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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
13章 千早振る神に臨むと謳いあげ
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第441話 三伏に

「皆さま、どうぞつまらぬ評はそこまでに。」


切欠は、それこそオユキが気を遣っての事ではあったが、いつの間にやら話が望まぬ方向に転がり始めた。

騎士団における振る舞い、そもそもラスト子爵家における教育など。恐らく、クララの抱える物とは異なる方向に。オユキはすっかりと口を閉ざした理由、それが違うと分かったのは、何やら考えるそぶりのメイと、クララの少し悲し気な空気によるものであった。

元の経験からというには、トモエはそう言った気質を一切持っていない。気が付けというのも無理な話だろう。ただ、オユキが視線で示せば、何かあると、それを理解してはくれる。そして、そう言った物に、創作物と言えど、それを主題とした作品に多く振れたトモエに預ける。今となってはオユキがすべきと理解はしているが、それをするにはあまりに経験も知識も足りないのだから。

どうにも、異性という物が側にほとんどいなかった人生を送ってきているのだ、オユキは。

トモエはむしろ異性に囲まれて暮らしていたが、それもまた毛色と意味合いが違う。だから、こうして水を向ける、正しく助けるための手を打つのが遅れると御いう物だ。


「メイ様、一度クララ様とお時間を取って頂いても。」

「ええ、勿論です。」

「では、叶うなら、今。」


トモエがそうメイを急かす。


「主催はオユキですから。」

「シェリア、部屋の用意を。メイ様、クララさんをお願いしますね。」


トモエがそれが良いと判断したのだからと、オユキは振られたことに対して直ぐに追認する。それこそ、本来であればオユキが行う事だろうが、色々と触りもある。アイリスにしても、頼むのは色々と難しい。

文化、風習が大いに異なるのだから。

今も、何やらまたぞろよく分からない事が始まったと、そう言った風情である。そうして、二人の女性を送り出した後、それでもお茶会は続く。主賓が席を外したとして、招いた相手は同居人ではあるが、まだこの場に残っているのだから。


「不作法を。」

「いや、それで問題が解決するのなら。」

「問題というほどの事でもありません。そして、原因はやはりイマノルさんに有りますが。」


アベルが場を取りなす言葉に、オユキが改めて確認も兼ねて口に出せば、トモエからも頷きが返ってくる。

どうやら、予想している事で間違いはないらしい、そう思う反面、イマノルに責があるのは確かだが、瑕疵かと言われればまた違うのだとまた違うと頭を抱えたくなる。


「そう、なのですか。」

「いえ、責任、それを取るべきはイマノルさんですが。」

「オユキにしては、随分と濁したいい方ね。」

「責任の所在は明らかなのですが、では誰が悪いのか、それは話が別と言いますか。」


つまるところ、クララ、彼女は事今に至って現実感という物が無いのだろう。覚悟、それが有るのはわかるのだが、身の置き場を決められず、最も分かりやすいそれの示した方として騎士のそれを取っている。恐らくは。

慣れもある、分かりやすい強さもある、憧れの形でもあるそれを。

そして何より、イマノル、彼が隣に置いた形。

それをさせるイマノルに責任はある。それは彼が積み上げたこれまでとして、確かに。ただ、クララが他を知っていれば避けられた物でもある。それこそ、本来それを与えるためにラスト子爵家というのが存在しているのだ。しかし彼女の妹、それが注意するほどであるとするとと。

問題がある、それは事実だ。そして究極的な責任はイマノル。これは間違いが無いのだが。


「イマノルさんは、クララさんとしっかりと時間を取るのが良いかと。」


そう言ったあれこれを頭の中で転がした結果として、オユキからはそれ以上の言葉が無い。


「いや、今は無理だ。イマノルとクララにオユキ殿とトモエ殿、両名の護衛の責任を預けている。傭兵ギルドからも人を出しているし、騎士団にも理解があるのでな。」

「アベルさんが統括されていると考えていましたが。」

「生憎、アイリス殿もいる。」


どうやら、勘違いがあったようだと。そうであるなら責任はこちらにもあるのだと、オユキとしてはより一層難しい状況に思わず額を抑える。見た目、イマノルとクララからの認識はどうあれ、先達としてオユキは接しているつもりなのだ。だからこそ、王都で世話とて焼いた。これまでのお礼も含めての事ではあったのだが。


