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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
13章 千早振る神に臨むと謳いあげ
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第440話 影の下

話題は誰かが口を開くたびに移り行く。それだけ確認しなければならない事が多く、期間もない。端的に言えば、それらを管理する側が、焦っている。そんな状況に、珍しく、という訳でも無いのだろうが。


「お嬢様。」


ゲラルドが、確認に終始するメイに声をかける。


「分かってはいるのですが。」

「主催である私が、本来はするべきでしたね。」


メイに声を掛けはするが、視線はオユキに向いている。

そして、こういった事に最も知識を持っているだろうアベルにしても、罰が悪そうに頬を軽く掻く。側に控えている侍女たちにしても、少し恥ずかし気にうつむく。

つまりは、それほどの失態ではあるらしい。


「本日は、お礼を言うため。口実ではありますが、だからこそ。」

「ええ。此処は会議の場では無く、茶会。その通りですね。」


一応、オユキとトモエに向けて貸し出されてはいるが、メイをお嬢様と呼ぶ当たり、やはりとそんな事をオユキは考えながらも、改めて軌道修正を図る。特に、この席に招いているというのに、一言も話していない相手もいるのだ。順序という面で考えれば、やむを得ない為先に褒める相手もいるが。


「メイ様も、装飾を新しくされたのですね。」

「はい。先の事で陛下より直々に頂きました。」


大粒の石、白く輝く真珠ともまた違う石を中央にあしらい、両脇に黒と赤を飾った首飾りをメイは身に着けている。


「よくお似合いかと。」

「ええ。オユキも巫女としての務めを行った時の物に似ていますが、また風情が異なりますね。」

「こちらは、私どものいた地では紬と呼ばれている物です。こちらにも絹が有ると思いませんでしたが。」


今はトモエとオユキ、図案は少々異なるし絵羽模様とまでは流石に期間が足りずにできていないが、それぞれに紬に羽織と、そう言った出で立ちでいる。


「あちらでは、少々普段着の意味合いが強い物ですので、少々席には合わないかとも思いますが。」

「紹介の意味を込めてという事でしょう、ならば十分ですとも。トモエとオユキ、対と分かる意匠でよく似合っていますよ。」


オユキが話の切欠を作れば、本来最初にするはずのそれを放って置いたと分かるメイが直ぐに乗ってくる。


「ありがとうございます。礼装も含めて、領都でお願いしているものもあります。出来上がった折には、またご紹介させて頂ければと。」

「まぁ、それは嬉しい事ですね。似てはいるけれど異なる、彼の神の名の下に行われた折に来ていたものは、何か名称が。」

「千早と呼んでるわね。着られるのは、祖霊を祀る役、こっちで言うなら巫女かしら。それにしても祭りの場だけだけれど。」

「他にも舞衣などという名称もありましたが。」


アイリスの説明に、トモエが少し言葉を足す。それについては、オユキにしても初耳ではあるが。それは置いて起き、オユキからも情報を加える。


「千早は、上着として来ていたもので、その下に白絹と袴、ですね。私共は鍛錬の折にも来ていたものなので、馴染みのある物ではありますが。」

「神事に臨むにあたって、訓練で身に着ける物ですが。」

「戦と武技の神、彼の神の素性を考えれば、実にらしいとそう思いますが。」


オユキの加えた情報に、メイが額を抑えてため息をつく。

そうされたところで、神授の品。それを身に着けて行えとの使命なのだ。他に選択肢等あるはずもない。


「アベルさんも、これまで見た装いとまた異なりますね。」

「ああ。今回はアイリスの後見というか、まぁ、その辺りは細かく決められていないが、その立場だからだ。」

「どうにも、普段との差に驚きますが、よくお似合いかと。」


アベルにしても、礼装、これまで数度行った式典で身に着けていた物では無く、それでも普段着とも違う。そう言ったちょうど中間のような装いだ。夜会にそのまま行けるかと言えば、そこまで華美ではないが、それでもきちんと飾り立てられた盛装ではある。普段以上に整え、香油が日を美しく返す髪、体を一回りい大きく覆うジャケットの下にはベストを着込み、オユキにとっても実に懐かしいウィンザーノットに結んだタイを身に着けている。


「久しぶりにこういった装いをすることになった物だが、体が覚えていて助かったものだ。オユキも、かわいらしい装いだ。合わせが前面に来るのを、こちらでどう受け取るのかが難しいのだが。トモエも良く似合っている。寧ろ、これまでの物より良く馴染むと、そう言った印象だな。」

「お褒め頂きありがとうございます。なにかと、便利ですから。」

「頼むから、こういった席に迄かの神の理屈を持ち込んでくれるなよ。」


茶会、礼を告げる。その前置きがあるため、らしい言葉遣いに変えていたアベルのそれが大いに崩れる。


「順序が逆といいますか。これに合わせて、編み出したというのが正解ですね。」

「常在戦場か。」

「まさしく。」


合わせが前にある、つまりはそこに色々と仕込めるという物だ。広い袖口にしても。今はこちらで売っているものを使っているオユキの髪紐だが、いよいよ編まれた物を使ってとなれば、ちゃんと暗器としての使い方があるのだ。

