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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
13章 千早振る神に臨むと謳いあげ
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第443話 頭たれ

どうした所で、ここにいる者達にとって優先順位が低い。解決のために席を離れたとして、その説明が終われば次にと話が流れていく。それを窘める視線をトモエから感じて、オユキが話題を戻す。


「またぞろ仕事の話ばかりとなりましたが、今は。」

「しかし、そちらもいよいよ。」

「いえ、解決策はあるわけですから。」

「しかし、護衛対象の巫女様方に、私どもの都合では。」

「構わないと、そう申し上げています。それに。」


そもそもこの件についてはオユキが取り持ち、更には神々の追認迄を頼んだのだ。こちらでの能力というのを考えれば、それに対して気を配ることも求められているとは分かっている。

それこそ、本来の流れ、それを考えたときに。


「それこそ、最後までとはいきませんが。」

「だが、二人にしても、移動を始めてしまえば。」


アベルの意見についても、オユキとしては理解できる。領の監督、事前に出来る事を任される二人は、国を越える移動についてくることは無い。つまり、それから時間がある。その期間でどうにかすればいい、その意見にしても最もではある。

ただ、それではまずいと、そう分かるものではあるのだ。


「先に延ばしたところで、どうなるものでもありません。それこそ、望まぬ形で無理に着地を見るだけでしょう。アイリスさんからも同意を得られましたし、早速明日、私たちは一日大人しくしていましょうか。」


幸い、と言っていい物か。この場にいる者達は、なすべきことは多いのだが急いでどうこうという物は無いのだ。なんとなれば、慣れた相手、神々の良き奉仕者である相手に対して急ぎの用件はあるが、それだけだ。

華と恋の神から認められた二人に、それを実感する時間を求めると言えば理解は得られるだろう。


「この後、ロザリア様に私からお願いの手紙は出しておきましょうか。」

「それでよいのなら、まぁ構わんが。」

「まぁ、いいんじゃないかしら。私も一度しっかりと休んで置いたほうが良いもの。」

「その、お二人ともなんだかんだとされていますが、まだ快復という訳ではありませんから。」


そっとカナリアから後押しとしてそう言われれば、一先ずは決まりという物だ。


「相も変わらず、面倒見がいい事だな。」

「縁のあった方くらいは、ですが。」


流石にトモエもオユキも、これが見も知らぬ相手であれば、ここまではしない。そもそも気が付くかどうか。そこからして怪しいものではある。


「ふむ、ちょうど戻ってきたか。」


そして、そういった事を残った者達で話していれば席を外していた二人も戻って来る。

何やらメイが疲労を堪えるように額を抑えているあたり、話し合いは難航したようではあるが。一方のクララが少々硬さが抜けているあたり、上手く事が運んだようではある。

どうにも、それを為したほうからしたら益体もない時間と、そのような風である辺りこちらの補填も必要だとオユキは頭に入れておく。

これに限らず、実に多くの事を流れの中で任せている事もある。

彼女の従者、それが十分と認められた折には、それこそイマノルとクララにしたのよりも手厚く、それが叶うならやらねばならないという物だ。


「お手間を頂、ありがとうございます。」

「いえ、大したことでは。」


トモエがかける声に、口ではそういう物の溜息が零れている。


「一先ず、私どもの方は明日は屋敷で過ごします。その時間でお二人は改めて。」

「その手配があるなら結構。ラスト子爵子女も、きちんと話し合うように。」

「分かりました。」


それにこれまでのように硬い所作で頷くでもなく、軽く返すあたり、過剰な緊張は抜けている物らしい。まだ気配は堅く、トモエとオユキがそうしているように、アベルとイマノルにしても自然体としてそうしているが、周囲には気を払っている。利き手、右手は常に力を入れず緩く開かれているあたりからも、立場も決めたという事なのだろう。


「そうですね。周りが変わったからと言って、培った物をすべて捨てるのは、勿体ないですから。」

「トモエさんは、そう考えますか。」


その様子に、トモエがクララに声をかければクララからは嬉しそうに返ってくる。メイはただ肩を落とすが。


「求められる事、その最低限をこなすことは必要になるとは思いますが、それ以外の部分はそれぞれに合う形にすればいいでしょう。」

「ええ、まぁ、そのような物ではありますが。」

「国ごとに違いが、立場によってもあるのですから。」

「ただ、まぁ。」


トモエとしては、そう言うものだが。オユキから見ても気になるところはあるという物だ。


「求められる振る舞い、そればかりは認めて頂かなければならないでしょうが。」

「公爵麾下で、領を分ける以上はな。イマノル、其の方もだ。レジス候が要所に置かれるとなれば、第二子息として、ラスト子爵家として、どちらの立場も求められる事になるからな。」