「巻き込んだ、そう言ってしまえば、結局は私たちですか。」

「そう、背負い込むのもどうかとは思うのだが。極論してしまえば、お二人から始まったのも事実ではあるのだ。」

「こちら、休日の概念は。」

「私たちは護衛としての任も得ている。」

「アイリスさん、屋敷の一室で、一日大人しくしていましょうと、そうお誘いしても。」


護衛、その手を空けるのならば、何処か一か所にこもり、そこから動かぬと言い切るしかない。

それぞれに動く現状では、どうしても統括する人間がそれぞれにいるのだから。


「そう、ね。私としても色々と聞きたいことは増えてきたもの。一度まとめるのもいいのかしら。祭りの段取りもあるし。」

「祭りの段取り、ですか。」


それはアイリスが部族の物として間違いなく、そうでは無かったのかとオユキとしては疑問を返すしかない。


「ええ、部族の衣装は間に合わないと思っていたのだけれど。」

「予測でしかありませんが、私たちの物とはかなり違うと考えていますが。」

「ええ、でも、刺繍。この短い間でも間に合ったようだもの。どう作るかは覚えていないけれど、刺繍の図案はそれなりに覚えているし、間に合うなら頼みたいもの。」

「トモエさん。恐らくは。」


オユキは予測として異邦の地名、それを上げて確認をする。恐らく、今この場にいる相手では、トモエ以外には伝わるまいと。大陸、そこに住まう遊牧民、その一つ。その刻銘を告げれば、トモエが侍女に頼んで用意させた道具を使って、簡単に図案を起こしてアイリスに確認を取る。


「あら、本当に良く知っているわね。」

「そちらの国物とは違うようだが。」

「国では無く、部族の物だもの。降臨祭なら、部族ごとだし。」


獣、その特徴を持つ種族の集合体として、実に多様な文化を内包している物らしい。


「ふむ。具体的には聞かねばならんが。」

「トモエとオユキが布を持ってきているでしょう、それを使ってもいいなら、後は刺繍だけよ。」

「すまぬが。」

「王家、公爵家からの下賜品ですが、それをアイリスさんに渡してもいいのでしょうか。アイリスさんの物とは分けられていましたから。」


布にしても、愉快な量を始まりの町まで持ち帰っている。

色々とあったことに対して、礼として下賜された品々だ。身内に下げ渡す、若しくは功績を上げた物に来歴を伝えて下賜するならまだしもと。そう考えたオユキがアベルに確認を取る。


「アイリス殿は、受け取った中には。」

「素材は同じと分かるものはあったけれど、色味が合わないのよね。」

「ならば、やむを得ないか。オユキ殿とアイリス殿から、それぞれに断りは頂かねばならんが、神事ではある。」

「優先すべきはという事ですか。ならば、私どもに否はありません。どのみち持て余していますから。」

「今の装いも似合っているのだから、季節に合わせた物も作れば、今ある分くらいは無くなるんじゃないかしら。」


言われた言葉に、オユキはトモエを見る。領都、そこで見つけた今着こんでいる和装を誂えるのにいくらか布を渡したはずだ。なら残したものは何かの用途を考えての物なのかと。


「季節ごとも考えていますが、生憎気候と意匠に疎いのですよね。こちらの物はやはり今一つ映えませんから。絵羽模様も誂えたいですし、オユキさんには打掛もと考えているのですが。」


どうやら、しっかりと計画があったらしい。


「知らない物のようね。」

「ふむ、礼装に重ねるマントに近い、上掛けとも聞こえたが、そうであるなら王妃様に相談した方が良いだろうな。」

「おや、何か作法が。」

「ああ。位によって使える装飾などが決まっている。なんにせよ、最低でも金糸で刺繍は行うものであるしな。トモエであれば、先の大会の初代の勝者でもある。それを示すための物として、その用意を考えてもいたはずだ。」


権威の象徴。その来歴がこちらでも生きているものであるらしい。


「家としての紋章は、印が届いたのを考えれば、終わっているかとも思いますが。」

「いや、そればかりは年始だな。新しい家を正式に認めるのは、そこでとなる。」


オユキとしては、アベルのその言葉に対して首を捻る。


「登城を求められていませんが。」

「しないという選択肢があると思っているのか。」

「いえ、時期によっては。」


人の世よりも優先すべき事柄、それが持ち込まれると分かっているのだ。

ならばこれまで同様。それを置いてもまずは移動をと、そう望まれるものだと考えていた。少年たちは、王都から先は付いてくることは無いだろう。如何に異なる世界と言えど、新しい年、それを祝う祭りがあるのなら、そこに選択肢という物は存在しない。色々と変わった年でもある。ならば節目として、信心深いあの子供たちであれば、猶の事という物だ。


「いや、そうか。そちらもあるな。だが。」


オユキの返答に、今度はアベルが大いに頭を悩ませる。


「アイリスさんは。」

「まぁ、今はこうして部族から出ているもの、気にしないわよ。私たちにとっては、降臨祭の方が重要ということもあるけれど。」

「祖霊、それを祀るのが第一であるなら、そうなりますか。」


そうして、話はそれはしたが、それもひと段落着く。ならば、話は元に戻るという物だ。少々不安げにクララの去ったほうを見る、そう言った様子を見せてはいるのだが、イマノルにしても想像が難しい事柄なのだろう。


「さて、話が大いに脇道に逸れましたが、クララさんは不安なのですよ。」

「それは、私も理解しています。その、あまりに急に状況が変わりましたから。」

「ええ。それについては私も責任を感じますが。」


ただ、オユキとしては、それに安心を与えられるのはイマノルしかいないとも思う。そうであって欲しいとも。隣に立つ、そう決めた相手ならばと。過去オユキがそう心掛けてきたように。

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