われてもいます。付随する前提条件、それを使って直近とその先を誤解するように話を進められるでしょうね。」


長い付き合いで、その確信ははっきりとある。


「成程。それほどの方ですか。」

「はい。私の、ミズキリが起こした一段というのは、それこそ僅か一代で世界に、こちらで言えば複数の国に跨る大店、そうなりました。その原動力でもあった人物です。」

「そのような方に見初められた方々が、既にこちらで放たれているという事ですか。オユキ様も。」

「いえ、私は、どうなのでしょう。」


他の物たちは、なんだかんだとミズキリとの分かりやすい接点が存在していたものだ。しかし、オユキについては、良く分からない。それこそ初めの接点は、ゲームの中でなのだ。

それも向こうから。当時は偶然を装ったが、思い返せば探していると、そうわかる振る舞いで。そして、企業、その根幹技術、他から抜きんでた目玉商品、それを用意したのがオユキである以上。


「果たして入れ子構造、因果関係。数学的に解が求められるなどという話も聞きましたが、それに従えば実に面白い予想が成り立つものですね。いえ、トラノスケさんの事を考えれば、確かに論理的な帰結は見られますか。集合論的な。」

「オユキさん。あまり自身の考えに没頭するものではありませんよ。思索として面白いのでしょうが、またいらぬ疑いを呼びますよ。」


切欠を得たこともあり、これまで。それこそこちらに来てから初めて分かった多くの事も含めて考えだせば、オユキは自身の試行に没頭し始める。トモエとしては、気のすむまでとしたいものでもあるし、よく見た光景で有り慣れもあるのだが、同席している二人はそうでは無い。結果としていらぬ警戒を産めば、また気疲れするのはオユキだからとトモエが声をかければ、直ぐにそれも終わる。


「ああ、いけませんね。失礼しました。いくつになっても治らぬ悪癖でして。」


そして、そこから抜けた直後の言葉は、今の己を顧みていない物でもあり、トモエとしては微笑ましい。これまでがそうであったように、オユキは今後もその思考を基軸に、己の納得のいく過程が生まれるまで、それを続けるのだろう。トモエが瞑想の中で、勝ち筋を見つけるまでそれを繰り返すように、想定のミズキリの立ち居振る舞い、それが新しく生まれた情報でどう変わるのか、それを検証していくのだろう。


「いえ、ただ、予想についてはお伺いしても。」

「そうですね。いえ、根底からお話ししていませんでしたか。アベルさんには伝えたようにも思いますが。」


そして、オユキが一先ずの予想を口にする。前提条件として、神々の予定表、そこに関与していることを話したうえで。そして、それだけでも面食らった様子を見せるあたり、アベルが共有していないのだとそういった事を改めて確認したうえで。


「この世界、それが完全に独立したものとして存在する道筋、それを考えたときに実に不足が多いのです。」


以前、トモエとも話した内容ではあるが。


「その解消、こちらで独自の物と出来るだけの道筋、それに大きく絡んでいるはずです。」

「その、不足、ですか。」

「はい。今後増える人口、それを支える生産基盤。移動を楽にするための方法、魔道具以外、それを補助とするために求められる技術、そう言った物です。

 それが悪いとも、こちらであれば自然とも思いますが、現状ではあまりに魔石に対する依存度が高すぎます。人が版図を広げてしまえば、それは破綻しますから。」


ダンジョン、新たな資源にしてもそうだ。距離が遠く、輸送能力が不十分。その環境下でダンジョンに依存する仕組みが出来上がってしまえば、その先にはあまりに分かりやすい結末が待っている。

魔石を持つ存在、魔物。それは人里の側では弱い。実際にどの程度の効率か迄はオユキの知るところではないが、それにしても需要と供給、今でも崩れているバランスのそれが、さらにひどいものになるというのは簡単に分かるという物だ。


「王太子様と既に縁を得ていて、交流もある。それを考えると先々、それに対する手でしょうからね。この後来るものも含めて、技術へのテコ入れと、魔石は、私たちが切欠を作りましたが明確な後押しをしたこともあります。底上げによって叶えるのでしょうね。」


その時には、巻き込まれたような顔をしてはいたが、どちらも。大きな動き、その最後の一押しはミズキリという人間が行っている。昔と変わらぬやり口に、オユキとしては、トモエとしてもしっかりとさしたい釘もあるという物だ。こちらでは、今の所トモエとのんびりと、すっかりと彼方に行った目標ではあるが、オユキはそれを諦めたわけでもないのですから。


「そこまで、出来る物ですか。」

「私は無理です。しかしミズキリはやるでしょう。」

「そうですね、流れというのでしょうか。周囲の人物が立場や私欲でどう動くか、それを考えるのが得意な方でしたから。」

「それにしても、王太子様まで。」

「私たちの予測でしかありませんが、その辺りは聞けば答えが返ってくるものでしょう。」


そこで驚きを作るシェリアに対して、オユキとしては疑問も浮かぶ。その辺りの確認を含めた場ではある。オユキがこうして話した分、それに対して不都合が無い程度は返ってくるだろうと、そう考えて改めて話を振る。


「アベルさんは、その辺りに直ぐに理解を示されましたが。」


つまり、なんだかんだとトモエとオユキの側で、マリーア公爵を時に飛ばしたうえで場を支配できるあの人物。それが一体どういった存在であるのか。

王妃から甥と呼ばれていたが、家名を考えれば王の血縁ではない。その人物が一体どういう存在なのかと。

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