「実のところ、私が習う相手も今は用意が出来ておらず。」

「それこそ、マリーア公しかいないだろうな。今は難しいが、移動が始まれば、其の方らも暫くは領都だろう。」


そうアベルが言い切る。


「あら。マリーア公爵の案内で魔国迄運ぶかと思っていたけれど。」

「流石に、こちらで準備がいると分かっている以上、それも出来んからな。こちらでの饗応役に王太子妃様と、マリーア公は残さざるを得ん。」

「となると、まさか。」

「ああ、王太子と、それから川を挟まずに隣接しているアルゼオ公、ランドール伯を頼んでとなるだろうな。」


何とも、また大変な道行になりそうなものではある。


「となると、王都で顔合わせ、ですか。」

「いや、二人はどうだろうな。迎える準備もある。時間はあるが、間に合うかと言われれば、難しいな。事が事だ。」

「こちらの軍が他国の中を通る、それも含めて、まぁ為すべきことは多いですよね。」


そう話しが進めば、何やらクララが残念そうにする当たり気に入っていたのだろう。かつての立場という物が。


「その、流石にお二人は。今は剣を返していると、そう伺っていますし。」

「そうなのよね。残念だと、正直そう考えてもしまうのよ。」

「状況が落ち着けば、それこそ領を預かる身として先頭に立ち、それも増えて来るかとは思いますが。」

「ダンジョン、だったかしら。」


そこで嬉しそうに返すクララに、メイが大きくため息をつく。


「似通った性質のものは一所に集うとは聞きますが。」

「私たちの世界にも、そのような言葉が有りましたね。」

「何故私の下には、集まらないのかと。そう聞いても。」

「リヒャルト様や、ファルコ様が補佐を頼んだ方が居られるでしょうに。」

「期限付きで、当家の物では無い、そう言ったつもりですが。」


それを言えば、ここにいる物はまとめてそうでは無い。


「全く。気を回すかと思えば、直ぐに。」

「言い訳にしかなりませんが、習い性としか言いようが有りませんね。こちらでは、やはり晩餐と分けて。」

「ええ。そうでなければ、形式を分ける必要もありませんもの。」


そうして、メイが改めて大きくため息をつく。


「先々、オユキは特に誘われることもあるでしょうに。」

「簡単な流れは公爵夫人から習っているのですが。」


だからこそ、前置きとして互いの衣装や装飾に触れられたというのもある。向こうであれば、ともすればマナー違反となる場面も多く、避けるのが常ではあったのだから。


「その流れに従えば、次は席に擁した物の紹介があるでしょうに。」

「どうにも、急ごしらえというのがあるものですから。」

「赤を多く使うのは、こちらではオユキの立場を考えて納得される物ですが、何か来歴などは。」


聞かれたオユキは、頭の中で考えるためにと置かれたお茶に口を付けて少し時間を作る。思えば事ここに至るまで誰も用意された物に手を付けていない。勧めていないこともあるが、こちらでは特に招いた側が先に口を付けなければいけないということもある。

その辺りも含めて、オユキの失態ではある。既に聞いた事なのだから。それもあって、少々侍女からの視線がいたかったのだろうと、そんな事も考えて、思考もまとまったためカップを降ろす。


「さて、こちらが一方的に話す事にもなりますし、少々煩雑なこともあります。皆さまもどうぞ楽に、茶菓の共としてお聞きいただければ。」


そうしてそれぞれに口を付ける様子を見ながら、こちらでの製法は確認していないため分からない、そう前置きをしたうえで漆の種類、混ぜる顔料などにも触れ簡単に話す。

そして、本来であれば、というほどでもないが神々に関わる者であれば、漆では無く丹塗り、膠水に硫化水銀を混ぜた物を使うのだということまで。


「話の半分も分かりませんでしたが。」

「こうして朱漆がある以上、硫化水銀、ええと辰砂でしたか。それもあるとは思うのですが。ただ、カドミウムを赤の顔料として用いることもありましたし、こちらで同じ原子区分なのかと言われると疑問もあるのですよね。同定作業を行えるほどの知識もありませんし、必要な設備も分かりませんから。」

「辰砂なら、私たちの国からこっちに出しているはずよ。今周りにあるものは匂いが違うから、別の顔料でしょうけど。」


そして、それについては非常に心強い存在がいる物だ。


「匂いで、分かるものなのですか。」


流石にオユキはそこまで覚えている物でもないが。


「どういえばいいのかしら、ハヤト様も無臭のはずだと仰っていたけれど、内包するマナであったり、存在を示す構成要素それ自体は嗅覚である程度判別できるのよね。」

「何とも。」

「あの、そのあたりは種族それぞれですから。流石に翼人種はそんなに鼻は利きませんよ。大気に流れる風やマナは目視できますけど。」


トモエがアイリスの言葉に驚いて、カナリアに視線を向ければより驚く答えが返ってくる。

流石は、というしかないが、異なる種族。それぞれに大いに特性が異なっているものであるらしい。見た目はそこまで代わりが無いというのに。

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