トモエの言うように、常の装い、それに合わせて、常に身に着けているからこそ。


「テトラポダの物とは、また異なるが。」

「私たちの部族では、ハヤト様の残したものとして、形だけはあるわよ。こうして比べてしまうと、確かに完成度が低かったのだと、そう思うけれど。」

「私たちのいた場でも、稀な物ではありましたから。」


そもそも交流もほとんどなかった相手だ。神事に対して、どの程度の知識があったかなど分かりようもない。

そして、順に話を回していけば、ついには目標の人物へと水を向ける事になる。オユキですら扱いに困る、その人物に。侍女たちによって、外見だけは席に相応し用に整えられているが。


「クララさんも、よくお似合いですよ。イマノルさんと揃いの装飾というのも、取り持った立場として、嬉しく思います。」


最も、こちらの世界の事を考えれば、他の誰もが身に着けているように神の功績を隠す、それは難しい事だと分かるのだが。


「ありがとうございます、巫女様。」

「この場では、どうぞ楽に。巫女として招いたわけでは無く、オユキとして招いていますから。」


同じ空間で暮らしている。最も日々の事に関しては元上司のアベルを頼んでいるが、今この場ではイマノルよりも実にわかりやすい振る舞いだ。同じ境遇であったイマノルが、オユキから見ても不足が多く見えるというのに、それ以上のクララが席に座っている。

緊張の硬さは無いが、それ以上の空気を纏って座っている。その様子に元上司に視線が集中するのだが。


「生憎、こちらに関しては騎士団で教える事ではない。」

「こういった席の護衛、それも職務の内かとは思いますが。」

「それは第四の仕事ではない。」


ことこれに関しては、アベルが全力で逃げる構えを見せる。

確かに、彼にしても責任を取れと言われた所でという物なのだろうが。


「その、クララさん、いえ、ラスト子爵子女。」


メイにしても、困り顔と、実にわかりやすい様子で声をかける。始まりの町に戻るまでの間、オユキが書類仕事に勤しんでいる間にも、散々公爵夫人にやられていたはずではあるのだが。


「は、何でしょうかリース伯爵子女。」

「今は茶会の席で、貴女も参加しているのですよ。」

「勿論、そのように認識しております。」

「レジス侯爵子息。」


そのクララとのやり取りに、より一層険しい視線がイマノルに向けられる。アイリスにしても、口調は常の物、楽な席にしようとそうしているため、アベルとは違ってそうなっているだけなのだ。それ以外の振る舞いについて問題は無い。ただ、クララに関しては、話が違う。


「その、当家もこういった席とはあまり縁が無く。」

「リュディさんは問題が無いというのに。」

「リース伯子女、流石に護衛や防衛、魔物との戦い、それ以外は騎士団の管轄外だ。こうして私もレジス候子息も問題なく行えている。」

「先ほど話にも出たではありませんか。魔国との窓口になるなら、報告せざるを得ません。」

「それについては、私もまったく同意するものではあるが、ラスト子爵家の教えに問題があるという訳では無いのだろう。」


先ほどメイがリュディヴィエール、今はファルコの補佐を頼んでいる少女に問題は無いと、そう言ったこともある。ならば家としては問題が無いのだ。問題があるのは、今ここで同席する護衛、その振る舞いを取るクララなのだから。


「そうであるなら、やはり騎士団の責を問う事になるのでは。」

「先にも申し上げたように、我らの職責の範囲外の事です。」

「普段お話しさせて頂いている折には、リース伯子女とあまり変わらない振る舞いですから、意識の問題でしょうか。」


そうしてメイとアベルがやり合う横で、トモエがそのようにクララを評する。

このばで問題の無い振る舞いをするイマノル、それと同じだけの事をクララは平素出来ているのだ。そういった事を、同じ場で暮らす立場としてトモエが言及する。

用は不慣れ、それが有り。緊張の結果、こうして最も慣れた振る舞いを取るのだろう。そう考えるのなら、その責任はと、オユキの視線がイマノルに向かう。望んだのは確かにクララではあるのだが、その原因は、ついてくる彼女に甘えたのは貴方でしょうと。


「しかし、私も詳しくはないので。」

「少なくとも、こうっいった装いの慣れ、それができるだけの時間は。」

「いえ、それは。団ではどうしても時間が無く。」

「傭兵としての間は。」

「訓練に、忙しく。」


言いたいことは正しく伝わったようで、問答に淀みが無い。最も、その過程でメイからの視線が険しくなるものだが。トモエとオユキに対しても。


「私たちが縁をなることになった衣装、それを片手の指で足りるほどしか使わなかった、それでは説得力もないのではないかしら。」

「異邦の事を含めれば、先達であることは確かですから。」

「そうですね、年に少なくとも4回。折に触れて旅行をしていましたから。」


こちらでは叶ってはいないが、オユキもトモエを色々と連れ出したのだ。勿論、鍛錬、それができる場所であったりをオユキも考えての事ではあったが。温泉や、土地の食べ物。そう言った物をトモエが好んでいたからこそ、かつてはあちらこちらへとよく言った物だ。季節ごとに無理やり休みをもぎ取って。


「成程。レジス候子息は。」

「お恥ずかしながら。」

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